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野良猫彼女と僕  作者: さきち
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猫好きの彼

入学して同じクラスに、中学からの友達がいなかった私は、うまく馴染めるか心配だった。隣の席の子が話しかけてくれて、その子と仲良くなれた事に安堵する。その子は明るい子で、男子とも仲が良い。私も自然と男子と良く喋るようになった。


それが起こったのは夏祭りの夜。複数の男女で一緒に夏祭りを楽しんでいた。女の子はみんな浴衣を着て、私も同じく浴衣を着てまつりの雰囲気を味わう。気がつくと私と男の子と二人きりになっていて、はぐれてしまったと焦った。電話しても繋がらなくて、メッセージも既読にならない。不安がる私にその男の子は、仕方がないから一緒に花火を観ようと言う。

穴場だからと手を引かれて、連れて行かれた先は、人気がない場所で、更に不安が募った。

「なぁ雫、俺お前が好きなんだ。付き合ってくれない?」

「友達以上には思えないから…ごめんなさい。」

「…何で?お前俺の事好きだよな?」

「…友達としては好きだけど。付き合うとなると違うと言うか…。」

「他に好きな奴でもいるの?」

「いないけど。」

「嫌いじゃなければ、付き合えるでしょ?」

「好きにならないと付き合えないよ。」

なんで、白か黒か決めなきゃならないんだ。グレーでも良いじゃないか。好きか嫌いかだけじゃなくて、どちらでもない事だってあるのだから。

「好きになってよ。」

「無茶言わないでよ。」

私は踵を返して、その場を離れようと歩きだした。

「じゃあ好きにさせてみせるから…。」

そう言って、彼は私の肩を掴む。そして背後から抱きしめた。ゾワリと鳥肌が立つ。

「やめて!」

こんなの嫌だ!振り解こうと身を捩った。だけど、力が強くてびくともしない。嫌だ!嫌だ!嫌だ!やっとの事でその場にしゃがみ込んだ。動悸がして、目に涙が滲む。力が入ったからか鼻緒が食い込んで痛い。

その後、彼は謝ってくれたけれど、私は恐怖で笑顔が作れなかった。

花火が空に咲いては消えていく様子を無感動に眺めやる。花火の光が滲んでいた。



その日から大きくてよく通る声は、大きくてビクっとしてしまう声に、男らしい身体は、ただの怖いモノになった。力の強さは頼れるものから、自分では抗えない恐怖に変わった。その視線も獲物を狙う捕食者に見える。私の力では抵抗するのがやっと。男の人が怖くなった。

後で知った事だけど、みんなで示し合わせて、私と彼を二人きりにしたらしい。本当にいい迷惑だ。私は徐々に彼らから距離を置いて、自然に離れる様にしていった。少しは話したりするけれど、もう心から笑えなかった。息苦しさを感じて、休み時間には一人教室を抜け出す。そんな事を繰り返していたら、自然と一人になれてホッとした。


そんな私の様子に気付いていた堺君が声を掛けてきた時は驚いた。私の事を野良猫の様だと言う。餌付けと称してチョコを一緒に食べて喋った。猫好きで、家で猫を4匹も飼っていると話してくれる。

彼は真っ直ぐな黒髪に、焦げ茶色の優しい目をした男の子で、いつも自然体なところが羨ましいと前から思っていた。誰とでも喋るけれど、特に仲が良いのは2、3人の友達ぐらい。目立つタイプではないけれど、自然にクラスに溶け込んでいていつも楽しそうにしている。

抑揚の少ない穏やかな喋り方も、目線をあまり合わせないでいてくれる所も、その距離感も心地良い。猫扱いが面白く感じて、久し振りに心から笑えた気がした。


学校で学ぶのは、勉強だけじゃない。他人との距離感もまた、学ぶんだ。お互いが不快に感じない様な距離。きっと堺君はそういう距離の取り方が上手いんだろう。


12月に入って、毎日ではないけれど、休み時間や放課後に一緒にお菓子を食べた。いつも用意してくれて悪いので、私は飲み物を買おうと考える。今日は寒いので、缶のカフェオレを二つ買った。

「はい、あげる。」

私は彼の前に缶を置いて、1メートルくらい空けて隣に座る。

「…ありがとう。」

少し驚いた様に彼は目を見開いて、それから目を細めて笑った。

「…いつも貰ってばっかりで悪いから。」

「餌付けだから気にしなくていいのに。」

「あくまで餌付けなのね…。」

やっぱり猫扱いなんだと、また笑えてくる。


いつのまにか、この時間を楽しみにしている自分に気付く。本当に猫になるのも悪くないななんて考えてしまった。


私と彼の距離1メートル。

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