■プロローグ:楔の地 ~ Lost Doria ~
永く 命は尊ばれ 死は悼まれる 世界が形を変えてしまっても 変わらないものがある
隕石が『ロストドーリア(緑なき大地)』に落ちてから数千年。その大きさは隕石と表現するには少し大げさかもしれず、地表への到達時には子供の拳程度の、小石と呼べるようなものであった。しかし、隕石の衝突後、数千年経った今でもロストドーリアの中心地は生き物を寄せつけない灼熱の地となっており、昼夜問わずその気温は下がることがなかった。かつて、緑豊かであったこの土地は全て『アッシュランド(灰色の砂漠)』に変わり、『ドーリア(天然の果実)』が決して育つことのない死の大地となっている。それはまるで神の意志によって、『この場所に生命は存在してはならない』と定められているようであった。
ドーリアは空から照らすディア(天光)を受けることで生命活動に必要な栄養素を自ら生産して育つ。時を経て成長したドーリアは地面に種を撒き、枯れ、やがて土に還り、土が新たなドーリアの種を守り、繁殖を繰り返していく。ドーリアには元来、命をつなぐ力が備わっており、その生命活動の途中で何者かに摘み取られない限り、ゆっくりと大地を覆っていき、やがて砂漠すらも土に変えながら繁殖していくという、強い生命力をもっていた。
それではなぜ、ロストドーリアが隕石の落下地点を中心に、まるでその部分だけを丸く切り取られたようにアッシュランドのままであるのかは大きな謎であった。それゆえ、隕石はこの地にドーリアの繁殖を許さない『楔』のような何かを一緒に運んできたのではないかともいわれている。
古い言い伝えによると、遥か昔、この土地には自給自足の生活を営む『星詠みの民』と呼ばれる者達がいた。彼らはこの土地に訪れる脅威を何らかの方法で事前に察知し、隕石の衝突のほんの少し前、脅威から離れるように北の山岳地帯へ、あるいは南の未開の地へ旅立ったという。以来、再びこの土地に足を踏み入れようとする者はいなかったが、彼らの子孫の多くは、ロストドーリアからそれほど遠くない、栄養素の少ない痩せこけたドーリアが原生する土地に集い暮らしていた。ロストドーリアから離れるように、例えばもっと北へ行けば比較的涼しく、ドーリアも豊富かもしれないのだが、彼らは数百年もの間、この場所で暮らし続けている。新たに豊かな土地を探して暮らすよりも、故郷へ戻りたいという気持ちが強く残っているのだろうか。それとも、何者かがロストドーリアから呪いの楔を解き放ち、豊かな土地が復活することを夢みているのだろうか。
-ロストドーリアに生命は存在せず またこの先 生まれることもない-