Lesson3「ぷりん党 IN 聖夜祭」 07
ブースを一通り見た私たちは、パーティーが行われる普通科①のグラウンドへ向かった。聖夜祭は暗くなってからが本番なのだ。ライトアップされた校舎をバックに、二学期の勉学から解放された生徒たちで騒ぎ倒すのだ。
私は時計を確認すると、午後五時を回っていた。
並木道に散りばめられた電飾が鮮やかに光り出し、エレクトリカルパレードのように煌びやかに点滅している。
「綺麗ですね」
乙女の目がキラキラ光っている。
「綺麗やね」
黒蝶の胸が私の腕に押し当たる。
「ちょっと黒蝶」
キララが黒蝶を引き剥がそうとする。
普通に考えればうらやましい光景なのだろう。それなのに、なぜか私は上の空だった。
隼人は、今何をしているだろうか。あいつも楽しんでいるだろうか? 初めての聖夜祭で戸惑っていないだろうか?
そんなことを考えていると、
「ちょっと、そこの青年」
聞き覚えのある声だ。
見るとイケナインジャーレッドが通行人の視線を避けるように木陰に隠れていた。全身タイツのレッドは、あからさまに怪しい。ココが学校の敷地でなければ捕まっていただろう。
「あっ、あんたは!」
「久しぶりだな」
レッドは右手を挙げ「よっ」と挨拶をした。よく見ると、他の木の陰にもカラータイツをきた変態共が隠れていた。ブルー(鶏頭)、グリーン(フランスパン)、包帯を巻いたパンチパーマも隠れている。
「私に何か用か?」
「ちょっと相談なのだが、イエローが負傷してしまい人数が足らなくなってしまった。そこで、誰か代役を捜している。よかったら、そこの女性の誰かやってみてくれないか?」
レッドは私の後ろにいる女性三人を指差して言った。
「えっ、うちら?」
「本当ですか♪」
「なんで私たちが」
私は隠れているイケナインジャーを見ると、重要なピンクがいないことが判明した。
「ちなみに、代役はイエローだけか?」
「出来ることなら二人がいい。実はピンクは欠番していてな。今までピンクをやってくれる女性がいなかったのだ」
「それは重大だ。イケナインジャーにピンクとイエローがいないだと? 本末転倒だぞ」
イケナインジャーで女性キャラがいなかったら、ただのアホの集まりではないか。そんなこと、ファンとして見逃すことは出来ない。
私は黒蝶を見て、
「黒蝶。困っているみたいだから、君がイエローをやりなさい」
「ええ、うちが? イヤや」
当然の反応だろう。しかし、煩悩の亡者である私は諦めることをしない。
「どうしてもダメなのか?」
ちょっと、上目遣いで訊いてみた。
「うっ……。瞠が、そこまでいうなら」
黒蝶が渋々頷く。
意外と効果があった。今日一日でジゴロのスキルが上がったのかもしれない。あとはピンクだな。しかし、残る二人を見ても、やってくれるとは……
「はいはい。私もやります」
乙女が手を挙げる。
なんと、願ったり叶ったりではないか。
「えっ? いいの」
さすがにレッドも驚きを隠せない。
「はい、私も以前から興味がありました」
「そうか。それは助かる。それでは早速で悪いがこれに着替えてくれ」
レッドが黒蝶と乙女にピンクとイエローの全身タイツを手渡す。
黒蝶が嫌々受け取る。対する乙女はウキウキだ。
「なあに、心配はいらない。君たちは後ろで立っていればいい。セリフは我々が言うから」
黒蝶が指先で汚い物を掴むようにタイツをつまむ。
「それで、公演はいつやると?」
「今からだ」
「いま!」
驚く黒蝶を尻目にレッドは「あっはっはっはっ、気にするな」と高笑いをする。
「それでは、皆の者、行くぞ」
そう言ってレッドは黒蝶と乙女の手を引っ張って駆けて行った。続いて、木に隠れていたブルーたちが「レッド。待てよ」と後を追った。
あいつら、随分と影が薄くなったものだな。半年前とは別人のようだ。レッドに厚生されると、こうも人は変わるものか。
そんなことを思いながら、私は時の経つ悲しみを知った。




