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零シティ  作者: 観月
第二章 運命の扉
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エピローグ

 零シティの崩落。

 ヴェルヌ王子は、その日のうちに着座式と進化の儀を終え、零シティ内に取って返すと、旗艦アダマスより、大聖堂瓦解の収束に勤めた。

 零シティのとりあえずの機能が復旧したのはその日より十日ほど後になる。

 電源等ライフラインの復旧を見て、行方をくらましたジュール王の死亡を確認せぬままではあったが、戴冠式を済ませ、名実ともに王、そして教皇としてその名を内外に示した。

 宇宙連合としては、親連合派のヴェルヌの即位は願ってもいない事であった。それまでには七枢機卿をヴェルヌは手中に収めている。ジュールがガーディアンに託し、もたらされた情報をもとに、エルマン・ガッソ枢機卿の粛清、ヌハル枢機卿の権力の一部はく奪などが行われた。これらの一連の出来事を後に、第一次テラ教の終焉、と呼ばれるようになる。


 零シティの崩落より十年の月日が経とうとしていた。

 テラはアウトサイドへの零シティの解放をはじめた。相変わらず教皇の権力は強大ではあるものの、それぞれのシティの代表を交えた立憲君主制が、導入されたのも、この年であった。

 そして、その年初めて、テラの子どもの中から宇宙中央大学の特別育成クラスに、一人の生徒が選ばれた。

 宇宙中央大学は、かつて現テラ教皇ヴェルヌ自身が留学していたことのある大学であり、宇宙最難関と言われる教育機関である。一つの宇宙ステーションが丸ごと大学と、それに付随する研究機関などで成り立っている、特殊な世界。その中でも特別育成クラスは、広い宇宙に散った人類の中から、特に優秀な子供が集められ、英才教育を施す機関であった。彼らは、人類が宇宙を切り開いていくための人材として、育て上げられるのだ。入学してくる年齢はまちまちであったが、そのほとんどが十歳以下での入学となっていた。テラからの入学生、アレックスもその例外ではなかった。

 これを皮切りに、テラと宇宙連合との人的な交流も進んでいくこととなる。

 この、特別育成クラスから飛び立った優秀な若者たちによって、近い将来、人類は居住可能となる惑星を手に入れ、さらにテラ外の高度な文明を持つ生物とのコンタクトを果たしていくことになるのだった。


 ❋ ❋ ❋



 テラから初めて特別育成クラス制となった子ども、アレックス。

 アレックスはもちろん頭脳も優秀であったが、おおらかな性格も評価の対象であり、赤毛にそばかすを散らした、物おじしないはつらつとした子どもだったので、特別育成クラスにもすぐになじんだ。

 アレックスがその中で一番親しくなったのがユキ・ナカノ。ユキは両親と共に、生まれたときから宇宙大学のあるステーションに住んでいた。アレックスとは対照的に繊細で、口数の少ない子どもだった。

 親元を離れて暮らすアレックスがユキの家庭に呼ばれることも頻繁であり、急速に二人は親しくなった。アレックスが特別育成クラスに編入して初めての長期休暇には自分の出身星であるテラへ、ユキとユキの母親を招待したのだった。


