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魁!ぷりん部  作者: 三池猫
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Lesson1「怠惰で無二な日々こそが、ぷりん部の活動方針だッ!」 08

 なにはともあれ、私は無事にフランスパンの追撃を回避することが出来た。ついでにジジイの卑猥な画像も抹消できた。一石二鳥とはこの事を言うのだろう。成仏しろジジイ。


 私は中庭に飛び出し、辺りに敵が潜んでいないか隈無く見渡す。

 バイクは五台あった。最低でも五人はいるはず。仮眠室(自称)で三人、バイクに跨がっていた鶏頭、残る一人はどこにいる? そもそも誰か? 答えは明白である。今度こそパンチパーマ以外ありえないだろう。

 とりあえず、正門は使えないので、私は校庭を突っ切ろうとしたとき、キララに発見されてしまった。

「キララ。なんでお前がここにいる」

 立ち止まって尋ねると、キララは手に持っていたスポーツバックを肩に担ぎ、私を意味も無く睨みつけてきた。心なしか、バックに付いている戦隊物のストラップも睨んでいるように思えた。

「なんでって、丹下先生を呼びに行くの。先生、私たちが呼びに行かないと来ないのよ。まったく困っちゃうわ」

 族が校内に入り込んでいるのに、状況が理解出来ていないのか? お前も見ていただろう。

「まあいいや。ジジイなら上に居たぞ。だが、廃人になっているから今日の指導は諦めた方がいい」

「廃人? なんで先生が廃人になっているのよ?」

「天罰がくだったのだ。仙術や妖術を使っても失った物は戻らないだろう」

「あんた、なんかしたの?」

「ジジイが身をていして私をフランスパンから守ってくれたのだ。全身に矢を受けても立ち往生する姿は、まさに弁慶のようだった」

 むろん真実は違う。禁忌を犯し、盗撮したジジイだが、結果的に私を助けたことは変わりない。私はジジイの威厳を保つことにした。それがせめてもの情けだ。ねつ造された真実も、真実を知らなければ問題なかろう。

「ふーん。あの先生がね。まあいいわ、先生が廃人でも、灰人でもなんでもいいわ。赤帯の先生に指導してもらうなんて、滅多に出来ないことだもの」と彼女は言った。「それに大会が近いしね」

「大会……、柔道のか?」

「あたりまえでしょ。選抜大会が近いのよ」

 選抜大会とは、学校内で行われる学校独自の大会だ。我が高校は無駄にデカイ。私の学舎である普通科①に女子柔道部が一つある。以前、ぷりん部が覗きに行ったのがそれだ。だが、それは普通科①の柔道部であって、全てじゃない。運動科や進学科にも女子柔道部は存在している。

 幾重にも増えた部活に対して、都大会に出場する枠は一つだけ。我が校は春になると、熾烈な戦いを虐げているのだ。

 一つにまとめれば、そんな面倒な大会を開かなくてすむと思うが、分散した部活をまとめるなんて、神の統一化が不可能と同じ、部活の統一かも不可能になっている。宗教の争いほど、悲しいものはない。それは歴史が語っているので、あえて私が語ることもなかろう。

 その時だった。話し合う私たちへ駆け寄ってくる足音が聞こえた。

「覚悟しいいいい」

 それは女性の声だった。私が振り向くのと同時に握り拳くらいの物体が飛んできた。

「キララ、危ない」

 私はキララを抱きかかえ、左に飛ぶ。程なくしてキララの頭をかすめ、ソレは校舎にめり込んだ。

 女性は「ちっ」と舌打ちをして、ソレを手元に戻す。手にはヨーヨーが握りしめられている。私はヨーヨーがめり込んだ跡を見て言葉が出なかった。なんだ、この破壊力は? 玩具のレベルじゃないぞ。そんなものを人に向けて投げたのか……。取り扱い説明書をちゃんと読みなさい。花火感覚で人に向けちゃダメだろ。

「ちょっと黒蝶(くろちよう)。危ないじゃない」

 どうやら、黒蝶と呼ばれたエキセントリックな女は、キララの知り合いらしい。類を似て集まると云うが、攻撃性は似なくていいだろう。似るのはパンティだけで十分だ。

「なんであんたがいるのよ? もしかして、さっきの不良もあんたの知り合いなの?」

「だったらなんなん。そんなの、あんたに関係なかと」

「関係大ありよ。他の科の学生が、無断で入ってくるのは校則違反なのよ」

「そんなの知らんけん。だいたい、同じ学校なのに、立ち入り禁止地区があるほうがおかしんよ」

 二人の会話を聞いていて私は重大な真実を知った。それはこの方言女を含め、先ほどのフランスパンやコッペパンが、他の科の生徒だということだ。そうなると、鶏頭やパンチパーマもそうなのだろう。なんてことだ。「泣かされる可能性があるものは、いつかは泣かされる」と云われるマーフィーの法則は本当だったのか。結果論からくるユーモラスな表現だと思っていたが、あながち間違いでもないらしい。

 なおのこと問題ではないか。

「キララ。逃げるぞ」

 私はキララの手を握り一目散に中庭を抜け、校庭へ走っていった。後ろでは「待たんかい」や「見つけたぞ」と男の声も聞こえた。私は「もしかして」と思い振り返ると、そこにはパンチパーマの男が眉間にしわを寄せて走ってきている。マーフィーの法則、恐るべし。

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