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魁!ぷりん部  作者: 三池猫
11/33

Lesson1「怠惰で無二な日々こそが、ぷりん部の活動方針だッ!」 10

 えーと、結論から言おう。地下道は現在、開通していなかった。私たちの目の前に立ちふさがったのは、更衣室のコンクリートと思わせる分厚い床だった。なんてことだ、私の策は初めっから破綻していたのだ。


「ちょっと、どうするのよ」

 キララが私の襟首を締め上げながら言った。

「うっ……苦しい」

 絞め技というものは二種類ある。頸動脈に圧をあたえ脳に酸素を与えないものと、気管を塞ぎ肺に酸素を行き届かせないものだ。前者は決まると一瞬で意識が途切れる。が、後者は窒息なので非常に苦しい。

「聞いているの? 行き止まりなのよ。このまま引き返すなんて出来ないのよ」

 地下道に微かに光る蛍光灯が、キララの顔を異様に照らし出している。まさに魔界の住人と言ってもいいくらいだ。

 あたりには、コンクリートをぶち破ろうとした痕跡がある。仮面党め。まだ、開通していないのなら張り紙の一つくらい貼っておけ。しかし、今は仮面党に文句を言っている場合ではない。人命の危機なのだ。この場合、私が起こす行動は一つだけ。

焦熱連撃(ガトリング・ハイウェイ)

