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魁!ぷりん部  作者: 三池猫
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Lesson2「ぷりん部なら、パンティに命を燃やせッ!」 06

 近年まで、着物の下には肌着を着用していなかったらしい。そもそも下着とは、男性の履くフンドシであったため女性の下着は無かった。それが火事やらなんやら、様々な経緯で現在のパンティと相成った。なんとも素晴らしい。

 ジジイの話だと、一部の男子柔道家は胴着の下には何も身につけないらしい。「汗でべとつく」や「風通しが良い」などの理由が多い。腰を据え、ブラブラと揺れる下半身(ジユニア)を思うと吐き気がする。しかし、それが女性となると別の話だ。キララは試合中パンティを着用していない。それは、先ほど述べた「汗でべとべとする」が理由だと私は推測する。だが、如何なる状況であってもパンティを穿かない理由にはなっていない。一般的にはまかり通る理由でも、私はまかり通さぬ。女子はパンティを穿け。そして汗で浮き出たパンティラインを堪能するのが漢の義務である。

 パンティ。

 ああ、なんと甘美な言葉だろう。

 今では下半身を覆う布地としてパンティは有名であり、女性の代名詞と呼んでも過言ではない。仮面党が母の温もりを追い求めるように、それに執着するのもわからんでもない。私もその中の一人である。しかし、それとこれとは話は別である。私は全力で仮面党を阻止する所存である。


 キララのパンティは何処か? 答えは決まっている。更衣室以外考えられない。ならば、更衣室は何処か? 答えは明白。影光を目撃した場所に行けばいいことだ。その放物線上に目的の場所があるはずだ。

 私と隼人は直線的に伸びた通路を駆け抜け、『女子更衣室』とプレートが掛かった部屋の前にたどり着いた。

 急いで中に入ろうとする私を「待って下さい。中に人がいたら大騒ぎですよ」と引き留める。

 なるほど、それは一理ある。勢いよく中に飛び込み、着替え中の女子部員を拝見しようものなら、覗き野郎のレッテルを貼られ、半生を泣いて送るハメになる。それは避けたい。

「先輩。僕が先に入ります」

「隼人、お前」

 決意に満ちた眼で私を見つめる隼人は、どこか戦地に向かう特攻隊員のように思えた。

「わかった。骨は拾ってやるからな」

 隼人が一礼して「行ってきます」と中に入って行く。

 隼人、お前は漢だ。

 私は辺りを見渡し、人が居ないことを確認する。幸い準決勝が行われているため人気はなかった。

「先輩」隼人がドアから首を出し「大丈夫です。中に人はいません」と言った。

「よし。隼人は外を見張っててくれ。誰か来たらドアをノックして知らせるんだ」

「わかりました」

 私は隼人と入れ替わって中に入った。

 室内は女子更衣室ともあって良い香りが立ち籠めている。床には中身が飛び出したまま散乱したスポーツバックとロッカーしか見当たらない。散らかった室内を見渡し「仮面党にしては荒れているな」と思った。仮面党の手際と整理整頓能力は派閥の中では有名な話だ。それがなんだ「泥棒が入りました」と言わんばかりではないか。

 見渡していると、パンパンに(ふく)れたスポーツバックが目に入る。チョンとつま先で突っついてみるとピクピクと動いた。

「……」

 あからさまに生き物が詰まっている。バックの持ち主には悪いが、頭キックで蹴り上げてみる。

「うぎゃあああ」とバタバタ暴れるのが、とてつもなく気持ち悪かったので、もう一撃蹴り飛ばす。静かになった。

 ファスナーを開き、中身を確認すると、顔も知らない仮面党が白目をむいて気絶していた。何故、顔も知らないのに仮面党だと分かったのか。それは、スポーツバックの中に入るようなアホは仮面党しかいないからだ。

 どうやら、影光以外の仮面党もこの中にいるみたいだな。

 手当たり次第に、パンパンに詰まったスポーツバックを蹴り上げると、八割方仮面党が入っていた。

 しかし、一向に影光の姿は見当たらなかった。残りのバックのサイズに人が隠れるスペースはない。ならば何処か? ロッカーしかあるまい。

 私は右から順に、ロッカーを蹴っていく。右側のロッカーを蹴り終え、正面のロッカーを蹴っていた五番目だった。

「ひっ」と悲鳴が漏れた。トラウマでもあるかのように怯えた声だった。

 確認のため、もう一度蹴ってみる。

「ひっ」と、やはり声が聞こえた。

「影光。出てこい」

 私はロッカーの中にいる影光に呼びかける。

「五秒数える。出てこないと、このままロッカーを倒して、女子部員が来るまで放置するぞ」

「……」

 影光は何も答えなかった。

「五……四……一」

 面倒だったので三と二は省いた。

「ちょっと待って! ……あれ、開かない」

 影光が急いで外に飛び出そうと、ロッカーをガタガタ揺らす。私は影光の声がした隣のロッカーを見ていた。

「……?」

 影光の声がしたのは六番目のロッカー。ならば五番目であるココには誰が入っているんだ?

