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零シティ  作者: 観月
第一章 追憶の日々
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ガーディアン -1-

「で? なんでこんなところに……」

 今、アルファ、ベータ、ラムダの三人はファーストシティの中ではトップクラスのレストランの中にいる。しかも個室貸切だ。

「すいませんベータ。これは私の送別会と言うことで、同席して頂けませんか?」

 ラムダが口を開いた。

「今、なんて? 送別?」

 ベータは、ピンと背を伸ばし、目を見開いてラムダを見た。

「ベータ。ラムダはレッドスコーピオンを抜ける」

「……そんな!」

「いろいろ、やらねばならないことが出来ました。それに、私の名はあなたが継いでくれましたから」

 ラムダは、優しげにベータを見た。

 ベータと言うコードネームは、もともとラムダのものだった。ラムダがベータをレッドスコーピオンに迎え入れる際に、彼女にベータと言うコードネームを譲り、自分はラムダを名乗ったのだ。

 静かに個室の扉が開き、給仕が前菜を運ぶ。

 細長いグラスには細かい泡を立てるピンク色の酒が注がれる。

「ラムダの未来に」

 そう言ってアルファがグラスをあげた。ラムダも目の前のグラスを取りながら、

「私の未来は、レッドスコーピオンを抜けてもあなたと共にありますよ。アルフレッド様」

 とアルファに向かって言った。

「アルフレッド?」

 ベータが繰り返す。その目は鋭くアルファを捕えた。

 ことり、と、グラスを置く音がした。

「そう、俺の本名だ、今の名はアルフレッド・ブラッドベリ。生まれた時の名はアルフレッド・テルース。この名のどれかに心当たりは? ガーディアン=シルヴァ」

 ベータの口元が引きつった。

「ブラッドベリ……。アウトサイド最大の商家。それに、アルフレッド・テルース! 死んだと聞いた。現教皇ドゥシアス三世の長子、だからお前あの癒し!……それよりなぜ私の以前の名を……! お前は何故今……」

 混乱し、立ち上がりかけたベータをアルファ=アルフレッドが手で制した。

「ベータ、ちょっと待って。混乱させて悪かった……順を追って話すから……」

 何から話そうか? と、アルフレッド(アルファ)とラムダは顔を見合わせる。

「そうだな、ではまずベータ、自己紹介からだ。俺の現在の本名は、先に言った通り。アルフレッド・ブラッドベリ。ファーストシティの商家ブラッドベリ家の養子だ。ブラッドベリ家の現在の当主の実の甥にあたる。俺の本当の父は、教皇ドゥシアス三世。君もさっき指摘したとおり、表向き俺は死亡したことになっているけどね。……俺のことはこれからアルフレッドと呼んでくれないか? アルでもアルフでも、なんならフレッドでもいいんだけどね。で? 君のことはなんと呼べばいい? シルヴァと呼んでもいいだろうか?」

 ベータは首を振った。

「いや、シルヴァは私がガーディアンだった時のガーディアン名だ。エヴァ。エヴァンジェリン・モーガンだ、私の本名は。本名を名乗るのは何年振りかな? わたしは、孤児だ。零シティ内で育った。両親はわからない。名を記したプレートが、捨てられた私をくるんだブランケットに縫い付けられてあったそうだ。零シティでは、親のいない子どもも、大切に扱われるから、私はあのシティに生まれて幸運だった。」

「そうか、本名までは調べられなかったんだ。王のガーディアンとなったものは、過去と切り離されるからね。君が孤児なら、なおさらだろう」

「アル。アルでいい? 私のことはエヴァとよんで」

「エヴァ?」

 エヴァンジェリン(ベータ)はその声に顔をゆがませた。

「もう、その名を呼ばれることはないと思っていたんだ……」

 声を詰まらせて、エヴァは目の前にあったナプキンで目じりを乱暴にぬぐった。

「アル。現教皇であり王の息子アルフレッド。あなたは毒殺されたと聞いている」

「ああ、毒殺、されたよ」

「だって、生きてるでしょう」

「毒の量がわずか少なかったことと処置が早かったことが幸いしてね。そして俺は、ファーストシティを拠点とするアウトサイドでは一番の商家ブラッドベリ家へ死んだ者としてかくまわれた。公にはされてないけれど、ブラッドベリ商会は零シティとも太いパイプがあり取引もある。そして現教皇ドゥシアス三世の妹、俺のおばだ……が、ブラッドベリ家に嫁いでいる。その叔母が瀕死の俺を見て、父に言ったそうだ、その死に掛けの少年を自分にくれとな。俺は叔母のひとり息子のセドリック・ブラッドベリとよく似ていたから、彼の影武者として重宝されたし、俺もセドリックとは本当の兄弟のように結構仲良くやってた。だからこのレッドスコーピオンも後ろ盾にはブラッドベリ家がいる。今までレッドスコーピオンのボスは、ブラッドベリ家だった。まあ、俺とイコールと思ってもらって間違いない」

「なるほど……ひとつ、きいてもいい?」

「なんだい?」

「あなたを毒殺しようとしたのは誰? 噂では妾腹だったあなたをねたんで正妻が毒を盛ったとも、その正妻の子、ジュールが毒を盛ったともきくが」

 アルフレッドは逡巡するように、エヴァンジェリンから視線を外し、口元に手を当てたが、すぐに視線を戻すと言った。

「俺に直接毒入りの飲み物を手渡したのは同い年の弟のジュールではあったけれど、だからと言って彼がそれを毒入りと知っていたかどうかはわからないな」

「そう。それが二十年前」

「そうだ。俺が十の時。そして、その頃は影も形もなかった末の弟ヴェルヌが己のガーディアンであるシルヴァ、君と共にブラッドベリ商会のキャラバンの視察へやってきたのが八年前……」


 お読みいただきありがとうございます。今回短めです。

 次回は、アルフレッドの回想。八年前のアルフレッドとエヴァンジェリンの出会いとキャラバン野営地での戦闘シーンとなります。三日に一回くらいのペースでの更新を目指していこうと思います。よろしくお願いいたします!

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