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魁!ぷりん部  作者: 三池猫
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Lesson1「怠惰で無二な日々こそが、ぷりん部の活動方針だッ!」 03

 諸君、喜びたまえ。創立まもないぷりん部は廃部にならずに済んだ。なぜなら、私は生きている。

 三途の川を自力で渡っていると、向こう岸に去年死んだ愛猫のタマが足を組み、私を手招きしていた。その通天閣タワーに飾られていてもおかしくないタマの態度に、むかっ腹を立てた私(元飼い主)は踵を返して現世に舞い戻ってきたのだ。


 ギシギシと、何かを絞め付ける音が聞こえる。

 目を覚ますと犯行の真っ最中だった。私の両襟首を絞め上げているキララと、それを止めようとしている隼人が目に入る。

「ちょっと、キララ先輩。止めて下さい。本当に先輩が死んじゃいますよ」

「いいのよ。私のパンツを知った男は永眠するべきなのよ」

 なんとも納得できる犯行動機だ。柔道の極(絞)め技である十字絞めで、私を亡き者にしようとしているらしい。このままでは、キララを本当に殺人犯にしてしまう。致し方ない、師匠から教わった秘術をお見舞いしてやろう。

 私は両指先に全身全霊の気を込めた。意識が飛びそうになったが気力で繋ぎ止め、一気にキララの脇の下の秘孔(ひこう)を突いた。後で聞いたが、その時の私の顔は、青紫に変色していたらしい。

 喰らえ。『焦熱連撃(ガトリング・ハイウェイ)

「きゃっ」

 人間の急所であり、キララの弱点である脇の下への攻撃に、一瞬キララの力が弱まる。その隙を待っていた私はキララの手を振りほどき、ゴロゴロと転がりながら隼人の後ろに隠れた。いや、隼人を盾にしたと言っておこう。

「はあ……はあ……はあ、キララ。早まるな。パンティのデザインを知られたからって人生を踏み外してはならぬ」

 鬼の形相で私を睨みつけるキララに、目を合わせることが出来ない。

「たしかにお前がソングを履いていることにはビックリした。しかし、だからと言って……」

 キララが眉をしかめ、次第に赤らむ。そして「その目玉、えぐり取ってやる」と、残虐極まりないことを口ずさむ。

「ちょ、ちょっと待て。確かにビックリした。が、私はむしろ好意的に思うぞ」

「しゃべるな」

 キララが、二本の指を私の眼球目掛けて突き出したとき、

「あの~。そろそろ乱取り稽古を始めたいんじゃが」

 後ろで発せられた声に、キララが放った指は、私の網膜の手前でピタリと止まった。

 助かったのか?

 突きつけられた二本の指をゆっくり視界からどけて、私は声が聞こえた後ろを振り向く。そこには、先ほど赤べこのように首を縦に振っていたジジイ(丹下先生)が、首をもぎれんばかりに振っていた。よぼよぼと立つ姿は、蓬莱山(ほうらいさん)から降りてきた仙人のように思えた。

 シワシワの顔でジジイはキララに言った。

「安藤君。いつまで遊んでおる。罰としてキミは乱取り二十本だ。もちろんインターバル休憩無し」

「はっはい。すみません」

 キララがジジイに一礼して道場内に走っていく。私はキララが去ったことで、ようやく生きていることを実感した。

 盾にしていた隼人が私に振り向き「大丈夫ですか」と心配してくれている。私はそれに無言で頷いた。

「ほっほっほっ。キミは安藤君と同じ学年の佐木崖君じゃの」

 なに? なぜ、このジジイは私の事を知っているんだ。ジジイとは面識がないはずなんだが。仙人ともなると、読心術じみた奇っ怪な妖術が使えるようになるのか?

「そのとおり。私はキララと同じ学年、同じ組の佐木崖瞠だ。ジジイ、助けてもらってなんだが、なぜ、そのことを知っている?」

「ほっほっほっ。あの子から色々聞いておるよ。キミは洋袴(ぱんつ)が好きらしいの」

 あの子? キララのことか? それにしても、洋袴と書いてパンツと呼ばすとは。ジジイ、どの時代の人間だ。本当に蓬莱山に住んでいるわけではあるまいな。

「いかにも、私はパンティが好きだ。パンティラインはもっと好きだ」

 胸を張り、恥もなく私は断言した。

 ジジイは絶えずニコニコと紙を丸めたような笑顔を私に向け、化け狐のような目で私を見上げている。

「ほっほっほっ。若くてけっこう。しかしキミか……いやはや納得だの」

 ジジイは私の顔をまじまじ見て、「なるほど」と頷き「キミは若い頃の儂に似ておるな」と、言われても嬉しくない言葉を小言のように言っている。

 なんなんだこのジジイは? キララになにを聞かせられたか知らんが、変に親近感を持たれても困る。私は隼人の手を取ってその場を後にした。

「安藤君の洋袴だが……」

 私は立ち去ろうとした。が、洋袴と表記してパンツと呼ばれたら立ち止まるしかできない。私は振り向かずジジイの言葉を待った。

「安藤君の洋袴。あの形になったのは彼女が二年生になってからじゃよ」

 なんだと! レギュラータイプからソングに切り替わった事をジジイは知っているのか。隣の席である私でも気がつかなかったことだぞ。

「ジジイ。何者だ」

 振り返ってジジイの姿を探したが、ジジイの姿はどこにもなかった。狐につままれたみたいだ。

 道場内から「はいはい、安藤君。休まない」と、ジジイの声が聞こえた。本当に仙術が使えるのか?

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