コーンスープ
2月の初め頃、三学期の実力テストの日で、僕達はお疲れ様会と称して、いつもの様に会う事になった。テスト期間は部活がないので、みんなさっさと帰る。窓際の席には日差しが差し込んでぽかぽかと暖かいので、今日は教室にしようという事になった。これは彼女の提案で、居心地の良い場所をよく知っているなんて、また猫みたいだと思う。
「あ〜、あったかいねぇ。」
窓際の自分の机に頬杖をついて目を細めている。
「猫って、居心地が良い場所をよく知ってるんだよね。」
僕は机を挟んで向かい側の椅子に腰掛けた。
「また、猫扱いなのね。いつになったら人間扱いされるのかなぁ?」
彼女は苦笑いを浮かべて、呟いた。
「人間扱いしてるよ?」
「本当?」
そう言って彼女は僕に笑いかける。
彼女が僕に気を許してくれている事が、その態度から分かる。始めの警戒されていた頃に比べると格段の進歩で、自然と頬が緩んだ。
この前、また離れたと思っていた彼女との距離は、意外な事に少し縮まった。今は30センチメートルくらいだ。あの日から、彼女の態度が少し違っている様な気がする。何となくそう思うっていう程度だけれど…。
「今日はコーンスープにしてみたんだ。」
彼女は嬉しそうに話す。いつもは人気ですぐに売り切れてしまっているのだけれど、今日は残っていたらしい。自慢げに僕に缶のコーンスープを差し出した。ありがとうと受け取って、僕も今日のおやつのポテトチップスの袋を机に広げる。
パリパリと食べながら、もうすぐバレンタインだねなんて喋った。
「チョコって言えば、私貰ってばっかりだね。」
「逆チョコだね。」
「ふふ。本当だ。」
「バレンタインもあげようか?逆チョコ。」
「友チョコ?」
「いや、本命チョコ。僕、仁科さんが好きだから。」
あ、言っちゃった。彼女は目を見開いて、しばらく黙った。
「…私も堺君、好きだよ。」
予想外だったので、一瞬ビックリして固まってしまった。
「え。ホント?」
「ホント。でも付き合うのは今は無理かな…。」
「…そっか。」
舞い上がったのに落とされた気分だ。君はまだ怖がっているのかな…。喜んだ分、少し寂しさを感じてしまった。まぁ、仕方ない。焦らずにいようと気持ちを立て直す。
僕たちはまた、ポテトチップスを摘みながら、コーンスープを飲んだ。彼女が飲み終わった様で、缶の中を覗き込んでいる。
「缶のコーンスープのコーンって、最後絶対残るよね。」
「あぁ。本当だ。」
僕も缶の中を覗き込んだ。
好きだと言ってくれたけど、それは凄く嬉しいんだけど…。君はまだ、僕のモノにはなってくれないんだなぁ。ぼんやりとそんな事を考えた。
缶に引っかかって取れないコーンの粒みたいに、もどかしさを感じる。
「う、目の前にあるのに…。」
掴みたくても掴めない。そこに切なさを感じてしまう。
「…そんなにコーン好きなんだ?」
いや、君が好きなんだよ。僕は苦笑いをして、君を見詰めた。最近は少しぐらい見詰めても、嫌そうにはしない。
「好きだよ。」
僕は君を見詰めながら言う。
「…また、買ってくるね。」
君は気付いているのか、いないのか。視線を逸らしながら僕に言った。あ、見詰めすぎたかな。
一緒にいてくれてるって事は、居心地良く思ってくれてはいるのかな。いつかは、その柔らかそうな髪に触ってみたいななんて考えてしまった。
僕と彼女の距離、30センチメートル。