 零シティ内のホテルは、空調も管理され、外の暑さとは無縁のはずだったが、その部屋の窓と言う窓は大きく開け放たれ、部屋の中は軽く汗ばむほどの気温だ。

「それにしても、生きているうちにテラにこうして自分の足で立てるとは思ってもいなかったわ」

 窓際の白い丸テーブルを挟んでサマードレスを着た二人の婦人が腰を下ろしていた。

「大丈夫? 暑くない?」

 ぱさぱさと短い赤毛に愛嬌のある顔。その顔中にそばかすを散らした女性の方がそう問うた。問われた方は真っ直ぐな黒髪を胸のあたりまで垂らした、小柄な女性だ。

「熱いわ……でも、この暑さも感じていたいの。せっかくテラに降り立ったんですもの」

 黒髪の女性がそう言って笑う。笑うと、彼女の持っている冷たい印象が消えた。

「また来てよ。うちのアレックスがお世話になってるんだから」

 赤毛の女が笑った。


 人類のふるさとである惑星テラの中心、零シティで、その象徴とも言われる大聖堂が大破するという事件から、もう十年が過ぎて行っていた。

 新しく教皇となったヴェルヌの方針で、外の宇宙との交易も始まっていたが、なかなか一般市民レベルではテラに降り立つことは出来ない状況は続いている。

 そんな中、昨年ひとりの子どもが宇宙で一番難関と言われる宇宙中央大学の、特別育成クラスの生徒としてテラから旅立った。赤毛の女性の子ども、アレックスである。

「アレックスって、おおざっぱでしょう? 心配していたの」

「いいえ、おおらかでとっても優しい子ね。うちのユキの方が、アレックスに助けられているわ。あのこ、ちょっと神経が細いから……」

 そう言うと、ユキの母親は手に持っていたタオルをパタパタと振って自分の顔に風を送った。

「そう言ってもらえるとうれしいわ。わたし達夫婦は零シティを離れられないし、これからもアレックスをお願いします」

 赤毛の、アレックスの母が深々と頭を下げると、ユキの母は静かに首を振った。

「もちろんよ。それに、知り合いが住んででもいなければ私のような一般人はテラへ来られないじゃない?」

 そう言って、ユキの母親はいたずらっぽく笑って見せた。

 二人は微笑み合うと、扉で仕切られた隣の寝室に注意を向ける。

 そちらの部屋では子供二人が昼寝をしているはずだった。しんと静まり返った部屋。

 どうやらアレックスとユキは、まだ夢の中にいるらしい。


 自分の隣から、低く唸るようなくぐもった声が聞こえて、アレックスは意識を浮上させた。

 はっとして目を開く。

 見慣れない天井を見ながら、次第に思考が回りだす。

 そうだった。ここはテラ、零シティ内のホテルの一室だ。開け放たれた窓辺には白いレースが揺れている。やはり白い木の扉で仕切られた隣室からは母親たちの話している声がひそひそと聞こえる。

 隣に目を向けると、アレックスの方を向いて体を丸めたユキが眉と眉の間にしわを寄せながら寝ていた。時折小さな口からくぐもったうめき声を発している。

「ユキ……?」

 アレックスは驚かさないようにそっとユキの肩を揺さぶった。

「うん……あ、ああ……」

 よくない夢でも見ているのか、悲しそうな声を上げる。

「ユキ!」

 アレックスはユキの耳元に口を寄せ、先ほどよりもはっきりと呼んだ。

「ああ……!」

寝返りを打って上を向いたユキがはっとしたように目を開いた。真っ黒な瞳が天井を見つめる。その瞳は天井を見るでもなく映している。

「ユキ、大丈夫?」

 アレックスは起き上って、ユキの顔を見下ろした。

 ぼんやりとした瞳の中に、今度はアレックスが映った。ユキが、次第に焦点を合わせてアレックスの顔を見る。

 開かれた瞳からポロリと一筋涙が落ちた。

「大丈夫だよ、ユキ。何にもないよ。夢を見たの?」

 ユキがそろそろと起き上った。

「うん。でも、憶えていないんだ。心臓がぎゅうって、なった。悲しくて怖いような気分になって……、あとはよくわからないけど、きゅうって感じ」

「そっか」

 アレックスはそう言うと、にかりと笑ってユキを見た。

「忘れちゃえ」

「……だから、忘れちゃったよ」

「うん。大丈夫、ユキは忘れていいんだよ。ちゃんと覚えているからね」

「え?」

「ううん、何でもないよ。ねえ、お母さんたちのところへ行っておやつをもらおうよ」

「うん、喉が渇いた」

「でしょう? 布団を畳んでいくから、ユキは先に行ってて」

「え、でも」

「いいからいいから、リンゴのジュースがいいな」

 そう言うと、アレックスはタオルケットに手をかけて、もう片方で行った行った! というように手をひらひらさせる。

「わかったよ」

 ユキはアレックスに押されるように部屋を出て行く。

 アレックスはユキを見送ると、タオルケットをたたんで窓のそばの椅子に座る。そして、開け放たれた窓から、零シティを見渡した。少し離れたところに大きなお城が見えて、その隣の大聖堂はまだ完成してないらしい。ところどころに足場が組まれ、建設途中だ。お城や、大聖堂の周りは緑がたくさんある。美しく、巨大な庭園があるのだ。だから、その周辺だけがやけに涼しげに見えた。

 零シティをわたってきた風が、アレックスの赤毛を揺らした。

「なつかしい……零シティ。ユキは全部忘れていいんだよ。辛いことも、悲しいことも。ちゃあんと見つけたでしょう? 約束通り。また、一緒に生きていくために」

 アレックスは片膝を両腕で抱き、白いバルコニーにもたれながら、そうつぶやいた。

                      

<FIN>


ここまで、読んで下さった皆様、ありがとうございました。

かなり苦しみながらの投稿でしたが、完結までこぎつけることが出来ました。

昔SFは、大好きだったのですが、最近はあまり読んでいないかもしれません。

もう一度勉強して、再チャレンジしたいジャンルです。

誤字脱字など、盛大にあるかとも思いますが、よろしければ通報してやって下さいませ。5/20 第一回校正いたしました。

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