宵闇ハートビート
明けましておめでとうございます。
不定期で掌編小説を投稿しています。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。
横浜の玄関口とも言える、定番の観光スポット『大さん橋』。
展望デッキから眺める、夕暮れの『みなとみらい』の街並みにも満足した僕達は、何となく山下公園へと向かった。
バイト先の同僚で、年下の彼女をこのデートに誘ったのが丁度、1週間前のこと。
些か急ごしらえのプランではあったものの、何とか自分でも満足出来るレベルだったと思う。
道すがら今日の感想を満足そうに語る彼女を見るに、今日のデートは成功だったと言えるようだ。
僕に残されたミッションはあと、1つ。腐れ縁の親友に口酸っぱく言われた”あれ“を果たすだけ。
『いいか?デートってのはな、手を繋いで、それで最低でも次の約束。それか告白を成功させて初めて成立するんだよ! いいな、頑張れよ!』
本音を言えば、僕だって手ぐらい繋ぎたいし、彼女と付き合えるなら本望だ。
――そんな簡単にいくかよ。
そんな脳内の混乱など、気にかける様子もなく黙々と過ぎていく時間。
一斉に灯りだす街灯が、ある意味”あれ“を果たすタイミングを探し続けたデートの終わりが迫るのを、そっと僕にだけ知らせていた。
すっかり自分の世界に没頭しすぎてしまった。間を持て余した彼女が、僕に話しかける。
「これからどうする?」
――あぁ、神様。もう少しだけチャンスを下さい。
何か丁度いい寄り道は……と必死に考えを巡らせる僕に、まるで天からの導きのような彼女の声が届く。
「もし、時間がまだ平気なら本を買って帰りたいんだけど、いいかな?」
最後のチャンスだ。これに賭けるしかない。僕は幾分か弾んだ声で答える。
「大丈夫! 本を買うなら有隣堂だね!」
ここまで来たら、当たって砕けろだ。ありったけの勇気を振り絞り、僕は続けた。
「ここから有隣堂まではちょっと歩くんだけど、人通りが激しいんだ。迷わないように、手を繋いで行こうか?」
クイズ番組の正解発表を待つような重たい時間が流れる。気丈に振る舞うことにも限界を迎える頃、ようやく彼女が口を開いた。
「……うん。よろしくお願いします」
差し出していた手が、やっと握られる。遂に賭けに勝ったんだ。
この流れであとは、何処か良い雰囲気の場所で僕の気持ちを伝えるだけ……。
のはずだった。
馬鹿正直にも程がある。素直に人通りの激しい道を選び、最短距離で有隣堂まで向かった道中では、そんな雰囲気の場所などある訳が無かったのだ。
――アイツになんて言い訳しよう。
混雑したレジとあまりにも馬鹿な自分に嫌気が差し、一足先に店から出ていた僕のもとに、買い物を終えた彼女が満足そうに駆け寄って来た。
――まあ、この笑顔を見られただけでも良かったのかもな。
彼女は、精一杯の強がりを決め込む僕の横にちょこんと立ち止まると、不意に僕の袖口をツンツンと引っ張った。
突然の事に驚き、思わず振り返る僕に向かって彼女は、街の喧騒に掻き消されてしまいくらいの小さな声で僕に尋ねた。そう、注意していなければ聞き逃してしまいそうな程に小さな声で。
「あの……もう、手は繋いでもらえないんですか?」
その一言で全てが吹き飛んだ。
僕の胸の鼓動は、気を付けなければ彼女に聞こえてしまいそうなくらいに高鳴っていた。
今年もよろしくお願いします。
連載中の『sweet-sorrow』もよろしくお願い致します。
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@Benjamin151112