 全身全霊を込めた連撃(全指先)がキララの脇の下を突く。

「きゃっ」

 身体をくねらせながら、キララは絞め技を解いた。私は咳き込みながら、不足した酸素を懸命に取り込む。

「キララ、待つんだ。こんな事をしている場合じゃないだろう。次の策を練らないと」

「あんたが招いた結果じゃない。もういいから、早く考えなさいよ」

 乱暴に吐き捨てるキララは、頭を掻きむしりながらイライラしている。

 なんとかすると言っても、ここに居てもラチがあかない。と、言っても地上には方言女とパンチパーマがいる。彼らが諦めて別の所に行くのを待つしかない。

 そんな、私の淡い期待は粉々に砕け散った。

「おっ、いたいた。こんな所に隠れていやがったな。ロッカー男の言うとおりだな」

 パンチパーマが現れたからだ。その後ろには方言女が「おった、おった」とヨーヨーを振り回しながら下りてくる。

 オノレ影光。末代マデ祟ッテヤル。

 まさか、こうも容易くこの場所が見つかるとは思ってもいなかった。

「もう、逃げられないぜ」

 ニヤニヤしながらパンチパーマが近づいてくる。

「ちょっと、あんた達の目的はコイツでしょ? 私は無関係なんだから見逃しなさいよ」

 キララが私を指差して言った。

「ちょっと待て! ここまできて裏切るのか?」

 なんて女だ。私を見捨てるのか。

「うるさいわね。私には部活があるのよ」

「部活だと! そんなパンティで部活なんてするな。Tバックでないと私は認めないぞ」

「なっ……あんた、見たわね」

 私の失言に、キララが鬼の形相で睨みつける。

「おいおい、痴話喧嘩が始まったぞ。黒蝶、どうする?」

「まあ、今回の目的はその男なんやし、キララは見逃したら? 二人居るとうるさそうやけん」

「そうだな」

 パンチパーマがキララに近づいて「おい、お前は外に出ていいぞ」とキララの肩に手を置いた時だった。キララはその手を掴み、一本背負いでパンチパーマを投げようとした。

「おお」

 瞬間的にパンチパーマは壁を掴み踏みとどまる。狭い地下道が仇となってしまった。

「そや。キララは柔道部やから、近寄らない方がいいで」

「先に言え」

「やけん、あんたが安易に近づくからいけんとよ」

「瞠! 今よ」

「了解」

 キララの合図で私は飛び上がり、パンチパーマの顔面をサッカーボールの如く蹴り上げた。

 無様に倒れるパンチパーマに私は、

「見たか。これが秘術『一心同体(コンビネーシヨン)』だ」

「ちょっと、大丈夫」

 方言女がパンチパーマに言う。脳しんとうを起こしたパンチパーマの焦点があっていない。秘術はダテじゃないのだ。

「あんた、ちょっとせこいんちゃう? もうええわ。来月の選抜戦に出られん身体にしたるけん、覚悟せえ」

 ヨーヨーが上下に回転する。キララが「ちょっと、選抜大会に出るのは私よ。なんで、私も入っているのよ」と抗議している。

 方言女は「そんなん、知らんけん」とお構いなしにヨーヨーを回転させる。

 ぶおんぶおんと徐々に遠心力が増していく光景を見ても、私の優位は変わらなかった。

「方言女よ、お前は甘いな。一心同体(コンビネーシヨン)は多勢になって初めて効果が出るのだ。多勢に無勢なのだ」

 私は胸を張って、方言女を指差す。

「さあ、行けキララ。あいつを亡き者にするのだ」

「イヤよ」

「えっ?」

 キララよ。なぜ拒否する。ここでの突撃役はお前なんだぞ。

「あんたが行きなさいよ」

「なにを言う。コンクリートを粉砕するくらいの破壊力があるんだぞ。あんなもん喰らったら頭蓋骨陥没だ」

「それなら私だって同じよ。死ぬならあんただけにしてよね」

 恐ろしい女だ。「ここは私に任せて」と言えないのか?

「安心せえ。二人仲良く陥没させたるけん」

 放たれたヨーヨーが私の顔面をかすめる。

 この女。キララ以上に危険だ。

「ちっ、こうも狭いとやりにくいが」

 後ろに反動を付けて二撃目を繰り出す。私はそれも躱すと意外なことを知った。

 意外とよけられるぞ。攻撃力は高いが動作が大きすぎる。私の洞察眼に適えば見切ることは容易い。

「キララ。いけるかもしれない」

「なら、なんとかしなさいよ」

「それとこれとは別だ」

「この役立たず」

 ひどい言われようだな。

 その時だった。三撃目を躱したとき、

「あの……先輩、なにをしているんですか?」

 方言女の後ろから、オドオドした隼人が姿をあらわした。なぜ、ここに隼人がいる?

「だれや!」

 方言女が後ろを振り向いたのをキララは見逃さなかった。放たれたヨーヨーの紐を足で押さえつけ、ヨーヨーが方言女の手元に戻らないようにする。

「瞠!」

「まかせろ」

 私は一気に方言女に近づき、全身全霊の気を指先に集めた。隼人は「えっ?」「なに?」と戸惑っている。

 突き抜けろ『焦熱連撃(ガトリング・ハイウェイ)

「しまった」

 方言女が気づいたときには、私の秘術が脇の下を貫いていた。

「あんっ……」

 なんとも卑猥な声を残し、方言女は崩れ落ちた。私たちの勝利である。

「あの……先輩。いったい、何をしているんですか?」

 隼人の疑問はもっともだ。当事者でなければ、こんなアホな戦い理解出来ないだろう。

「気にするな。それにしても、隼人がなぜここにいるんだ?」

「それは、仮面党の皆さんに覗きはよくないと忠告しようと来たら、先輩がここにいると上にいる仮面党の方がおっしゃったので……」

「そうだったのか。まあ、お前のおかげで助かったぞ」

「はあ……。それにしても、なぜ上にいる仮面党の人はロッカーの中にいるのでしょう」

「それも気にするな」

「まったく、一時はどうなるかと思ったわよ」

 キララが服をパタパタと叩きながら言った。

「あっ、キララ先輩もご一緒でしたか」

「不本意に巻き込まれたのよ。ほんと、毎度毎度、瞠には迷惑するわ」

「まあ、そういうな。無事助かったのだからな。キララにも感謝する」

「なっ、私は自分の身を守っただけよ。だれがあんたみたいな変態を助けるものですか」

 そういうキララの顔は赤くなっていたように見えた。蛍光灯のせいだろうか?

「とっ、とにかく、外に出るわよ」

 私がキララの後に続いて、外に出ようとしたとき、

「あんたの名前、なんて言うと?」

 倒れ伏す方言女が私に尋ねてきた。

 言って恥じる名前でもないので、私はどや顔で言ってやった。

「教えてやろう。ぷりん部部長兼ぷりん党の佐木崖瞠だ」

 私の名前を知った方言女は流し目で私を見て、

「ほうか、瞠やな。あんたの名前覚えたけん」

 と言った。

 女性に名前を覚えられて、嫌な予感はしても嫌な気はしない。

 私は先ほど、方言女を突いた指の感触を思い出した。

 この女、意外と胸が大きいかもしれない。

 などと、胸に浮気をしていたら、

「なにをやっているの。早く行くわよ」

 と、フルバック……いや、キララが私を呼んだので「ああ」と返し、その場を後にした。

 まさか、方言女こと黒蝶が、今後、私を付け狙うことになるとは、この時の私には分かるはずがなかった。

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