Lesson3「ぷりん党 IN 聖夜祭」 06
諸君。わらしべ長者をご存じか?
稲の穂の芯を持った男が物々交換をしていき、ゆくゆくは一軒家を手に入れてしまう、ご都合極まりない話である。うらやましい。
私が射的屋で手に入れた、つまらぬ小説もゆくゆくは高価な物になってほしいものだ。
我々の手には、小説・ボンボン・吹き矢といった、わらしべに近いものを持っている。
乙女の持つイケナインジャーフィギュアは、すでに高価なものなので、それと交換してくれれば手っ取り早い。私は物々交換の隙をうかがっていたが、なにせ大事そうに抱えている彼女を見て、二の足を踏んだ。
これが隼人ならば強引に理由をつけて物々交換に持ち越せるのだが、相手は麗しの乙女である。勝手が分からぬ相手ゆえに、どう攻めてよいか手を拱いていた。
そんなことを考えていると、目的の場所である第一体育館にたどり着いた。
日頃、大会などで使われる体育館は、装いを変えて私たちを迎え入れた。多種多様に並ぶブースを見て私たちは度肝を抜かれた。幕張メッセか国際展示場のような賑わいをしている。メイドのコスプレをする女性や、アニメのキャラクターのコスプレをした女性もいる。ちなみに、男子のコスプレも存在するが、吐き気がするのでインビジブルさせた。
「すごいわね」
「うち、目が回りそう」
「楽しそうですね」
三人が呆気にとられている。去年、私も師匠と見て回ったが、何度来ても呆れるほどの人の多さだ。
私たちは、近くにあったメイド喫茶「えんじぇる・はーと」で食事がてら小休憩を挟んだ。
すると、一人の店員が私の元にやってきて言った。
「そっ、それは! 絶版になって入手困難と言われている小説ではありませんか?」
目をキラキラさせながら、「いいないいな」と、私の持つ小説を眺める。
私としてはどうでもいい物だが、この店員には喉からでが出るほどらしい。
「よかったら、物々交換しませんか?」
「物々交換ですか? うーん。いいですよ」
そう言って店員はカウンター戻り、小袋を持って返ってきた。
「これは?」
袋の中には何かの葉っぱが入っていた。
「イヌハッカです。私どもがお店で出している紅茶は、独自に配合した物をお出ししています。ですが、発注を間違えてイヌハッカだけが大量に入荷してしまったのです。こんなものでよろしいでしょうか?」
イヌハッカがなんなのかよく分からない。まあいいだろう。
「いいですよ」
そういって、私は小説とイヌハッカを交換した。物々交換成立である。これで一歩高価な商品に近づいた。
私の隣に座っているキララが、
「イヌハッカって単品でも使えるの?」
「どうだろう? そもそもイヌハッカ自体わからない」
私は首を傾げた。果たして、物々交換はプラスだったのだろうか? マイナスだったのだろうか?
そんなことを思っていると、遠くから「ほっほっほっほっ」と聞き慣れた声が聞こえた。私はキララを見たが、聞こえてなかったらしく紅茶をすすっている。
声のした方角を見ると、写真館「技の曲線美」と書かれた看板の下でジジイが客引きをしていた。
私は立ち上がり「ちょっと、トイレ」と言って、もぎれんばかりに首を揺らすジジイの所へ向かった。
「おい、ジジイ。なぜお前がここにいる?」
「ほっほっほっ。なんじゃ、お前さんか。ココは儂の秘蔵写真を見せるブースじゃ。学校にはちゃんと認可を受け取る」
「なに、秘蔵写真だと?」
私はジジイが持っていたパンティアングルの画像を思い出した。
「まさか、また盗撮したヤツじゃないだろうな?」
「盗撮ではない。それに、ちゃんと実行委員にも提示して了承を貰っておる」
「実行委員?」
「ほれ、あそこにいる奴じゃ」
ジジイが指差した先には「実行委員」の腕章をつけた冬也が、ムフフな顔をして秘蔵写真を見ていた。
冬也が「畜生、やっぱりデジタルだと透視眼が使えねぇな」「やっぱりリアルの方が俺は……」とブツブツ言っておきながら目はにやけている。私は冬也の頭をペシャリと叩く「何をやっているんだ?」と言った。
「いてっ、なんだ瞠じゃないか」
「邪眼党が実行委員をしているとは。お前も落ちたものだな」
「しょうがないだろ。単位がやばいんだよ。先生に言われたら断れない」
「一匹狼も先生には形無しか。飼い慣らされおって」
「うるせえ。しょうがないだろ」
冬也が見ていた画像を見ると、女子柔道部員が相手を投げ飛ばしている画像だった。たしかに、前回見たパンティラインを重視したアップではなかった。ギリギリのセーフティーラインである。ジジイ、学習しやがったな。
なにはともあれ、こんな所で冬也は何をしているんだ?
「お前、一応は実行委員だろ。こんな所で油を売っていていいのか」
「こう見えても任務中なんだよ」
「任務? いったいなんの」
「ここらへんでサンタクロースの格好をしたなまはげが出るって苦情が出たんだ」
「なまはげ? なんだそれは」
「知るかよ。弟はいねえかって訊きまくっているらしいぜ」
「それなら、こんな所でパンティなんぞ見てないで探せ」
「これも仕事なんだよ。この中に卑猥な画像がないかチェック中なんだ。パンツを見るのも仕事なの」
「パンティを見るのが仕事?」
「そう、パンツだ」
私と冬也が話していると、ジジイが私の隣に来て、
「ほっほっほっ。先ほどからパンツやパンティやら、なにを言っているのじゃ。洋袴と呼びなさい」
「こら妖怪ジジイ。洋袴と書いてパンツと呼ぶな。ちゃんと発音しないとパンティに失礼だろ」
「発音ならパンツが正しい。二人とも間違っているぞ」
「なんだと」
「なんじゃと」
私とジジイは隼人に食ってかかる。
「いいや、パンティだ。パンツや洋袴よりパンティと呼んだ方が神秘性が増す」
私は断固、パンティ派なのだ。
「それは差別だ。パンツも十分神秘性を感じるぞ」
「それを言ったら洋袴も……」
「「それはない」」
私と冬也は声を揃えて否定した。
「それに冬也。お前は間違っている。私はお前と違ってパンティに差別や区別はつけていない。師匠と同じ広い視野で見ているのだ」
「なら、なんでお前は一度もパンツと言わないんだ。差別しているから言わないんじゃないのか?」
「なっ、それは……」
私は言い返せなかった。パンティと呼んだ方が神秘性が増すのは事実。しかし、それはパンツとパンティを無意識に分別をしているのかもしれない。
表現の自由は各々(おのおの)にある。それでも言い返せない自分が許せなかった。




