弟子入り
名前も知らないドワーフのおっさんについて行って工房を見せてもらうことになった。魔法工具も見せてもらえる。……にしても初めて会った人にこれだけ優しくしてくれるというのは裏があるのではないのか、と思ってしまう。服装もどこかの民族衣装というには少し装飾の多い制服だ。それだけ人が多く出入りするということなのか?まぁ今は魔法工具を見せてもらうことが第一だ。
「着いたぜ、ここが俺の工房だ。」
着いた場所は意外と普通の工房だった。中の道具に気なになるものはあるが、特に変わったところはなかった。
「んで、これが魔工具。」
そう言って差し出してきたのは、(ドワーフの)手の平に乗るサイズの小さな機械だった。手にとって見てみると、正面に小さな宝玉が埋め込まれている。そこは魔法らしいな。にしても、
「こんなのが……?」
とてもじゃないがただの装飾品に見えなくもない。
「おいおい……ま、とにかく使ってみな。」
「え……」
「簡単さ。前に構えて魔力を込めりゃいい。」
まぁ、1度使って見れば分かるか。とりあえず、前に構えて……
そういや魔力ってどう込めるんだ?いろんな漫画とかなら先端に力を集中させるとかそんな感じだけど、とりあえずその感覚でやってみる。
すると、軽くだが、正面に着いている宝玉が光った。
「へぇ……ちゃんと使えるみたいだな。」
今のでいいのか…意外と簡単だな。にしても詠唱なしで魔法が使えるというのは強いな。
「で、あんたはどんなのを買いに来た?」
…あ。確かそんなことも言ってたな。
「これなら安くしとくぞ。補助系の魔法が使える。二つで銀貨60枚だ。」
他の奴らの強化や補助にもいいかも知れないな。でも……
「すみません、今持ち合わせが無くて…」
俺はこの世界に来たばかり。通貨なんて持ってるはずがない。
「なんだ金がないのか。なら……」
「?」
「その手に着けているそれと交換だ。」
腕時計のことか?確かにこっちに来て何回か見たけど大分ズレている。多分もう使いものにならないだろう。
「いいですけど、一つ良いですか。」
「ん、なんだ?」
戦闘は俺には向いてない。ならあいつらの補助をするその為には、
「俺に魔工具の製造法を教えてください!」
「ダメだ」
「……え?」
「これは俺達の仕事だ。他のやつに軽々しく教えれるモンじゃねぇ。」
そんな…だったらここに来た意味はなかったのか?
「ただ、その機械は別だ。」
「え?」
「それをくれるなら教えてやる。」
つまり、この時計だけでタダで教えてくれると?だったらこっちとしては願ったり叶ったりだ。
「お願いします!」
少し名残り惜しいがここでは使えない腕時計をドワーフのおっさんに渡す。
「おう、なんでも教えてやるよ!ちゃんとついてこいよ?」
「はい!」
こうして俺はここで魔法工具を習うためにこの人(?)に弟子入りすることになった。