テラ解放軍 -1-
アウトサイドに根を下ろす集団は多々あったが、その頃、台頭していたもののうち、一つはレッド・スコーピオン。これは、零シティの教皇一族とも血縁関係を結ぶブラッドベリ商会がその後ろ盾となっており新進のグループでありながらも、その知名度を増していた。そしてもう一つ、古くからその名が知れているグループにテラ解放軍があった。
テラ解放軍は、テラと零シティの、テラ教からの解放を目指す集団であり、軍と名のついているとおり、武力行使もいとわないという集団である。古くからある集団で、レッドスコーピオンが選び抜かれた少人数で構成された集団だとすれば、こちらは来る者拒まずの大所帯だ。その分規律は厳しいものであり、まさしく一つの軍隊と言ってよかった。
アウトサイドで起きる武力によるいざこざの後ろには必ず名の上がる集団だ。
レッドスコーピオンが頭角を現し始めたのと時を同じくして、テラ解放軍のトップに躍り出たのがウ・グェンという名の男だった。
テラ解放軍のトップは将軍の称号で呼ばれる。グェンは、先代の将軍が戦闘によって亡くなった後に急にその名が上がり、解放軍のトップ、将軍となった。
では、どれほどの男かと思えば、彼に会ったものは皆初めは一様に驚いた顔をする。十人が十人頭に思い描いていた想像を裏切られるからだ。
将軍に上り詰めた時点で三十代であった彼は、若いうえに、どちらかと言えば優男と言えるような容姿だった。口調も穏やかで、めったなことでは命令口調で話すこともなく、東洋系の中でも色白で、太っているということはないが決して引き締まっているわけでは無い。将軍と言う称号が似合わない男であった。白衣を着て研究室にでもこもっていた方がよほど似合う、そんな雰囲気があった。
八年前。アウトサイドでの、ヴェルヌ王子襲撃事件が起きた時点で、グェン将軍はその職についてから三年の月日が経っていた。
アウトサイド、ファーストシティからほど近い山中に、テラ解放軍の本拠地はあった。山中といっても、木が生い茂るようなものではなく、ごつごつとした岩場だ。もともとあった、洞穴を利用して、その岩場の中にかなりの広さの基地が建設されていた。
その基地の中の一室で、グェン将軍は珍しく眉間に深いしわを刻んでいた。彼の前には初老の男が座っている。エルマン・ガッソ枢機卿。ヴェルヌ派と言われている枢機卿である。
「ガッソ枢機卿。ウチのメンバーを使うときは私に一言もらえないものでしょうか?」
グェンは、自分にできるかぎりの、不機嫌な声を出して言った。
「うちの一個小隊を無断で動かした上にほぼ全滅ってどういうわけです?」
彼がそう言い終わった時、ちょうど入り口のドアが開いてグェンとは対照的な風貌の男が入ってきた。がっしりとした体つきに口のまわりには怖い髭を生やし、黒髪を編みこんだ彫の深い男が飲み物をトレーに乗せて、立っている。
彼はテラ解放軍ナンバー2のムハマンド・ビン・ハキム。
応接セットに向い合せて座るエルマン・ガッソ枢機卿と自分の上官であるグェンの前にカップを置くと、自分は無表情のまま、グェンの後ろに控えた。
「それは誤解であろう? グェン将軍! わたしは彼らに命令した覚えなどないわ」
ガッソ枢機卿の方も思い切り不機嫌な表情をして見せた。
「隊長にヴェルヌ王子のアウトサイドでの情報を流して、武器を供与しておいででしょう?」
グェンの一言にガッソ枢機卿は、うすくなった白髪から透けて見える頭皮まで赤くした。
「だからなんだというのだ、だいたい、君が将軍になれたのは、私の援助があったからではないか!?」
ガッソの罵声を聞きながら、グェンはずずっと、わざと音を立てて目の前のカップからミルク入りのハーブティーを啜った。
「それについては感謝してますけどね」
と、全く感謝のない声で言う。
「あなたの要求にはなるべく沿うようにはします! ただ、私を通してほしいと言っているのです。ここの兵士は私の部下です。でないと、示しがつきません。あなたも、ここでテラ解放軍が分裂したりするようなことをお望みと言うわけでは無いでしょう?」
グェンは、その気弱そうな外見からは意外ともいえる様な意志の強さを持っている。彼がここは譲れないと思った部分においては、てこでも動かない。
睨むガッソ枢機卿から目を逸らすことなく見返す。
案の定、先に目を逸らしたのはガッソ枢機卿だった。
「わかった、今度からはまず君に相談しよう」
そういうと、カップには一口も口を付けずに立ち上がると身にまとったローブを翻し、足音を高くしながら部屋を出て行ったのだった。




