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魁!ぷりん部  作者: 三池猫
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Lesson2「ぷりん部なら、パンティに命を燃やせッ!」 04

 私たちの通う高校には体育館が科目別ごとある。その中でも北に建てられた第一体育館は選抜大会で使用されるほか、公益的なことにも利用されている。各科目別に建てられた体育館より第一体育館は大きく、日本武道館くらいある。スケールが大きいのは我が校の特色である。

 キララに言われたとおり、私と隼人は十一時過ぎに第一体育館に着いた。呼び出されたのは私だけなので、隼人は来なくて良かったのだが「先輩が行くなら付いていきます。どうせ暇なので、気になさらないで下さい」と言って私の後ろを付いてきた。謙虚な後輩をもつ喜び、これこそ我が師匠と同じ心持ちか。しかも、望むべくもない美形とくれば、鼻も高い。付いてくる姿も凛として百合の花を思わせる。


「うわぁ。やっぱり大きいですね」

 ムダにデカイ体育館を見て、まだまだ新入生らしい一面をのぞかせる隼人が呆気にとられている。一般公開されているが、外部の人間はそれほど多くない。見かけるのは出場者の両親くらいだ。そもそも学校独自のイベントなので外部の者が少なくて当たり前とも思えた。

 出入り口の隣には、蛇のような顔をした男がプカプカと煙草を吸っているのが見える。グレーのYシャツを肘まで捲り上げ、鋭い目つきは獲物を待ち構える捕食者のようだ。

 男の纏っている雰囲気に、幾分か気になったが、関係ないことだと思いインビジブルさせてもらった。

「先輩。試合、始まってますよ」

 そう言って隼人は小さい手で私の手を引っ張る。

「おい、引っ張るな」

 キララの試合が始まっていようが、終わっていようが、私にはどうでもいい。顔を出せばキララも満足するだろう。負けていればなおいい。

 その時には、私の脳内に先ほど見た男の濃厚なまでの存在は消えていた。


 試合会場は六面敷かれており、右側三面を女子、左側を男子と区別していた。先鋒、次鋒と書かれたプレートが、ホワイトボードに張り付いている。どうやら団体戦をやっているみたいだ。

 むっ? あいつらは……

 男子が試合している直ぐ近くに、見覚えのある髪型を見付けて驚いてしまった。鶏頭にフランスパンとコッペパン、おまけにパンチパーマがいるではないか。先日、私を襲った不良達である。なぜ、奴らがここにいるんだ。応援に来ているのか?

 奴らに見つかると面倒なので、私は遠回りしてから、女子が試合をしている右側の会場へ歩いた。

「まったく、やっと来たわね」

 白い胴着姿のキララが現れた。その時、なぜかキララを見て「なんか変だな?」と感じたのは私の気のせいだろうか?