 私は目の前のロッカーを開けると、見も知らぬ仮面党が入っていた。なぜ、見も知らぬ……(以下省略)

「誰だお前はああああ」

 怒りの一撃が男の鳩尾(みぞおち)に打ち込まれる。すかさず勢いよく扉を閉める。まったく、紛らわしい悲鳴しおって。

 仕切り直して、私は六番目のロッカーの前に移動した。

「影光、一つ聞きたい。キララのパンティは何処にある?」

「え、安藤? 知らない知らない。俺たちが入ったときには、すでにパンツは無かったよ。本当だよ。じゃなかったら、今頃被っているよ」

 たしかに、先ほどスポーツバックの中にいた仮面党も、隣のロッカーで悶絶している仮面党もパンティを被っていなかった。仮面党ならあるまじき行為だ。

 ならば、キララのスポーツバックを含め、女子のパンティは何処にいったのだ?

 もしかして……

 私は完全な見落としをしていた。

「おい、影光。お前、なま党を見たか?」

 説明しよう。なま党とは――

 パンティは、女性が穿いてこそ価値を見いだすを信条としている徒党だ。なま党内で独自に開発した「神風伍号」で、風を起こし、自然現象を装いパンティを拝見しようとしている。

 なま党幹部クラスになると風を感じることも出来るらしい。

 一部の過激派も存在し、実力行使でパンティを拝見しようとする輩も存在している。

「え、なま党? 見たような見ていないような。あの人達って区別しにくいから覚えてないよ」

 確かに、なま党は一般人に隠れているケースもある。見つけ方は、パンティを見せて目がハートになったアホがなま党である。

 仮面党だけでなく、なま党も視野に入れるべきだった。類は友を呼ぶと云う。冬也がいるなら邪眼党もこの中にいるはずだ。そして、邪眼党と共に行動するなま党もココにいる。

 なま党だけなら問題ないが、邪道派のなま党が相手だとすると面倒だな。

 奴らは「春風」といい、パンティを見るためなら手段を選ばない奴らだ。

 そもそも、学校内の女子のパンチラをひたすら拝見することに全身全霊を捧げる徒党だったが、近年ではなま党から分裂し「なま党・春風」と名乗っている。ちょっとでもチャンスがあれば手段を選ばない。スカートめくりや下着泥棒にも手を染め、盗まれた下着は二度と返ってこない。噂では東京都内のブルセラショップに売られるとも、国外に運ばれていくとも云われている。過激派の春風はいつのまにか犯罪にも手を染める邪道派に成り下がってしまった。

 最近では学内にものみならず、東京全域にも勢力を伸ばし、女子は学校を出ても油断をしてはならない。落ちるとこまで落ちた彼らは忌むべき存在である。

 キララのスポーツバックには、戦隊物のストラップが付いている。もちろん、戦隊物とはイケナインジャーのストラップである。なぜか、キララの持ち物にはイケナインジャーグッズ(レッド)が見受けられる。

 本人に訊いたところ「貰い物よ」と言っていた。いったい、誰に貰ったのか気になるが、そんな事を気にしている場合ではない。今はソレが目印なのだ。

「なあ、ぷりん党。もしかして君は春風がここに来ているって思っているのか?」

「それしかあるまい。こんな目にあまる所行は奴ら以外考えられない」

「ってことは、被るパンツはもう無いのか。……クソ」

 影光が小さく毒付いた。よほどパンティが被れないことが悔しいのだろう。

 その時、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。隼人からの合図だ。

「ちっ。時間切れか」

 まあいい。抜け殻になったこんな場所には用はない。

 私は窓から外に飛び出し、一目散にその場を後にした。取り残された影光が「あれ、なんで開かないの?」とロッカーをガタガタ揺らしていた。奴がこの後、女子部員の手によって引きずり出されたことは言うまでもない。

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