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零シティ  作者: 観月
第一章 追憶の日々
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辺境の村の記憶 -5-

 アルフレッドとエヴァンジェリンがキャラバンで出会った、ほんの少し後だった。

 ドゥシアス三世が発病し、いよいよ身の危険を感じたヴェルヌがテラを脱出し、宇宙連邦中枢にある、中央大学に表向きの留学をした。全てを捨て、逃げるようにテラを後にした。

 アルフレッドは、その後、ヴェルヌのガーディアンであった、シルヴァの消息を探っていた。秘密に包まれたガーディアンであるから、なかなかその消息を知るすべはなかったが、レッドスコーピオンを立ち上げていたアルフレッドに興味を抱き近づく者もあった。その中でも変り種が一人。

 エドゥアルド・ロッシ枢機卿。

 彼は両親を事故で早くに亡くし、若くして枢機卿の一人となった。ジュール殿下とは、同い年であり、学友でもある彼は、兄ジュール派の筆頭と目されている。だが、彼自身の考え方は今の現状を打破したいという思いが強かった。理想と現実のはざまで動くに動けない彼は、アルフレッドの立ち上げたレッドスコーピオンに興味を抱き接触を図ってきた。そして、アルフレッドとエドゥアルドは密約を交わす。

 エドゥアルドが自分の手の者を使えない仕事をレッドスコーピオンが引き受ける。その代わり、レッドスコーピオンは、重要な情報をエドゥアルドから得る。今まで、ヴェルヌ派と言われる枢機卿数名とは、影で通じていたが、表向きジュール派である者との接触は初めてであり、貴重であった。

 エドゥアルドはいつも笑顔を絶やさない、黒髪の好男子だ。中肉中背、これと言って特徴は無いようにもみえるが、彼の存在とほほ笑みは周りの者に安心感を与える。

 ある時、アルフレッドが「ジュールを裏切るようなことになってもよいのか?」と、エドゥアルドに問うた。

「私は、私の信じるものを目指します。ですがもちろん私はジュールの友人でもあります。おかしいかもしれませんが、私の中でそれは全く矛盾していないのですよ」

 穏やかな笑みをたたえたまま、そう言うエドゥアルドに、アルフレッドは底知れないものを感じた。

 そして、そのエドゥアルド枢機卿より、ガーディアンシルヴァの消息が知らされる。

 セブンス・シティの東へ百キロ。辺境の地へ任務で派遣されといるとの情報だった。

 住民の間に感染力の強い伝染病が発症した町。その町を隔離し、近隣の町から人を遠ざけ、その町に住む人々ごと、殺し、焼き払う。

 その病の決定的な治癒方法がいまだわかっていない状態だった。このまま放置し、病がテラ中に蔓延した場合の損失。それを考えたとき、ジュールは、迷いなく一つの村ごとの消去を選んだ。その、任務の責任者として、弟ヴェルヌのガーディアンであったシルヴァを任命する。

 王と王族を守護するというガーディアンの任務からは遠く離れた、過酷な業務にシルヴァは就いていた。


「私たちがあんたを見つけた時、辺境の町のすぐそばの廃墟の中で、あんたは今にも息が絶えそうだったわ」

 カーテンから漏れてはいる月の光の中でレベッカがつぶやいた。

「あの時、私を助けたのはアルファ……アルと、ラムダだと思っていた。レベッカもあそこにいたのか?」

「ええ、エヴァを発見した時、その場にいたわ。アルとラムダはセブンスシティの知り合いの商家にあんたを連れ帰った。私はその場にとどまり、偵察をつづけそこへ現れたリョーマに会った。そして彼をレッドスコーピオンに引き入れたの」

 エヴァは罪もない人々と剣を交え、殺し合い、焼き払っていく仕事に耐えきれなかった。ただただ、その場から逃れたくて、ある日その場から逃げた。彼女の監視につけられていたガーディアンが一人。彼女を追い、対峙した。

 ガーディアンは過去と切り離される。残された家族はだが、ガーディアンを出したことで、安定と富を約束される。その一方で、ガーディアンを縛る人質だともなるのだ。

 だが、そういった意味でシルヴァは異質なガーディアンだったかもしれない。実の両親は誰とも知れず、孤児として育った。卓越した戦闘能力に目をつけられ、ガーディアンとなったが、彼女には彼女を縛るほどのものが無かった。今まで主としてきたヴェルヌがテラを去り、安全な宇宙へ旅立ったいま、彼女を縛れるものはない。ましてや、シルヴァはヴェルヌの事もあって、ジュールに反感を持っているに違いないのだ。

 ジュールは、彼女を抑え込もうと、監視のガーディアンを一人つけ、辺境の汚い仕事に彼女の手を染めさせようとしたのだ。

「私は、私を追ってきたガーディアンを殺した。あいつだって、私を殺したかったわけじゃないんだろうなあ。家族や、もしかしたら恋人がいたかもしれない。何にも持たない私が残った……」

「残ったって言うけどね、あたしらが助けなきゃ、あのままあの世へ行ってたと思うわよ?……にしても、アルのやつ、そうまでしてエヴァを手元に引き入れたくせに手の一つも出してないとは……!」

 後半の言葉はレベッカのひとりごとになり、エヴァンジェリンの耳には届かなかった。

「ねえ、エヴァ、あんたは零シティの中にいたことがあるのよね。というか、あそこで育ったのよね? 私はずっとファーストシティで育った。親の顔も知らない。レベッカと言う名は自分でつけたの。ひどい目にあってた私を見つけてブラッドベリ商会が仕事と住む場所をくれたのよ。そして、レッドスコーピオンをアルとラムダ……ラムダの本名はレッドと言うの。ホントよ。彼らと一緒に立ち上げたのよ。零シティはどんなところ?」

 エヴァンジェリンはカーテンの隙間から伸びる光の線を目で追いながら、遠い記憶を手繰り寄せた。

「アウトサイドとは、何もかもが違うよ。あそこは時の止まった街。昔ながらの景観を保つため、幾重にも建築制限がかけられてはいるが、町の中を銀色の車が走り、木々に草花、手入れの行き届いた美しい街。王家の癒しと最先端の科学に守られた街。別世界さ。町のはずれにあるステーションには宇宙からの定期便がやってくる。あそこには、王家や枢機卿貴族たちの宇宙船だってある。信じられるか? アウトサイドじゃ、物資も少なく、商人はラクダやラバを何百頭も使って隊商を作り商いをしているのに」

 ベットが大きく揺れて、レベッカが寝返りを打った。

「わたし達、零シティを守る壁に風穴を開けられるかしらね?」

「どうかな……」

 月に雲がかかったのか、隙間から伸びた光の線がすうっと消えて行った。


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