「ちょっと瞠、遅いわよ。二回戦終わっちゃったじゃない」

 それがどうした? と言いたいが辞めておく。違和感のことも聞きたかったが、どう言っていいのか分からないので、これも辞めておく。

「結果は? 勝ったのか」

 私の問いに、キララはフフンと鼻を鳴らして「当たり前よ」と、勝ち誇った顔を見せてくる。

「普通科①が初戦で負けるわけないでしょ。シード枠なのよ」

 そんなもん知らん。シードだろうがシートだろうが知ったことか。

「ふーん。それで次の対戦相手はどこなんだ。強いのか?」

 キララが試合会場に親指を向ける。

「今、試合しているわ。勝った方と次、戦うの」

 私が指差された所を見ると、青い胴着と黒い胴着姿の女子部員が試合をしていた。

 私は瞬時に、青がフルバック、黒がリオカットだと分かった。

 リオカットとは、フロントのカッティングが深いハイカット。バックの布地面積がフルバックの二分の一カットになるのが特徴のパンティだ。

「あれはどこの科なんだ?」

 隣にいるキララに訊きながら、私の視線はリオカットに釘付けだった。

「青が進学科で、黒が普通科④よ」

「ほう、それは面白い組み合わせだな。偏差値の高い進学科と、アホでも受かる普通科④が戦うとは」

「まあ、黒が勝つでしょうね。青なんて逃げ腰だし」

 私はホワイトボードを見ると、先鋒、次鋒とも「○」。今戦っている中堅が勝てば普通科④の勝利である。

「なんだ、もう二勝しているではないか」

「そう。進学科なんて全部あんな戦いなのよ。もう、なにをやっているんだか。私としては進学科に勝ってもらいたいのに」

「なんで? 弱いからか?」

「違うわよ。普通科④の中堅と私が当たるからよ」

「中堅? 今戦っているリオカットか?」

 私は自分の失言に口を押さえた。が、時すでに遅し。睨みつけるようにキララが私を見る。

「あんた……」

 まずい、このままでは絞められる。投げられる。折られる。

 身動きも出来ず、汗が頬を伝う。

「まあいいわ。あの中堅、見覚えあるでしょ?」

 呆れた眼で私を見ていたキララが、黒胴着の女性を顎で指す。

 何はともあれ助かったらしい。

 私は再度、黒胴着の女性を見る。見覚えあると言われても、他の科に知り合いはいない。見覚えと言われてパンティ以外に見覚えなんて……

 そう思っていた。

「あっ、あっ、あいつは!」

 華麗に青胴着を投げ飛ばし「一本」と審判が旗を挙げる。息を切らすこともなく、悠然と開始線に立つ黒胴着の横顔に見覚えがあった。

「なんでアイツがココにいるんだ。そもそも柔道部員だったのか!」

「そうよ。私、あの子苦手なのよね。変に突っかかってくるし」

 キララが溜め息を吐く。

 審判に一礼して、こちらに戻ってくる黒胴着が私の存在に気がついた。

「あっ!」

 と口を開き、猛ダッシュで私の顔に飛びついてきやがった。

 何も見えん。見えているはずなのに見えない。これ如何に?

 突然、私に降り注いだ魅惑的な光景を目の前にして、冷静な判断が付かないでいた。眼前に立ちはだかる二つの膨らみ。ふっくらと柔らかく、弾力があった。例えるならばプリンが適している。ぷるるんとして、崩れそうで崩れない。幾度となく漢たちを魅了してきた膨らみに私は困難を極めていた。

「瞠やんけ。こんな所で会えるとは思っていなかったけん」

 私の顔に黒胴着の胸が押し当たる。もう何が何だか分からない。私の脳内では、参謀長率いる理性と、ジュニア率いる性欲が覇権争いをしている。

「感受性に主導権を握られてはならぬ。我は概念的思考を訴える文明人である」

 と采配をふるう参謀長に対し、

「おいおい、そんなに文明人は偉いのか? 理性なんて取っ払って桃色遊戯にしけ込もうぜ」

 ジュニアが声を高らかに言った。

 私は両軍に割って入り、自我を主張した。互いに侃々諤々(かんかんがくがく)論争の結果、何を成すべきかハッキリした。

「なっ、なんで方言女がココにいるんだ」

 そう、我々が導き出した答えは、状況把握だった。「一時的な煩悩に、人生を棒に振っていいのか」と性欲を叱咤(しつた)する。次にメルトダウン寸前の理性を(なだ)めた。

 私は今一度、確認した。ダルマでも抱えるように、顔面に張り付くリオカットの女性は、やはり方言女のようだ。以前、私の後頭部を陥没しようとした女である。それがなんだこの展開は? 方言女のキャラが変わりすぎている。ヨーヨーを持っていないと性格が変わる設定なのか?

「方言女と言わんと、黒蝶か、くーちゃんって呼んでや」

「ちょっと、黒蝶。離れなさいよ」

「先輩から離れて下さい」

 私の隣にいたキララと隼人が、方言女の胴着を引っ張っているのが見える。

「いやや。うらやましかったら、あんたらも瞠に抱きつけばいいと」

 待て! そんなことされたら、私の自我と腰骨が砕けてしまう。

「いやや」と方言女が更に胸を押し当ててくる。

「わかった、黒蝶。方言女とは呼ばないからいったん離れろ。苦しい」

「なんや黒蝶だなんて、うれしいな」

 一層強く胸を押し当ててきた。とても苦しい、だが幸せだ。まて! これでは変わらないではないか。意味の分からぬ二つの膨らみに、恍惚と窒息死してどうする。それではただの変態ではないか。きっと、私の死に顔は大衆の反感を買うくらいのエロ顔になっているはず。このままだと、今まで生きてきた十数年が水泡に帰してしまう。それは避けたい。

 秘技「焦熱連撃(ガトリング・ハイウェイ)

