表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野良猫彼女と僕  作者: さきち
1/7

野良猫の彼女

僕は猫が好きだ。猫好きの高校一年生、名前は堺真司。家には猫が4匹いる。そのどれもが、拾ってきた猫だったり、貰ってきた猫だったりする。家族みんな猫好きで、だから猫のいる生活が当たり前で。

だからだろうか、まるで野良猫の様な彼女が気になってしまうのは。肩まである茶色のふわふわした猫っ毛と、ぱっちりした目をした彼女の事が。


あれは夏休みが終わって、二学期が始まった頃の事だったと思う。彼女の様子がそれまでと違っている事に気付く。それまでは、いつもニコニコ笑っている明るい子だと思っていた。彼女はそれまで仲の良かった友達と距離を置き、あまり笑わなくなった。何かあったのかなと思う。

笑わなくなったという言い方は、適切じゃないかも知れない。正確には、屈託なく笑わなくなったのだ。愛想笑いを浮かべて、一見変わらない様に見える。でも、時折見せる疲れた様な表情や、怯える様な目線が気になってしまった。彼らから徐々に距離を置き、今は一人で過ごしている時間が多い。休み時間に何処かへふらっと行って、授業の時間になると帰って来る。

秋が終わり、二学期の期末テストも終わった11月の終わり頃になってもそれは続いていて、寒い中何処に行くのだろうと気になって、後をつけてしまった。その頃には、僕の中で彼女は気になって仕方ない存在になっていた。それまでも、挨拶や簡単な会話ぐらいはしていたけど、もっと近付きたくて。距離を縮めたくて。


「寒くないの?」

屋上に居る彼女に声を掛けた。彼女は手すりを持っていた手をぎゅっと握って、驚いた様な顔をして僕を見た。

「…カイロ持ってるから。」

彼女の表情から、警戒されているのが分かる。

「ふーん。何でここに来てるの?」

「…楽だから。教室って、息がつまる…。」

そう言って彼女は溜息をついた。

「まぁ、分からないでもないかな。」

僕は彼女の横、と言っても2メートルぐらいの距離に立って話す。彼女と同じように手すりを持って、その先の景色を眺めた。

「…堺君は、いつも自然体で羨ましい。」

少し警戒が解けた様で、チラリと僕を見て、また視線を前の景色に戻す。

「基本的に、昔からマイペースってよく言われるけど。褒め言葉じゃないと思う。」

「私は褒めてるよ?」

「そう?ありがと。」

僕は笑って、彼女の様子を観察した。嫌がられてはいない様だと安堵する。


「仁科さん、ジッと見られるの嫌いでしょ?特に男子に。」

「堺君…。何でそう思うの?」

彼女は不思議そうな顔で僕を見た。

「何となくそうかなぁって。」

「…合ってるよ。落ち着かない気分になるんだ。」

視線を前に戻し、溜息と一緒に言葉を吐き出す。

「でも、堺君はそんな風には感じない。何でだろ?」

「猫って敵意のない相手には、視線を逸らすんだよね。だから敵意のないアピールみたいな?」

「猫?ああ、そうなんだ。視線か。」

納得した様に、彼女は頷く。

「仁科さんって野良猫みたい。」

「野良猫?」

「うん。凄く警戒心が強いところが。でも、良いと思うよ?警戒心が強い方が、生き残るから。」

「…そうかな?」

「うん。でもさ、野良猫って少しずつ仲良くなっていくのが楽しいんだよね。」

「…ん?」

君が首を傾げたのを、僕は横目でチラリと見る。

「チョコ食べる?」

僕は腕をいっぱい伸ばして、彼女に冬季限定のチョコレートを差し出した。彼女は箱を見詰めて、躊躇いがちに手を伸ばす。

「…ありがとう。」

彼女が手に取ったのを確認して、僕は自分の口角が上がるのを感じた。彼女が袋を開けて、チョコを口に入れた。

「餌付け成功。」

「餌付け?」

「そ、まずは餌付けから始めてみようと思って。」

「…私は堺君にとって、猫扱いなのね。」

「そう、野良猫と仲良くなりたいなって感じ?」

僕がそう言うと、彼女はふっと笑って、僕を見た。笑った顔が可愛くて、ドキリとしてしまう。警戒されない様にすぐに目を逸らした。もう一つ食べる?と聞くと、ありがとうと言って、今度は迷いなく手を伸ばす。

彼女が普通に接してくれる事が嬉しくて、お菓子を食べながらたわいない話を繰り返した。チョコが無くなったので、じゃあねと言って屋上を後にする。

初回はこんなもんだろうと、納得して階段を降りて教室に向かった。


僕と彼女の距離、2メートル。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