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零シティ  作者: 観月
第一章 追憶の日々
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辺境の村の記憶 -2-

「アルフレッド様、お連れの方がお見えですがお通ししても?」

 店の者が遠慮がちに顔をのぞかせる。

(……連れ?)

 エヴァンジェリンは首をかしいで、アルフレッドを見やった。アルフレッドは頷き返すと言った。

「ああ、通してくれ」


 ほどなくして男と女が一人ずつ、姿を現した。

「はあい、ベータ、さっきはどうも」

 後ろにハートマークを飛ばしそうな甘ったるい声をかけたのは、先ほどまでバーで一緒だったイプシロンだった。そのイプシロンの後ろから小柄で少し日焼けして黒髪に鋭い黒い瞳の男。

「……オメガ」

 エヴァンジェリンはオメガに視線を向けたまま固まった。オメガもベータに向き合ったまま固まっている。

 先に声を出したのはオメガだった。

「おまえが……ベータ!? おまえ、今おれの名前呼んだよな! しゃべれるんじゃねえかよ。しかも女かよ」

 ベータ(エヴァンジェリン)の方へ顔を突き出すように声を荒げたオメガを無視して、彼女はアルフレッドの方を振り返った。

「アル! 私はこの男との仕事はもうしないと言ったはずだ!」

「御挨拶なこったな! アルフレッド! この女にはもうすべて話してあるのかよ」

「いやー、多分?」

 アルフレッドは頭をかきながら言った。目じりがますます下がり、情けなさげな顔になる。

「まあ、そろっちゃったんだし、自己紹介から……ってことで」

 そう言ったアルフレッドにオメガは、喉を鳴らす。そして、ベータに向かい合うように先ほどまでラムダが座っていた席にドカリと腰を下ろした。

「コドモじゃねえんだぜ。自己紹介ときたか」

「まあまあ、いいじゃないの」

 イプシロンが笑みを見せながらベータの隣に座った。

「イプシロン、おまえも、さっきバレットで話したときはもう、このこと知ってたんだな?」

 エヴァンジェリンがイプシロンを睨みつける。

「あははは。ごめんね。でも本当にあなたと一緒に仕事をしたいと思ってるのよ。ここに残ってるってことはこれから先も一緒にやっていけると思っていいのよね?」

 イプシロンが悪びれない顔で言い、エヴァンジェリンは呆れたようにため息をついて、それが答えとなった。

 円卓に四人が座った。

「俺のことは全員知ってるからいいとして。さっき、エヴァにも自己紹介したしな」

 アルフレッドが向かいに座るイプシロンに目配せをする。

「了解。わたしからね? コードネーム・ε(イプシロン)これからはレベッカと呼んでね? レッドスコーピオンは立ち上げからのメンバーだから最古参ってとこかしら?」

「ω(オメガ)本名はリョーマだ」

 オメガ=リョーマがうつむいたまま言った。

「リョ……マ?」

 変わった響きにエヴァンジェリンが復唱する。

「ああ。彼は東洋系だ。で、こいつがβ(ベータ)本名エヴァンジェリン。エヴァでいいかな?」

 アルフレッドの言葉にエヴァンジェリンは頷く。

「とまあ、これから先はここにいるメンバーが中心になって動く予定。俺のもとに残ったメンバーはここにいる三人も含め全部で九名。まあ、いいくらいかな? 最初からあまり大所帯でも、難しい」

 アルフレッドが言うと「ひとつ聞きたい」と言いながら、エヴァンジェリンはオメガ=リョーマを見た。

「なぜおまえが? なぜこんな危険な賭けに乗るんだ?」

 オメガの瞳が暗く揺らいだ。

「エヴァ。お前の言うとおりだぜ。本来なら王族の跡目争いなんて知ったこっちゃねえな。だが俺はジュールを殺す。そう決めてる。だからここに残った」

 エヴァンジェリンは、今目の前にいる男の表情に驚かされていた。いつも、どこか軽薄で狡猾、そのうえ獰猛な雰囲気を纏う男だ。今は、暗い中にもきっぱりと意思を宿した眼をしている。

「おまえ……リョーマ? なにがあったんだ」

 少し前までオメガと名乗っていた男、リョーマは軽くアルフレッドと視線を交わすと、エヴァンジェリンに向き直った。

「一番東の端にある、セブンスシティ、そこからさらに東へ百キロほど行ったところに東洋系の人間が多く住んでいた小さな村があったんだよ。昔な。ちっさくって、貧乏で、ガキなんかみんな鼻水垂らして、きったねえ村。そこが、俺が生まれた場所だ」

 リョーマはエヴァンジェリンの表情を眺めながら話す。

「俺は昔っからお前の言うように下司野郎だったから、家族も散々困らせて、家なんて見向きもしねえで、さっさとそんな街は捨てたさ。腕っぷしはそのころから強かったからよ」


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