Lesson3「ぷりん党 IN 聖夜祭」 09
ステージが終わってもレッドはカラータイツを脱がなかった。鶏頭やフランスパンたちもレッドと一緒にどんちゃん騒ぎしている。
黒蝶と乙女は素早く着替えを済ませ、並べられた食べ物をパクパク食べている。私としては、黒蝶や乙女にいつまでもカラータイツを着ていて欲しいと思っている。間近でパンティラインを堪能するチャンスだったのに、キララのせいで堪能することが出来なかった。
「あれ? キララはどないしたと」
黒蝶がキララの姿を探す。
「知らん」
私がムスッとしているのを見て、黒蝶が小首を傾げる。
「まあ、いいけん。それより、どやった? うちのステージ。ビシッと決まってたやろ?」
たしかに、タンガはビシッと決まって美しかった。
「この子も頑張ってたやろ? クマのパンツを穿いているわりにはイケてたけん、うちはビックリしたと」
「ちょっと、黒蝶さん。クマのパンツは余計ですよ」
「そう? あはははは」
黒蝶が乙女を茶化しながら笑う。随分と二人は仲良くなったものだ。喜ばしいことである。
「会ったときから思っておったけん。あんたって、あの子に似とると」
「あの子?」
私は聞き返す。
「ほら、瞠の……」
黒蝶が言い掛けたとき、会場に騒音が響いた。
「なんか出たぞ」
「鬼だ」
と、会場は右往左往している。私は騒ぎの中心を見ると、なんてことだ! なまはげが暴れていた。
「なんですかね? 公演は終わったはずなんですけど」
乙女が首を傾げる。
「演技じゃなか! 瞠、見て」
黒蝶が指差した先にはレッドが慌ててなまはげを止めていた。
「なんか、凄いことになってますよ」
確かに、サンタクロースの格好をしたなまはげと学生服をきたゴリラが戦っている。
なんなんだ?
『みんな、危ないから下がれ』
突如、冬也がアナウンスで叫ぶ。
その声で私は、冬也が言っていたサンタクロースの格好をしたなまはげを思い出した。弟はいねえか? っと苦情があったと冬也が言っていたな。
「瞠、どないする?」
「どうしましょう?」
二人が私の顔を見る。
「どうもしない。冬也たち実行委員がなんとかするだろう」
私は正義のヒーローではない。悪者が出てきたら身を削って守る義務はないのだ。義務はパンティだけで十分だ。
「にしゃの(お前が)、おれん弟ばたぶらかした奴は?」
丸太のような太い腕に捕まったレッドが、なまはげに持ち上げられる。
「兄貴、ちごうとる。そいつば悪くなか」
ゴリラがなまはげを羽交い締めにして止める。
なんか、怪獣大決戦って感じだな。
私は両腕を組み、傍観者になっていると、聞き慣れた声が聞こえた。
「ちょっと、兄貴になにするのよ」
キララだった。キララはなまはげに食ってかかっているのが見えた。
「キララ。お前、知っていたのか? 私が正義のヒーローだってことを」
「何言っているのよ。私たち兄妹でしょ? 兄貴の趣味ならなんだって知っているわよ」
「違う。趣味じゃない。義務だ」
レッドが必死に弁明する。
「先輩。キララ先輩が」
「キララが捕まったと」
なまはげは持ち上げていたレッドをポイッと空き缶を捨てるように投げると、キララの細い身体を持ち上げた。
「ちょっと、なにするのよ。この変態。下ろしなさいよ」
「兄貴。そげなことせんでくれ」
「せからしか。こん男っち(の)妹なら、おなごも同罪だ」
どうする。キララが捕まってしまった。今まで散々、私を苦しめてきたキララだ。罰が当たったと考えれば……
「瞠。助けにいかんと?」
「先輩」
二人が私をあおる。
「妹を下ろせ!」
レッドがなまはげの腕を掴み、キララを下ろそうと引っ張る。続いて鶏頭たちも加勢した。しかし、無情にもイケナインジャーは蹴り飛ばされてしまった。
「瞠!」
私は正義のヒーローではない。
「先輩!」
ぷりん部はパンティラインを見ることが義務である。
「妹は俺が助ける」
レッドは何度も蹴り飛ばされても懸命に立ち上がり、必死に食らいつく。
その姿が、妹を助けようとする兄が、私の心を打った。
仲間(友)の窮地を見過ごして、なにが義務だ。友達を助けるのが私の義務である。
私は駆け出し、なまはげの顔にイヌハッカが入った袋を投げつけた。わらしべ長者になるべく、大切にしようと思ったが、それどころではない。
「こら、なまはげ。私の友達を下ろしなさい」
「瞠!」
キララが叫ぶ。
「なんやにしゃは?」
「私はぷりん部兼ぷりん党の佐木崖瞠である。成敗してやるから正座しろ」
「なんや、分からんの。ちょこっとばってん(少しでも)近づいたら、こんおなごしのどげんなっちも(この女がどうなつても)知らんたい」
むむむ。なにを言っているのか分からない。状況から把握するに、私が近づいたらキララが危ないってことか?
