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零シティ  作者: 観月
第二章 運命の扉
32/39

大聖堂 -1-

『自爆装置が作動しました。二十分以内に建物内より退避してください』


 無機質な合成音が大聖堂内に響く。

 大聖堂内にいた者ははじめ、事の重大さを全く理解していない。

 お互いに目線を合わせ、これはいったい何のジョークだ? と言うように首をかしげる。


『繰り返します。この建物は、二十分後に爆破されます。自爆装置が作動しました』


 しばらくの間の後、繰り返されたアナウンスにようやく人々の目は見開かれ、事の重大さに今度は動きを止めた。

「どういうことです」

「誰か、確認を」

「いや、中にいるものを、まず退避させて……」

 少しずつ言葉が飛び交い始め、次第に騒ぎが大きくなっていく。

 とにかく巨大な建物であるから、上階にいるものなどは二十分と言えば、早く退避しなければ、間に合わない。

「早く退避しろ! これは冗談でも訓練でもない!」

 一人の男が、声を張って言った。

大きな広い階段。踊り場だけで一つの部屋ほどにもなる。その踊り場に立った男が近くにいた者達に向かって言った。

「建物内の者達を退避させるんだ。ここにいる君たちにそれを頼んで構わないか?」

 その付近で右往左往していた数名の者が、男に注目した。

「ロッシ枢機卿!」

 一番近くにいたものが、驚きの声を上げた。なにしろ目の前にいる男は、今頃はアダマスで指揮を執っているはずのエドゥアルド・ロッシ枢機卿だったからだ。

「君たちに頼めるか? 建物内の者達の退避を促して欲しい。一刻を争う。手分けして伝達を……」

 枢機卿の肩書を持つエドゥアルド・ロッシの言葉を聞き、その場にいた者達の中に緊張が走った。

 エドゥアルドの言葉を聞いた一人が、すぐさま、上腕部の小さなポケットにしまわれていた小型の通信機器を取り出す。連絡の取れるものに退避の命令を出していく。「俺は直接声をかけてくる」数名は伝達のためにかけだした。

 エドゥアルドはその姿を見届けると、階段の手すりを握り、上階を見上げた。

エドゥアルドの一番近くにいた青年が上階へと歩を進めようと踏み出したエドゥアルドの背に声をかけた。

「枢機卿はどこへ!?」

 背後から掛けられた声に、エドゥアルドは振り返る。

「君、名はなんという?」

 数段下にたたずむ青年を見下ろして聞いた。

「マーカス・トレンデ、です」

「ではマーカス、君に任務を。ヴェルヌ陛下か、リンバルド枢機卿に伝えてくれ。ジュール陛下と、わたしは大聖堂に残ったと」

 そう言うと、ローブを止めていた留め具を引きちぎるように取り外し、マーカスの目の前に突き出した。

「これが証だ。すまないが私は急いでいる。さあ、行くんだマーカス」

 止めてあったものが外れて、ローブがするりと落ちた。

 アダマスで指揮をつるために、その日、ロッシはローブの下に一般的な枢機卿としてのずるずると長い着物ではなく、すっきりとした濃いグレーの警備用の服を着ていた。

 マーカスは、手を差し出して、その留め具を受け取る。

 軽い出で立ちになったエドゥアルドは、マーカスから視線を外すと、飛ぶように上階を目指して走った。

 走っていくロッシをマーカスは敬礼をして見送った。


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