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零シティ  作者: 観月
第二章 運命の扉
36/39

星を行く -1-

 暗い宇宙の海を、一隻の星間連絡船が行く。

 深い闇が船を押し包み、ポツリ漂いながら。

 遠くにきらめく銀河。その船の行く手には小さな、しかし、他の星々よりは確かに大きな輝きがあり、船の目指す星系がはっきりと肉眼でも見えているのだった。


 星間連絡船の丸い窓から、一人の男がその星を見つめていた。

 男は、ひょろりと背が高く、色素の薄い髪を後ろで一つに束ねている。首から下はマントで隠れている。

「ほら、リリア。わたしの星が見えてきたよ」

 窓からは、他の星々よりもひときわ明るく燃える光が見える。辺境の恒星ウル。その第四惑星がこの連絡船の行先だ。他の星々より大きく見えるが、まだ、小さな点でしかない。

 その小さな光を確認すると、エンリケは後ろにいるリリアに声をかけた。

 エンリケよりも一回りも若く、まだその表情にはあどけなさがどこかに残る。その瞳が不安げに揺れている。

「エンリケ様……」

 つぶやくように言うと、リリアは男の全身をすっぽりと包むようなマントをつかむ。

 リリアも頭からすっぽりとマントをかぶっている。被ったフードからは、ふわふわとした、銅色の髪がこぼれる。

「大丈夫ですよ。心配しないで、きっとうまくいきます、リリア」

 エンリケは腰をかがめて、リリアのフードの中の顔を覗き込んだ。

「もう、お父様は追ってこない?」

 エンリケは、ひざまずくと、少女の頬をその手で触れる。

「わかりません。でも、あの星に着けば、あなたのお父上と言えども早々手は出せないはずです。少なくとも、表立っては動けないはずですよ」

「もし、あなたにご迷惑がかかるようなことになれば……わたし」

 リリアは、自分の目の前にひざまずいたエンリケの肩にその手を置いた。大きな瞳が揺れて、リリアは目の前のエンリケの頭を抱いた。

 と、その瞬間、けたたましいサイレンが宇宙船の中にとどろいた。危険を知らせるように天井の光が明滅する。何事かと考える暇もなく、強い衝撃に舟が揺れた。エンリケはリリアの体を抱いて支える。リリアは声にならない悲鳴をあげながらエンリケの首にしがみついた。

 エンリケは、リリアを抱き上げながら、腰に下がったブラスターの重みを確かめた。あちらこちらの部屋から、悲鳴をあげながら人々が飛び出して来た。


 星間連絡船「スターライト007号」操縦室。

 自動航行モードだったシステムが、異変を伝えた。

 緊急を知らせるアラームが耳障りな音を上げ、メインスクリーンがオンになる。

 そこには平べったい楕円形を中心で幾分絞ったようなフォルムの宇宙船が映し出された。その場にいた者から「サソリ!」と、と掠れた息のような声が聞こえた。

 いきなり目前にワープしてきたその航行の荒っぽさに、まずは度肝を抜かれた。目の前に現れた漆黒のボディ、前方のふくらみ上部に描かれた赤い蠍の模様に、操縦室にいた全員が息をのんだ。

「蠍だ!」

 いくつもの声が重なる。

「おい、このちんけな連絡船に蠍のターゲットになるような荷物はないはずだが」

 スクリーンに映し出されたのは、宇宙海賊としてその名を上げ始めているレッドスコーピオン通称蠍のシンボル、宇宙船フォルトゥナ。フォルトゥナは「スターライト007」をめがけてぐんぐんと近づいてくる。

「え……、激突する……?」

 それほどの勢いに見えた。

「反転させろ、逃げろ、逃げるんだ」

 船長の声にその場にいた全員が動き出す。

「反転一八〇度、全速前進!」

 あわてて逃げ出すが、反応が遅すぎた。第一、単なる星間船に太刀打ちできる相手ではない。反転したと思ったとたんに強い衝撃が襲った。揺れの激しさに皆が計器にしがみついた。

「格納庫付近がやられたようです」

 モニターの前にいる乗組員が叫んだ。

「キャプテン、通信が……!」

「繋げろ」

 言うが早いか、メインスクリーンに一人の女が映し出された。

 体にぴったりとした強化スーツを着た大柄な女。スーツの色も髪の色も銀色だった。

「レディ・スコーピオン」

 乗組員の一人からつぶやきが漏れた。本名は知られていなかったが、このレッドスコーピオンを率いる女海賊は、巷では「レディ・スコーピオン」と呼ばれていた。

『要件を言う』

 銀色の女が淡々と話しだした。

『人を探している。乗組員も含め全員を一か所に集めろ。こちらの条件をのんでもらえるのなら、荷物にも、ターゲット以外の乗客にも危害は加えない。以上だ』

 スターライト007のキャプテンは少しだけ面白くないというような表情を作りはしたが「よかろう。条件をのむ」と、返事を返した。

 レッドスコーピオンとは、このところ、急に名前を聞くようになった宇宙海賊だった。

 狙った獲物は逃がさない、などと言う陳腐な噂が、宇宙を活動の拠点とする者達の間でささやかれている。ただ、目的さえ遂行できれば、無体な真似をする様な集団ではないと聞いたこともある。相手がレッドスコーピオンであったことは、小さな幸運であったかもしれない。とさえキャプテンは思った。

『こちらから三人、小型機でそちらの船に行く。後部のハッチを開けておけ。いいか、それまでに一人残らず乗員を並べておけ』

 レディ・スコーピオンはそう言うと、一方的に通信は切られてしまった。

「乗員と、乗組員を全員メインホールに集めるんだ。わたしは、後部着陸用ハッチの操作をしてからそちらに合流する」

 この星間連絡船の船長が、指示を出した。


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