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零シティ  作者: 観月
第二章 運命の扉
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王宮 -1-

 王宮の真下のマイクロトラムのステーション。

 ここに降り立つことのできるものは、限られている。

 王家が発行するセキュリティカードを持つ者のみである。そしてそのセキュリティカードは三カ月にごとに変更されるのだ。

 その、王宮直下のステーションに一台のマイクロトラムが音もなく停車する。

 ばらばらと、中から現れた人影はそれぞれが人間の片腕ほどの大きさの銃を抱え、周辺を警戒するように展開する。その数、八名。

 レッド・スコーピオンの面々だった。

 八名は、からだにぴたりと沿った、ボディーアーマーを纏っている。前身頃、肩、肘、膝などは厚みがあり、かなりの衝撃にも耐えられるものだ。それ以外の部分も、決してもろいわけでは無い。短時間なら宇宙空間での作業にも耐えられるという素材でできている。最新の繊維でできたそれは、丈夫でありながら、滑らかさを持っている。今回は、ゴーグルはかけているものの、フルフェイスの防具はつけていなかった。

 

 同日、アウトサイド、ファーストシティ近郊。

 その日は晴れて王となったジュール陛下が、アウトサイドにて着座式と神化の儀を執り行うことになっていた。着座式とは、ジュールが教皇となるための儀式。そして、神化の儀は教皇となったジュールの手によって、前教皇ドゥシアス三世が神になるという儀式だ。

 ジュール警護のために七枢機卿のうち、オリバン枢機卿とヌハル枢機卿は彼と共にアウトサイドにあり、零シティを守る警備の本体はエドゥアルド・ロッシが今現在握っている。そのエドゥアルドは零シティ最大の動く要塞アダマスに自ら乗り込み、零シティを出てすぐの場所に展開し、不測の事態に備えている。

 アダマスは、もう一つの零シティとも呼ばれる宇宙船である。旗艦として、零シティに甚大な被害が起きた場合は、このアダマスが零シティの頭脳となりえるだけの機能を有しているのだった。

 逆に言えば、今零シティ内の王宮を任されているのは、主力ではなく、留守を守るための部隊でしかなかった。


 地下のステーションに降り立った者達が、王宮へと続く最初のゲートに差し掛かる。

 二名ほどの護衛がいたが、まったくこのステーションからの侵入を想定していなかったのであろう、反撃することもなく、声すらあげることもなく、なだれ込んだ侵入者によって意識を奪われた。

 気を失った警備兵をいつもはふわふわとした美しい金髪を窮屈に結い上げたレベッカが縛り上げる。

 大きな袋を肩から下げた屈強な二人の男が、袋を下ろし、中に入っていたものを取り出した。どちらもがっしりとした体格の男だったが、片方は東洋系、もう一人は金色の髭を口の周りに蓄えた西洋系だ。もともとのコードネームはδ(デルタ)とζ(ジータ)。本名をダンダとオンジと名乗っていた。どちらも小山のような体格でレッドスコーピオン内での力自慢の男だ。だが印象は正反対である。ダンダが穏やかな男ならば、オンジは、強面の印象がある。

 二人が袋の中から取り出したものは、ホバーボード。

 シンプルなボードの上に細い棒がつきだしていて、その先端にハンドルがついている。小ぶりな自転車のハンドルのような形だ。折りたたまれていたそれを、大きな手が器用にあっという間に組み立てる。体重の移動と簡単なハンドル操作のみで小回りも効き、時速八十キロというスピードが出るが、その分扱いは難しい。

 アルフレッドが組み立てられたそれに乗ると、グン、とハンドルを握る。

 ふわりとボードが浮き、アルフレッドが体を倒しながら前傾姿勢を取ると、軽く床を蹴りあっという間にスピードを上げて飛び出していった。すぐそれにエヴァンジェリンが続いた。

 続いて、カラスの濡れ羽色とでもいうような見事な黒髪を無造作に後ろで一つに縛った、見るからにチャイニーズ系の女、ジンがその後を追う。リョーマと共にレッドスコーピオンに残ったカイが、軽くリョーマに手をあげてみせるとジンを追うように飛び出していく。

 ホバーボードの組み立てはレベッカとリョーマも手を貸していた。

 ホバーボードを組み立てていた四人が一緒に最後のボードを組み立て終わると、空になった袋を小山のような大男、ダンダとオンジが担ぐ。そして、やはりほぼ同時に四人が床を蹴り上げて宙に飛び出して行った。

 ヴェルヌが監禁されている部屋までのルートは全員の頭の中に入っている。静かな王宮の中をホバーボードに乗り、滑るように走り抜けていく。

 王宮内部の様子から、警備の場所、時間まで、ありとあらゆる情報提供者が、エドゥアルド・ロッシ枢機卿である。今は、アダマスに乗り込み、今現在の零シティの指揮官である。巡回の警備の時間もルートも指揮を振るっている本人からの指示なのだから、よほどの事情がない限り、問題の起こりようもない。

 まるで、レッドスコーピオンの到着を受け入れるかのように、城は、彼らを最奥へと迎え入れてた。


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