皆既日食
2009.7.29に自サイトにて掲載したものです。
2009年7月22日
「早く、早く!!」
待ち遠しくてついつい私はホテルから飛び出していた。
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
のーんびりと浮き足立っている私の後を追いかける彼が子供扱いするように言った。
いつもの私ならばきっと子供扱いはしないでと膨れていただろう。
「だってぇ~」
しかし今の私にはそんなことは関係なかった。
とにかく急いで広場に行きたかったのだ。
「こんなにテンションが高いキミを見るのは初めてかもな」
ふっと私には聞こえないくらい小さな声でささやくように言った。
今から半年ほど前、偶然目にした雑誌を見てからずっーとこの日を楽しみにしていた。
今日のことを知った私はすぐに行動をとった。
彼にそのことを伝えたのはすべての準備が整ってからだった。
本当は当日まで黙っていたかった。
でも実現するためには会社に有休届を出してもらわないといけなかったからそうもいかなかった。
「あの人の言うとおり前のりして良かった」
広場につくなり昨夜場所取りしていたシートに座り込んだ。
「あの人?」
私の言葉に怪訝そうに眉をひそめながら彼は私の隣に座った。
「旅行会社の人よ。私、今日の時間まで知らなくて今日の午前中到着で話を進めてたの。そうしたら翌日、担当の人が時間を調べてくれて一日早めがいいですよ。って仮押さえしてくれたの」
テンションが高いまま私はいつもの倍以上しゃべりまくっていた。
「おっ、ほら始まったぞ」
彼の声を合図に周りからざわめきが聞こえてきた。
気がつくとさっきまでちらほらとしかいなかった人たちがどどっと押し寄せてきていた。
彼が差し出した簡易めがねを受け取り空に視線を向けた。」
「すごーい」
目の前に広がる神秘的な風景に感動しこの場所に二人でいられることに感謝した。
パシャッパシャッ・・・
いたるところでカメラのシャッター音が響いていた。
私にはその音すら心地よく聞こえた。
あたりがだんだん暗くなってきて私の耳に聞こえてくるのは感動のどよめき・・・そしてシャッター音・・・
どれくらいの時間が流れたのだろう・・・
時間なんて忘れるくらい私は目の前の光景に釘付けになっていた。
クライマックスを迎え、空は徐々に光が広がっていった。
どよめき、シャッター音が消えざわざわとさっきまでの緊張感がなくなり広場から少しずつざわめきが消えていった。
「見れて良かった。やっぱり、本物はとても幻想的で綺麗だったわね。」
ホテルへ戻るなりパソコンを立ち上げ自身のカメラのデーターをチェックする彼の肩に頭を預けた。
「そうだね。ほら、これが今日の画像だよ」
彼の声に私はパソコンの画面に目を向けた。
「ちゃんと撮れたのね。これ、ちゃんとプリントアウトしてくれる?」
すぐに欲しいという衝動を抑えて言った。
「もちろんだよ。これは僕と君の大切な宝物だからね。」
そう言って彼は優しく私の頬にキスを落とした。
☆おまけ☆
「ねぇ、これってこの前の旅行のときの写真じゃないですか?」
出来上がった原稿を手に僕のところにやってきた部下。
「あーぁ、それがなにか?」
パソコンに向かったまま返事をした。
「あの子は知っているんですか?」
視線を向けずともわかる部下のため息。
「知ってるよ。
悪いとは思っているがせっかくのチャンスを無駄にはできないからな。」
「もぅ、なんでチーフってあそこまで仕事人間なの!!」
昼休み、いきなり私のデスクに乗り込んできた友人はいきなり叫んだ。
「どうしたのよ、いったい。」
とくにびっくりすることもなく私はお弁当を取り出し彼女を部署から早く出るように促した。
「あんたもあんたよ!!
せっかくの旅行を仕事と一緒にされて悔しくないの!!」
あぁー、そのことか・・・
友人の言葉にピンッときた私。
「いいのよ、仕事がなかったら今の私たちはないんだから。」
「しんじらんないぃぃぃぃ」
私の言葉に納得のいかないようで叫んでいる友人をよそに友人の手にある原稿を取り上げ彼の仕事に目を向けた。
そして確認した。
私たちの約束・・・私たちの宝物だけは仕事で使わないと・・・
「あれだけは誰にも見せないわ。」
そう呟き私は原稿を友人に返した。
意味のわからないものになってもうた・・・
このシリーズはこことひとまず終わりです。
気が向けば書くかも??