夏の日
みんみんみん
蝉の声音が聞こえた。
みんみんみん
照りつく日差し、焼け付くように熱い肌。ああ、夏か。
眩い太陽を一瞬でも見たくて、俺は目線を、
「要ぇ?」
「っアキラ?」
瞼を開くとそこには眩い金髪の男が見えた。奴の名前は「神崎アキラ」。
「お、おお、大親友のアキラくんですよ。てか、どうしたし。そんな恐ろしいものを見るような眼は、傷つくぞ」
「うっんん……眼が痛い」
眼を開こうとすると焼け付くような痛みが眼に刺さる。咄嗟に目を押さえた俺を心配するかのように、アキラはその長身を屈ませた。
「うっわ、すっごい眼が真っ赤だぞ。あれだろ、試験前だから一夜漬けでもしたんだろぉ?」
「俺は試験前に一夜漬けはしないといつも言ってるだろ、お前じゃないんだから。常日頃から予習復習をこなしておけば一夜漬けなんて必要ないといつもいって、」
「あああ説教なんて聞こえませーん!!!いいから眼え真っ赤なんだから医務室いくぞ!!」
机に置いていた手を強く引っ張られる。不意に引っ張られたので危うく鞄を置いていきそうだった。危ない危ない。
「医務室だって軍部施設の一環なんだろ?目薬くらい置いてるって」
「目薬なら父さんが調合したもので事足りるぞ」
「あ、そっかぁ。お前の父さん医学もかじってたんだっけ」
「まぁな。医務室なんて行ったら使用記録を書くのが面倒だ。帰るぞ」
医務室方向へ向けていた足を橙色が射し込む昇降口へと転換する。……夕陽で気が付いたが、今は放課後だったな。授業が終わった後に俺は教室で寝てしまったようだ。
「お前の父さんの薬なら安心だな」
「当たり前だ。そこいらの軍医や軍薬師の腕に負けていないんだぞ」
「知ってる知ってる。本当に要は親御さんの話になるとご機嫌になるよなぁ」
「……おい、なんだその微笑ましいものを見るような眼は。ニヤニヤするな気色悪い」
上履きから革靴に履き替え外に出る。……途端に聞こえてきたけたたましい雄叫びに少しだけ肩を竦ませた。どうやら昇降口の目の前にあるグラウンドで強化指定の学院生が戦闘訓練を行っているようだ。将来、彼らは戦線の一戦力を担うことを義務付けられてることもあるからか、徴用年齢に達していない高等学院生の時分からカリキュラム外の訓練を行っている。
見慣れた光景ではあるが、いつみても彼らの人間離れした身のこなしには目を見張るものがあるな。と興味なさげに端末を弄っているアキラと肩を並べてグラウンドの方向を向いていると、彼らを監督している戦闘訓練の教師がこちらに気付いて歩み寄ってきた。
「おお、神崎に影月か。どうだ、混ざっていくか」
「やめてください先生死んでしまいます」
「俺もパスですわぁ」
「む、そうか。影月は……まぁ勉学は他の者が追い付けないほどの域に達しているが、だからといって戦闘訓練を疎かにしてはいかんぞ。有事の際には非戦闘兵より選抜されることもあるからな。神崎はもっとやる気を出さんか。皇陛下につらなる貴族の者としての威厳を」
「あー、はいはい。そういうの家だけで十分聞いてますんで。ある程度の成績取ってんだから文句言わないでくださいよ。他言いたいことあります?ない?では今日はこれにて失礼します。……ほら、要行くぞ」
畳みかけるように教師との会話を切り上げたアキラは、不快感を隠すことなく俺の腕を引っ張ってその場を後にした。貴族であるアキラは幼い頃から『貴族として』扱われることが多く、そのことで辟易としているようだ。
「全く……、本当に何故光である皇家に連なる一族の者が、あのような光に背いた者と親しくしているのか………時代は移ろうというが、理解できんな」
かくいう、立場が違うが俺もなんだけど。