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第一話 謎のおっさん

光の粒子をまといつかせたような、細く白く桃色の足が眼の前にあった。

少しずつ視線を上げると、開いた花、いや朝霧のよう、それとも磨いたダイヤ。

どれとも言える整った顔の美少女が、手に持った野球ボールを見つめている。


美少女は透き通っていて、傷んだ所も乱れたところも無い黒髪をしている。

長いまゆげ、薔薇色の頬、真紅な唇、鼻筋は通っていて、エメラルドの瞳、瞳を着飾るまつげ。

どれをとっても一級品。


その美少女の名前は椎名希(しいなのぞみ)

皆川巧の幼馴染。


しばらくボールを見つめている希を、巧は改めて見る希の美しさに吸い込まれる様に見ていた。

そして希は口を開いた。


「巧。このボールで相手を三振にとってね」


いきなりそう言うと、手に持ったボールを巧に優しく巧の手を持ちながら渡す。

巧は自分の腕に希のぬくもりが伝わってくるように思えた。

しかしそう言われた巧は素直に気持ちを受け止めることができなかった。


「無理だよ。向こう見てみろよ」


巧はそう言ってグランドのほうを指差した。

巧の指の先には素人の目から見ても解るような、すごく速い球を投げる青年が居た。


「誰?あのかっこいい人」


希に言われると巧は自慢のような言い方でいった。


「あいつはさぁ、楠田俊一(くすだしゅんいち)っていって、高校生にして150k以上の球を投げる奴なんだよ。プロのスカウトなんかも見ててさぁ、俺なんか別世界だよ」


「だから?私は、あの楠田って人が取る三振じゃなくて、巧が相手から奪う三振が見たいの」


そう言う巧に希が怒ったような言い方で言った。


「だから、僕なんかは試合に出れないのさ。この三年になるまで僕は雑用、玉拾い、ランニング。今までたった一球も投げさせてもらってない」


弱音ばっかり吐く巧に望みはまたも、怒った言い方で言う。


「うるさいなぁ!巧だってやれば出きるかもしれないじゃん!あきらめないでよ!………私、知ってるんだよ。巧は毎日家で何百球も投げてるし、練習以外のランニングもしてる……一度くらい、三振取れるよ」


そう言うと望みは涙を目に浮かべて走り去っていった。


「三振か。俺だって一度くらい取りたいよ………試合に出れたら。試合に出たい」












その日の夕方。

巧は毎日家で投げてることを希は知ってると言ったので、今日はボールとグローブをもって橋のしたで投げ込みをした。


しばらく投げ込むと横に、おっさんが立っていた。

このおっさんは、近所でも有名な野球好きだったので気に留めず投げ込んだ。

そのおっさんは、しばらく投げ込みを見ていると、急に口を開いた。


「遅いのぉ、その球じゃ俺でも打てる。いや家のじいさんでも子供でも打てる」


巧はカチンと頭にきたが、所詮おっさんの言うことじゃないか、と思い無視をした。


「無視はイカンよ。納得がいかないんだったら、どうだ、試してみないか?」


そう言って持っていたのは棒キレだった。

巧はさらにむかつくおっさんだと思ったが、そこまで言うならやってもらおうと思い、話を切り出した。


「いいよ。やってやる」


巧はまったくあほなおっさんだと思った。巧は確かに球のスピードはないけれど、コントロールには自信があった。


(おっさんが持っているのは棒キレだ。内角低めで詰まらせて、棒切れを折ってやる)


巧はそう考えて投げようとする。が、おっさんが立っているのは壁が後ろに無い所だった。


「おっさん!そこだとボールが後ろにいっちまうだろ」


そう言う巧におっさんは笑みを浮かべる。


「ボールがどっかに行くと心配してるのか?大丈夫だ。必ず前に飛ぶ」


またも自身有り気に言い放つおっさんに、巧はついに激怒した。

巧はもう何も言わずに、コントロールすることに集中していた。そして、振りかぶった。

巧は自分の全ての力を搾り出して、渾身の球を見事に、内角低目へとコントロールした。


だが巧はおっさんが甘いと、叫んだ気がした。

そしてあの棒キレで、巧の球を打ち返した。普通ならセンターフライだろう。だけど、もしバットだったら、ホームランだった。


呆然と球を見送る巧におっさんは言った。


「な?お前の球は遅いといっただろ?くやしいか?」


巧は野球小僧だった。純粋にさっきの怒りを忘れ、今の球を打てたおっさんに、拍手をしたかった。

球を見送った巧は、おっさんのほうに振り返る。しかしおっさんは、姿を消していた。












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