ガーディアン -3-
異変が起きたのは日付が変わろうかと言う頃だった。
ちょうどアルフレッドはキャンプ内を見回っていた。警備以外の者達は、寝息を立て始めるころかもしれない。少し遠くで銃声のようなものが聞こえた。
あたりがざわめき始める。が、何しろ何百人という大編成のキャラバンだ。どこで騒ぎが起きているのか。
アルフレッドは王子やセドリックのいる天幕のそばに差し掛かっていた。
とりあえず、そこへと走り天幕内へ飛び込んだ。
飛び込んだ先にはすでに何人かの護衛が臨戦態勢でヴェルヌ王子とセドリックを取り囲んでいる。
「何が起きている?」
アルフレッドが問う。
「いや、まだわからないそのうち伝令が……」
その時銀の髪の一人の女が、人の集まるその天幕へ駆け込んできた。
「シルヴァ……あわてなくてもぼく、大丈夫だったのにそんな恰好で……」
当の本人よりも、主人のヴェルヌの方が恥ずかしそうに目を白黒させた。
「わたしなら大丈夫です。すいません装備を解いておりました。甲冑を付けている間がありませんでしたので……申し訳ありません」
上半身は体にぴたりとしたアンダーシャツ一枚。下半身はさすがにアンダーと言うわけにはいかず、ロングパンツと編上げのブーツを身に着けていた。アンダーシャツの上に銃を収納したショルダーホルスターを身に着け、手には重そうな剣を握っている。
「おまえ……まさか、ガーディアンの中身!」
アルフレッドが呻いた。その場にいた警護のもの数人が息をのむ。決して主人以外に素顔をさらさないと言われているガーディアン。年齢も性別すらも知れない中身がこんな若い女だったとは。
戦闘用の女性用の下着を身に着けているから、透けるわけでは無いが、はっきりと見て取れる胸のふくらみに一同がたじろいでいるのがわかる。
と、その時一人の伝令が天幕の中に転がり込んできた。
「銃を持っているものが数名。他は剣だ。今回のキャラバンに同行しているものの中に手引きした者がいたかもしれねえ! 敵は西側のテント付近にいやがる。銃持ってるやつ押えればどうってことねえ、あっと、一人でかい奴持ってるやつがいる。一発で天幕ひとつ吹っ飛ばされるぜ」
「了解、とりあえずそいつ押えに行く!」
アルフレッドが飛び出していく。
「私も行く。後は頼みます」
ガーディアン=シルヴァも、天幕内に居並ぶ警護の者にそういうとアルフレッドの後を追った。
西のテントのそばまでより、そこにあった、岩や荷物の影に身を隠す。
岩に背を待たせかけながら隣へ来たシルヴァへアルフレッドは声をかけた。
「おいおまえ、中身! これ着ろ!」
アルフレッドは自分の羽織っていたシャツを脱ぐとシルヴァに渡した。
この物陰にはアルフレッドとシルヴァのほかにもう一人銃を構えて息をひそめている。
「あわてなくていい。時間稼いでやる。いいか、ちゃんと前、ボタン閉めろよ。敵も味方も煽られてしょうがない!」
アルフレッドは、周りに潜む仲間に目配せをする。
左手のテントの影に身をひそめていた仲間の男が銃を撃ちながら飛び出していった。
飛び出していったすぐそのあとで轟音がとどろきテントが吹き飛ぶ。その破壊力に驚く間もなく、アルフレッドは軽くシルヴァの肩を叩き、その瞳を覗きこんでとにやりと笑うと飛び出していった。
背後に隠れていた者達も後に続く。
アルフレッドは迷わなかった。あの、グレネードランチャーを装着銃を持った男。あいつを止める。マシンガンを乱射しながら一直線に近づくと、弾倉が空になったマシンガンを投げ捨て、剣を抜き放ち跳躍した。
ず……っ!
アルフレッドの剣が目的の男の体を貫いた。
やった!
そう思った瞬間、殺気を感じて飛び退く。アルフレッドの手にはすでにマシンガンも剣もなかった。
ちっ!
アルフレッドは舌打ちを一つすると、剣を振り下ろしてきた男に身を低くして腰にタックルしていった。
殴る蹴る。肉弾戦の乱闘になって、訳も分からず、もつれ合っていた時に不意に相手の力が抜けた。
「は?」
放心状態で上を見上げると、血濡れた剣を一振りする女が上から見下ろしていた。
「あんた、アルフレッド?」
「あ、ああ、ありがとう」
どうやらこの女に助けられたらしいとわかると見上げたまま、礼を言う。
「中身じゃない! シルヴァ! ガーディアン=シルヴァ」
無造作に目の前に差し出された手を、アルフレッドは握った。
シルヴァはアルフレッドをそのまま引き上げて立たせると、目の前で頷きながらにっこりと笑った。
❋ ❋
「……と、言うことはあの時のアルフレッドがお前なわけだなアルファ……」
ぎろりと、エヴァンジェリン(ベータ)が、不機嫌そうにアルフレッド(アルファ)を見やった。
「気が付かれるかと思ったよ」
「に……似てるなとは、少し思ってたんだ……!」
そう、そしてあの日キャンプを襲撃したのは、兄王子派の中の過激な一部の者と言うことだった。手にした武器を見ればもっと背後に大きな組織があるかも知れないとは誰しも思ったが、それ以上のものは結局出てこなかったのだ。でもいるはずだ。武器を与え、煽ったものが。
昔話が進む間に、食事も終わりに近づいていた。
ラムダが口元をふくと、立ち上がった。
「アルフレッド様、エヴァンジェリン様。私はこの辺で失礼をさせていただきます。次の任務が待っておりますので」
エヴァンジェリンは不安げにラムダを見上げた。
「次の任務って……何?」
「エヴァンジェリン様、私は一時期レッドスコーピオンを抜け別任務に就きますが、きっとあなたとまたお会いできると信じておりますよ。あなたがレッドスコーピオンと共にいてくだされば」
ラムダは穏やかな笑顔をエヴァンジェリンへと向け、アルフレッドに一礼すると、その場を辞した。
「アル」
「なに?」
「私に説明をして。何をたくらんでいる?」
エヴァンジェリンはラムダの消えた扉を見つめながら、そう言った。
「もちろん、今からその話をしようと思っていたところだよ」
アルフレッドはテーブルに両肘をのせ手を組むと、エヴァンジェリンに笑顔を向けた。