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魁!ぷりん部  作者: 三池猫
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Lesson1「怠惰で無二な日々こそが、ぷりん部の活動方針だッ!」 04

 女子柔道場から敵前逃亡……いや、戦略的撤退してから幾ばくかが過ぎた。

 あのまま、キララのパンティラインを堪能しても良かったが、次は絞め殺されるじゃすまなそうなので断念せざるを得ない。そこで、私たちは次なるターゲット(部活)を求めて校庭を徘徊することにした。


 女子サッカー部や女子野球部などが、夏の大会に向け汗水を流している。ちなみに各男子部活も活動しているのだが、私の視界に入った瞬間にインビジブルさせてもらったことは言うまでもない。

 女子部活動を横目で観察しながら歩いていると、奇妙な男が視界に入ってきやがった。直ぐさま抹消しようと考えたが、不可思議な行動に幾ばくかの興味を抱いた私は、不本意ながら観察することにした。その男は『大脱走』さながらにズボンの裾から何かを地面にまいている。『大脱走』を観た私だから分かる。あれは土だ。

 しかし、なぜコソコソと微量の土を校庭にばらまいているんだ? まさか、本当に地下空洞を掘っているわけではあるまい。

 不可解に思っていると、男子水泳部の部室からもう一人男が出てきて、先ほどの男と同様にズボンの裾から土を落としている。

「ん? あいつは?」

 私の声に疑問を持ったのか、隼人が「どうかしたんですか?」と、私の視線の先を見る。

「あの二人がどうかしたんですか? ズボンをパンパンと叩いているみたいですけど……、いったいなんの部活をしている人なんでしょう?」

 そうだ。さっき出てきた男の所属している部活動に、謎を解くヒントがある。隼人は知らないだろう。当たり前だ。まだ、説明していないのだからな。

「隼人。まだお前に説明してないことがある」

「説明ですか?」

「そうだ。あそこにいる二人が所属している部活動だ。厳密には部活ではなく徒党を組んでいる奴らだ。今後、私たちの敵にも味方にもなる奴等だ」

「敵にも……味方にも」

 神妙にかしこまる隼人が私を見る。

 基本的には『敵=邪魔者』なのだが、使い方次第では味方と呼べるときもある。

「その党の名前は『仮面党』だ」


 ここで説明しなければならない。数多ある『部』と名の付くものを『陽』とするなら、『党』と名の付くものは『陰』である。健全に汗を流し、青春を謳歌(おうか)している若人(わこうど)(女子限定)を、煩悩の目で見つめ、喜びを賛歌にする者だ。

 そして、数ある徒党の中の一つが『仮面党』である。

 パンティは被る装飾品だと豪語している奴らだ。

 その活動内容は、他の部活動中に更衣室に忍び込み、密かに女子のパンティを被る。ただ、それだけ。用意周到な計画性は変態の域を逸脱し、最後には寸前違わぬ場所にパンティを戻す。彼らの文字に証拠という二文字はない。

 ちなみに、仮面党の幹部クラスになると、どんな場所にも隠れられる「覗き部屋サイレントマジョリティ」と呼ばれるスキルが発動できるらしい。


「そんな徒党がこの学校に存在していたなんて……」

 あまりの驚きに開いた口がふさがらないらしい。隼人よ。お前は気づいていないのかもしれないが、我がぷりん部も『ぷりん部兼ぷりん党』と、陰陽の二文字をもつ徒党なんだぞ。

「それにしても、なぜ、その仮面党があそこにいるんですか?」

「答えは明白だ。そこにパンティがあるからだ」

「パンツですか? あそこは男子水泳部の部室ですよね? 仮面党の皆様は男物のパンツが欲しいのですか?」

「このアホ。そんなわけがあるか。隣にあるものはなんだ」

 私は男子水泳部に隣接してあるプールを指差した。今は春ということもあり、水は張っていない。したがって、現在使われていない。

「いいか。男子水泳部は部室で着替える。そして女子水泳部はプールに備わっている更衣室で着替えるんだ」

「あの先輩。意味がよく分からないんですけど?」

 純真無垢の隼人の頭では、煩悩にかき立てられた漢の貪欲なまでのイマジネーションはないらしい。しょうがない、もう少しヒントをやろう。

「いいか。奴らは仮面党だ。党と名の付く亡者なのだ。そんな奴らが出入りしている目の前に、女子が着替えをする更衣室がある。そして、わざとらしいくらいにコソコソと土を校庭にばらまいている。これで分かっただろう?」

 さあ、ここまで言えばわかるだろう。

「内装工事ですか?」

 この男は、なぜ、ぷりん部に入ったんだ? 本当に煩悩の一欠片もないのか。

「違う。地下にトンネルを掘っているんだ。男子水泳部が活動しない時期を見計らって、更衣室にパイプラインを引いているんだ」

「なるほど、男子水泳部は現在活動していないんですね」

 そうだ、間違ってはいない。だが、着目点がズレている。わざとなのか? それとも天然なのか? 男で天然キャラはただのアホだぞ。

「男子水泳部が関与していないのなら、無断でトンネルを掘っているんですよね? それなら止めさせないと」

 両手をグッと握りしめる隼人。止める気まんまんの隼人に悪いが、私はそんなことをするつもりは無い。

「隼人。道徳心に忠実になることは人として良いことだ。が、ほっておけ」

「なぜです。このままでは更衣室が覗かれてしまいますよ」

「なぜなら、奴らは仮面党で、私たちはぷりん党だからだ。他の徒党の邪魔をするときは、自分たちの障害になるときだけ。これは暗黙のルールなのだ」

「そうなんですか……」

 うな垂れる隼人には悪いが、これは派閥抗争を避けるため師匠が掲げた掟なのだ。私たちは慈善活動者でも正義の味方でもない。煩悩に群がるアホなのだ。

「そう気を落とすな。仮面党が我々の進行の妨げになる場合は、全力で排除する。その時は、隼人にも頑張ってもらうから覚悟しておけ」

 隼人の背中を叩くと、小さく頷き「わかりました」と答えた。

「それに、更衣室の床はコンクリートだ。いくら仮面党でも、コンクリートをぶち抜くことは出来まい。奴らの計画は最初っから破綻している」

「なるほど、それもそうですね。用意周到と言われていても、底が浅いですね」

 まあ、だからこそ、お手並み拝見って言いたいのだがな。

「どうやら、今日は収穫が無さそうだな」

 校舎の上に取り付けられている時計を見ると、針は午後五時を回っていた。パンティの種類と、他の派閥の説明も一応終えた。細かいことは後日でいいだろう。

「隼人。今日のレッスンはこれぐらいにしよう」

「そうですか。わかりました」

「そうだ。お前の家はどこなんだ? 途中まで一緒に帰るか?」

「いいえ。ちょっと用事があるので、ここで失礼します。それに、先輩の家と僕の家は反対ですから」

「そうか、わかった。それじゃあ、明日、部活で会おう」

「はい。失礼します」

 そう言って隼人は小走りで校舎に入っていった。

 そうか、用があるのなら仕方ないな。帰りに冥土喫茶にでも寄ろうと思ったのだが、次の機会にでも誘ってみるか。

 しょうがない、口直しに女子柔道部へ行って、キララのパンティラインを再度拝んでから帰るとしよう。

 あれ? 何故、隼人は私の家が逆方向だということを知っているんだ?


 この時、なぜ隼人が私の家を知っていたのか?

 創立して間もない『ぷりん部』を、隼人が知り、私の事も知っていたのか?

 その謎は、もう少し後の話である。

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