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零シティ  作者: 観月
第一章 追憶の日々
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Ready -1-

 六日前


 その日、レッドスコーピオンの面々の零シティへの潜入は滞りなく行われた。

 アルフレッドが零シティにおいて頼みとしたのはウルフ・リンバルド枢機卿。

 彼は七十手前の老紳士であった。恰幅がよく大柄な男だが、その見た目に似合わず穏やかな男である。

 リンバルド家にアウトサイドより搬入される物資を運ぶ商人の警護として潜入した。つてがなければ、アウトサイドから零シティに潜入することは至難の業だが、リンバルド家ほどの後ろ盾があれば、そうむずかしいことではなかったらしい。リンバルト家の警備兵の服も、身分証明カードもすべてリンバルト家より支給された。

 アルフレッド以外のメンバーは新しく入ったリンバルト家の警備兵として、屋敷の中の一角に部屋も与えられた。

 彼らは到着すると、早速警備兵たちの訓練所へと足を運ぶ。


「新入りさん。お館様より指示は受けてるよ」

 訓練所で待ち構えていたのは壮年の体格の良い、いかにも兵士然とした男だった。浅黒く日焼けした体躯に短く刈り込まれた髪。そこにはちらほらと白いものが混じっているようだ。厚い胸板と、盛り上がった筋肉は、彼が肉弾戦においても誰にも引けは取らないと物語っている。黒っぽい飾りのない制服。一番上までしめられた上着のボタンが、見ているだけでも窮屈そうだ。彼の後ろには、反対にずいぶん小粒な警備兵が控えている。

「俺はここで、あんたたちの世話を任された、リンバルト家警備隊隊長、バルダだ。後ろにいるのが警備隊副隊長のシン。まずここで、あんたたちにはこれらの武器を使いこなせるようになってほしい」

 周りを塀に囲まれた芝の生えた広い空地。屋外の施設で頭の上にはぽっかりと青い空が浮かんでいる。

 その隅にある、屋根のある一角にレッドスコーピオンの面々は集まっていた。そこには細長い机の上に置かれた武器の数々が並んでいた。

 レッドスコーピオンの面々はもちろん武器の扱いには慣れてはいた。だが、アウトサイドで使われるような武器は旧式の武器ばかりだ。目の前にそろえられた武器は彼らが使い慣れた、武骨な雰囲気の武器とは違い、どこか軽く玩具めいているように彼らには映った。

「零シティで最新式のものだよ。君たちが使っていたものと、仕組みは違えど、扱いにそうたいした差はない。要するに、セーフティロックを外し、引き金をひけば撃てる。すぐ慣れると思うよ。反動もないから、逆に扱いやすいかもしれん」

 小さいものから大きいもまで、並べられている。

 皆、物珍しそうに手を伸ばした。

 リョーマがその中の一つを握ると、皆が立つ場所と反対側に設置されている的に向かって銃を構えた。そのまま、ためらうことなく片手で引き金を引く。

 パシュ!

 と、音すら溜息のように軽く、玩具めいて聞こえる。

 リョーマのはなった弾丸は、的の中心を的確に打ち抜いていた。

「たしかに、同じだな」

 リョーマは挑戦的なまなざしをバルダに向けながら言った。

 なんといっても、レッドスコーピオンにスカウトされている時点で、戦闘に対しての勘や興味は人並み以上の者達であった。並べられた銃を嬉々として扱っている。

 そんな面々を観察してから、バルダはそっと、リョーマ、エヴァンジェリン、レベッカの三人を呼んだ。

 残ったレッドスコーピオンの連中の世話はシン副隊長がするということで、三人はリンバルト家の中の地下部分に、案内された。

 屋敷の奥にあるの広間の中に一本の大きな白い柱がそびえていた。その部屋はガラス張りでどこかから見られているようで落ち着かない。よく見ると、その柱自体がエレベーターになっているのだった。

そのエレベーターに乗せられて、地下界へと降りていく。

 アウトサイドではエレベーター自体珍しかった。一握りの高級なホテルや施設にあるのみで、一個人の屋敷にエレベーターなど考えられないことだ。

 が、驚きはそれだけではなかった。地下へ降りてエレベーターの扉が開いた時、リョーマとレベッカは息をのんだ。

 驚く二人に、バルダは得意そうな顔をして振り返る。

「ま、これが零シティだ」

 バルダが言った。

 降りた先は小さなステーションのようになっている。

 目の前にある発光する操作盤。天井からはそれ自体が発行しているような柔らかい光が降っていて、つるりとした無機質な空間を照らし出していた。二人にとっては人工物でおおわれた、今まで見たことも感じたこともないような空間だった。

 砂だらけのアウトサイド、クラシカルな零シティ地上部。そのどちらとも違う。

 今、彼らが足を踏み入れた零シティの地下部分には、零シティ内でも限られたものしか入ることは出来ない。しかしこの地下部分こそが、零シティとこの惑星の心臓部分であった。

「どこへいくんだい?」

 エヴァンジェリンがは、バルダに尋る。

 バルダは目の前の操作盤を叩く。

「あんたは、驚かないんだな?」

 バルダがちらりとエヴァンジェリンを流し見た。

「私は、零シティの出身だ」

「なるほど。じゃあこれがなんだか知ってるわけだ」

 四人の目の前に小さな箱型の乗り物が止まった。

「通称マイクロトラム。零シティの地下空間を結ぶ乗り物」

「その通り」

 しゅん、と音を立てて開いた扉からバルダは乗り物の中に滑り込む。三人もそれに続いた。

「さっきの操作盤で、行先と人数を入力すれば、無人のマイクロトラムが来てくれるわけだ。地下空間にはそこここにステイションがあるから、そのどこからでも乗ることができる。人によっては降りることのできないステーションもある。よそのうちの所有のステーションには許可なく降りることはできないしな。ここは、リンバルト家専用のステーションになる」

 ゆっくり音もなく走り出した箱が、少しずつスピードを上げていく。

「俺たちの行先はリンバルト家専用宇宙船ドックだ。王家と枢機卿はそれぞれ専用の宇宙船を持つことを許可されている」


 四人が降り立った先には全長70メートル程の小ぶりな宇宙船が目の前にその姿をさらしていた。

「リンバルト家所有の最新宇宙船だ。表向きはな。実際資金提供はブラッドベリ。お前さん達の船さ」

 そう言ったバルダは、ニヤニヤとしてレッドスコーピオンのメンバーを眺めた。

 エヴァンジェリンですら呆けたように目を見張っている。彼女も、これほどまでに零シティの中枢へ入り込んだことはない。ガーディアンであったころですら宇宙船を間近に見たことはなかったのだ。

 そんな三人の呆けた様子を見て、バルダの口元はさらに緩んだ。

「船長はそこの男だ、ほれ」

 と、バルダは前方に顎をしゃくってみせる。

 高くそびえる宇宙船を見上げていた三人は、宇宙船の傍らにたたずむ小さな人影を認めた。

「……ラムダ!」

 三人の声が、思わず重なっていた。

 そこに立つ人物は、レッドスコーピオンの零シティ潜入より少し前にいったんレッドスコーピオンから身を引いたはずのラムダだった。

 

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