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零シティ  作者: 観月
第二章 運命の扉
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女神フォルトゥナ -1-

 大聖堂がその終焉を迎えるより前になる。スコーピオンの面々は宇宙船フォルトゥナに集結していた。

 王宮の警備を引き付けていたレベッカ、カイ、ジンの三人。ヴェルヌをアダマスまで運んだアルフレッド、エヴァンジェリン、ダンダとオンジ。そしてフォルトゥナに待機していたラムダことレッド。

 全員が無言で、じりじりとした時間を過ごしていた。そのとき不意に操縦室に切れていたリョーマからの通信が入る。

『おれだ』

「リョーマ!」

 すし詰めの操縦室内に喜色があふれた。

『今から、三十分以内にテラを脱出しろ』

 スピーカーからながれるリョーマの声にあたりの温度は一気に下がる。

「リョーマ、わかるように説明しろ」

 リーダーであるアルフレッドが声をかけた。エヴァンジェリンが時間を確認する。レッド(ラムダ)は、計器類の確認を始めた。

『ジュールに会った。奴は殺せなかった。奴を守るガーディアンに取り押さえられて終わりだ』

「……で?」

『そのジュールからの伝言だ。ほぼ三十分後、テラは混乱に陥る。それまでに脱出するつもりならば行けとさ』

「何が起きる?」

『詳しいことまでは……。だが、奴は零シティの中枢を破壊するつもりだ。俺はホバーボードで追っかける。早くフェルトゥナを宇宙船の発着ステーションまで動かしといた方がいい。動けなくなるぞ』

「わかった。お前が来るまでステーションで待ってる」

 アルフレッドの声を聴いて、リョーマは通信を切ったようだった。

「発進しますよ。みなさん席についてください」

 レッドが声をかけた。


 フォルトゥナがうっすらと覚醒していく。小さなエンジン音に身を震わせて、……次第にそのエンジン音がフォルトゥナの体内全体に満たされていく。レッド(ラムダ)の前に並んだ計器類が点滅し、そして点灯していく。

 今現在、フォルトゥナはリンバルド枢機卿個人所有の宇宙船ドックにある。王家と、それぞれの枢機卿は個人で宇宙船を保有することを許可されていた。だからといって、宇宙を自由に行き来できるわけでは無い。

 宇宙に飛び立つためにはその宇宙船ドックから、テラの宇宙ステーションへ移動させなければならない。そして、ステーション内に侵入するに当たってはステーション管理室の管理官の許可を取り、ステーションへの扉を開けてもらわなけれなならない。

 王家や枢機卿の子息の中にはテラ神学校を卒業したのち宇宙連合が設立した大学に留学するものも多かった。それに、それぞれにいくばくかの取引を連合の中の星々とする枢機卿もあった。王家の検閲はいかなる時もついて回っていたが。

 現在、リンバルド家は新しい宇宙船フォルトゥナを建設中という事もあり、宇宙ステーション使用の許可も取ってはある。今回の一連の儀式の間も宇宙ステーション自体は、機能していたし、今回の儀式にテラ教の信者たちが訪れたりもしてはいたから、逆にいつもよりステーション利用者は多かった。

 零シティの地下をフォルトゥナはゆっくりとゆっくりとステーションまで移動していく。

 発着ステーションに侵入するための扉までたどり着くと管理室へと発着許可の連絡を入れて待つ。許可が下り、ステーション内に侵入する。

『フォルトゥナ、こちら管理室』

「管理室、こちらフェルトゥナ」

 レッドが落ち着いた口調で管理室とのやり取りをするが、そのやり取りを脇目で見やるレッドスコーピオンの面々の胸中には、いくばくかの不安もあった。

『離陸の準備が整ったら声をかけてくれ』

 管理室から声がかかる。

「了解」

 レッドが通信を切ると、ほっとしたような空気が流れる。

 今のところは管理室の職員に不審に思われてはいないらしい。

 発信の準備が整えば、侵入してきた入口が閉じられ、連動して頭上のハッチが開いて空への道が開けるという、流れになっている。

 いま、フォルトゥナが待つのはリョーマの到着だ。

『俺だ、きこえるか?』

 ちょうどその時、通信機器からリョーマの声がした。

「こちらレッド」

 リョーマの声にほっとしたのもつかの間だった。

 発信を待つばかりのステーション内の電気が一斉に消灯し、フェルトゥナは暗闇の中に落ちた。

「なに?」「なにがおきた!?」

 メンバーの間に緊張が走る。

 その時、艦橋の扉が開いた。

 艦橋は二部屋に分かれている。操縦席のある小さな部分には四人ほどが座れる。いまは、レッドとアルフレッドが最前列に、その後ろにエヴァンジェリンが座っていた。今現在は開け放たれているが実際には扉があり厳密に言えばこの小さな部屋が操縦席である。開け放たれた続きの部屋は少し広く戦闘指揮所と言ったところか。そこに他のレッドスコーピオンの面々が詰めている。それほど巨大な船ではないフォルトゥナは、操縦席と指揮所が一続きとなっていた。そこを艦橋、またはブリッジなどと呼ぶのが通例となっている。開いた扉から、レッドスコーピオンの面々をかき分けるようにリョーマが現れた。

「ジュールの野郎やりやがった!」

 リョーマは現れるなりそう言ううと、舌打ちをした。

「なんだ、何をしたんだ」

 アルフレッドがリョーマを振り返る。他の者も、腰を浮かせてリョーマに視線を集中させる。

「大聖堂の爆破だ。地下からすべて。あの地下には零シティの心臓があるんだろ? おそらく零シティは現在、すべての機能がストップしているはずだ。ここの電源が落ちたのもそのせいだと思う。詳しく説明してる暇はねえ。アルフレッド、この状況でテラから飛び立つことは出来るのか?」

 アルフレッドは考え込むようにこぶしを口元にあてた。しばらくすると、小さくうなずく。

「OK。俺に任せてくれるか? レッド、操縦を頼んだ。エヴァ、レッドのアシスト頼む。」

 レッドスコーピオンのリーダーはアルフレッドであったが、この船のキャプテンはレッドだった。

 エヴァンジェリンは席を立つと、アルフレッドの座っていた席へ腰を下ろす。振り返ってアルフレッドを見あげたエヴァンジェリンにアルフレッドは笑顔を見せた。

「パワードスーツ、一着かりてく」

 そう言うと、操縦室を出て行った。


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