「おのれ、卑怯な」
どうする。格好良く登場したものの、近づけないのならば打つ手がないではないか。
その時だった。
ニャーっと興奮状態になった猫たちが、一斉になまはげに襲い始めた。
「なっ、なにが起こっているんだ?」
なまはげの言語に苦しんでいるというのに、それ以上の出来事が起こっている。もう、私の頭はパンク寸前である。
すると、私の前に一匹の仔猫が現れ、ニヤッと笑ったような気がした。よくみると、並木道でパンチパーマが助けた仔猫だった。
「お前が助けてくれたのか?」
猫の手も借りたいと言われるが、本当に手を貸してくれるとは思ってもいなかった。
「まさか、お前は去年死んだ愛猫のタマの生まれ変わりなのか?」
仔猫はニャーと頷くと、私に合図を出した。ような気がした。
「なんやこん猫は」
なまはげは、顔を引っ掻かれ、体勢を崩し尻餅をついた。そして、キララを掴んでいた手が離れた。なまはげの足下を見ると、吹き矢が転がっていた。アレを踏んだのか?
私は仔猫の言われるまま走り出す。なんだこの展開は? ご都合過ぎるではないか。
後日知ったことだが、イヌハッカとは別名キャットニップと呼ばれ「猫が噛む草」の意味があるらしい。マタタビと同じ興奮作用があり、猫たちは私が投げたイヌハッカに群がっていただけらしい。
「先輩」
乙女が私に向かってバケツプリンを投げる。私はそれを両手で掴むとなまはげの顔に向けた。
もうこの際なんでもいい。キララが助かるのなら問題なしだ。
BIGプリンではダメだったのは先刻承知である。プリン数十個分に匹敵するこの量を飲み込むことなど出来はしまい。
喰らえ『符輪放出』
「なんじゃあああああ」
なまはげの声がこだました。
………
……
…
なにも起こらない。
しまった。両手で持っているから、符輪放出(プッチン)が出来ないではないか。
不発か。すまん猫よ。お前たちの協力をいかせなくて。
「馬鹿め。驚かしぇやのっち(せやがつて)」
高笑いをするなまはげ。
「先輩。まだです」
乙女が私に向かって走り出した。すかさずなまはげが「しゃしぇるか」と、私の持つバケツプリンを奪い取ろうと手を伸ばす。
パシャンと、破裂音がした。
「つめてぇ」
しぼんだ風船が顔に当たる。黒蝶が持っていたボンボン(水風船)を投げたことが分かった。真冬に水を浴びせられ、一瞬なまはげの動きが止まった。
「今やけん」
「黒蝶さん。ナイスです」
乙女が私に駆け寄り『符輪放出』と叫んだ。
バケツプリンの底を足でぶち抜き、そのままなまはげの口内にプリンを叩き込む。
「うごおおおおお」
大量のプリンに苦しみながら、なまはげが倒れた。
回りで見ていた生徒が歓声を上げる。もがき苦しむなまはげを、実行委員の冬也たちが取り押さえる。
賞賛の声が私たちに向けられた。が、私はそれに応えず、一点に麗しの乙女を見ていた。
「…………」
なぜ、麗しの乙女が我がぷりん部の秘技を使えるのだ?
私はなまはげを倒した喜びより、部外者である乙女が、秘技を出したことに驚きがあった。あれは一回や二回見ただけで出来る技ではない。それこそ数ヶ月見続けていなければ無理な技なのだ。
それが、何故?
「先輩、大丈夫ですか?」
その時、私は今まで一緒に不毛な部活動を共にしてきた後輩の顔が頭を過ぎった。
「どうかしましたか? もしかして怪我をしましたか?」
まさか――
「先輩?」
そうだ。間違いない。なぜ、私は気がつかなかったのだ。
私は心配そうに見つめる乙女の目を見て言った。
「お前は……私の後輩である、早乙女隼人なのか?」
私の問いに、驚く乙女。
「えっ! ちっ、違いますよ」
「ならば、なぜ、ぷりん部の秘技がお前に使えたのだ?」
「そっ、それは……」
見れば見るほど乙女は隼人ではないか。
「もういい」
私は踵を返し、その場を後にした。私の後ろでは隼人が「先輩。待って下さい」と叫んでいたが立ち止まらなかった。
私は半年以上も、隼人に騙されていたのだ。