 私はやむなく秘技を発動させ沈静化を図った。秘孔を貫かれた黒蝶は、ずるずると私の身体を滑り落ちる。彼女の顔が私の下半身(ジユニア)の前にきた。

「……」

 辺りが凍り付く。私の足に抱きつく黒蝶の力が強くなり、顔を下半身に押しつける。

 今まで不貞寝(ふてね)していたジュニアが「おっ、やっぱり俺の出番か?」と鎌首ををもたげる。

「ちょっと、なにしているのよ」

 キララが黒蝶の襟首を掴み引き剥がす。

「先輩に変なことしないで下さい」

 隼人が私と黒蝶の間に入ってきた。

 私はくの字になり、盛ったジュニアに「違う、お前の出番ではない」「誤作動だ。反応するな」と叱責する。

「なにすると」

 バタバタと暴れる黒蝶が立ち上がり、キララを睨みつける。キララも負けじと胸を張る。

「恥ずかしいことしないでよ」

「別に、あんたに迷惑掛けてなか」

「みっともないのよ」

 いがみ合う二人。私は隼人の後ろで懸命にジュニアに言い聞かせていた。「とりあえず落ち着け」と、振り上げた拳をなかなか納めてくれないジュニアを(なだ)める。

「ぷりん部としての誇りはないのか。お前は私の分身であり息子ではないのか? たしかに、今までお前と女性が近づいたことはない。しかし、ココでぷりん部としての誇りを放棄してなんになる。好機はまだ到来せず。判断を誤って好機を逃してはならぬ」

 私の熱意が通じたのか、ジュニアはごろんと横になり鞘に収まった。すまん。

 これでようやく姿勢を正すことができる。

「先輩、大丈夫ですか?」

 と、隼人が心配そうにのぞき込んでいた。

「問題ない。ジュニアには言って聞かせた」

「ジュニア?」

 小首を傾げる隼人には、なにを言っているのか分かっていないようだ。お前も漢なら分かるだろう?

 その時、黒蝶の仲間が駆け寄ってきた。

「ちょっと黒蝶。試合が終わったわよ。早く整列しないと」

「えっ、もう大将戦が終わったと?」

 試合場を見ると、お互い中央に整列し黒蝶のことを待っていた。

「勝負は次の試合で決めたるけん。覚悟しいや」

 キララを指差しながら、黒蝶が足早に去っていく。なんだったんだ? 人はこんなにも変わる者なのか。第一印象とだいぶ違うが、あれが黒蝶の本当の姿なのだろうか。

「まったく」

 毒付くキララに私は尋ねた。

「キララと黒蝶はいつから知り合いなんだ」

「知り合いじゃないわ。同じ中堅なだけ。選抜大会でいつもかち合うのよ。黒蝶が変に私のことを意識しているだけよ」

「いままでの勝率は?」

「高校一年からだから六連勝かな」

 それじゃ、根に持つな。

「まあ、今回も勝たせてもらうわ。瞠、十二時前に準決勝が始まるから、見なさいよね」

 そう言ってキララは部活仲間のいる方へ歩いて行った。

 なんで、私がキララの試合を見なければならんのだ。勝とうが負けようが私には関係ない。

「あの、先輩」

 隼人が私の袖を引っ張ってきた。

「どうした?」

「あそこにいる人。このまえ水泳部の前にいた人ですよね?」

「なに?」

 隼人の視線の先を見ると、通路をせわしなく移動している影光の姿があった。

「なにしているんだ?」

「仮面党の方がココにいるってことは、やっぱり狙いはパンツですよね?」

「そうなるな。しかし、ここで被るパンティを手に入れることなんて出来ないだろう」

 仮面党はパンティを被る装飾品と言っているくらいだ。見ているだけで満足するわけがない。

「隼人よ、気にするな。我々の障害にならないのなら……」

 続いて言おうとしたとき、隼人が割って入ってきた。

「他の徒党の邪魔をするときは、自分たちの障害になるときだけ。ですよね?」

「その通りだ。わかっているじゃないか」

 隼人は「もちろんです」と言って笑った。

 これも日頃の(たまもの)だろう。レッスンが生かされている証拠だ。

「キララの試合まで時間があるから、私はちょっとトイレに行ってくる」

「わかりました。僕はこの辺にいます」

「ああ」

 そう言って私はその場を離れた。

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