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野良猫彼女と僕  作者: さきち
4/7

トラウマ

私はいつもの様に自販機で飲み物を買っていた。そこに鈴木君が来て思わず身構える。鈴木海君にされた事は、夏祭りでの思い出は、私の中でトラウマになっていた。二つ目のココアを買ってさっさとその場を離れたかったのに…。

鈴木君が私に話し掛けて来た。

「何で二本も買ってんの?」

「…別の人の分だから。」

「それって、堺の事?」

何で知ってるんだと思ったけれど、早く会話を終わらせたくて。

「…そう。」

とだけ答える。

「アイツと付き合ってんの?」

「…違う。」

「…俺見たんだよ。お前が堺と楽しそうに階段を降りて来るところ。」

「…だから何?」

「…俺はお前が好きなんだって言っただろ?どうしてアイツと一緒に過ごしてんの?何で笑いかけてんの?アイツのこと好きなの?」

彼は私の腕を掴んだ。

「触らないで!」

怖い!目に涙が滲んだ。だから嫌なんだ。近付く事すら避けていたのに。

「何でアイツは良くて、俺はダメなの?」

「堺君は、こんな事しない…。」

私は消え入りそうな声で彼に答える。彼の視線から逃れようと俯いた。

「堺…。」

鈴木君の声でハッとした。その場に堺君が現れた事に驚いて、固まってしまう。

「鈴木君、仁科さんが嫌がってる。放してあげたら?」

私の腕の拘束が解けて、自由になった。私は逃げる。鈴木君の声からも視線からも逃げたかった。走って走って、気が付いたら、屋上へ続く階段に居た。


扉を開けると冬の風が吹いていて、肌を刺す様な寒さを頬に感じる。私は温かい二本の缶をお腹に抱えて、座り込んだ。膝を抱えて俯く。涙が流れては落ちていくのを感じ、恐怖を洗い流した。もう大丈夫だと自分に言い聞かせる。

ギィと扉が開いた音がした。

「仁科さん、…大丈夫?」

心配そうな堺君の声がしたけど、私は振り返らない。こんな所を誰にも見られたくなかった。

「…堺君。ごめん。一人にして?」

「…分かった。」

パタンと扉が閉まる音がした。

私は、缶の飲み物が冷めるまで泣いていた。


涙が出てこなくなったので、教室に向かって歩いて行った。辺りはもう真っ暗になっている。

私の机の上にお菓子の箱が置いてあった。付箋が張り付いている。そこには『食べて!』とだけ書かれていて、彼の優しさが身に染みた。胸が温かいもので満たされる。また、涙が流れた。今度は嬉しくて。

鈴木君が言っていた、アイツのこと好きなの?という言葉が蘇った。


ああ、私…堺君が好きかもしれない…。


彼の置いていったチョコレートを食べる。苦味と甘さが舌の上で解けるように広がった。心まで解けていく様に感じて、また目が潤む。

私も自分の鞄から付箋とペンを取り出して、すっかり冷めてしまったココアの缶に貼り付ける。そして彼の机の上に置いた。『ありがとう』そう書いて。


文字が滲んで見えたけど、多分普通に書けただろう。


私と彼の距離、?メートル。

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