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プロローグ:秘密結社の49

 地下から見上げたその空は、叫びたくなるほどに空々しい。


 …………………………………………


 その男は大手企業の商社マンであった。

 名前は藤見龍之介だったが、もう二度と名乗ることは無いだろう。

 この日、その男は己を捨てたのだ。捨てざるを得なかったのだ。その身はただ、この世に闇と恐怖を顕すための歯車と化した。ゆえに名前など要らぬのだ。名など名乗ろうものならば、東京での暮らしを応援してくれた親元に迷惑がかかることは必至。今までたいした孝行も出来なかった彼にとって、そんな最低最悪の親不孝だけは避けたいものであった。

 同時、そんな良心が残っていることに、彼自身驚いていた。

「イヒヒッ、どうかね、生まれ変わった気分は!」

 かの狂人ハンニバルもかくやという、恐るべき外見をした外科医が、手術台の上に張り付けられた男に語りかけてくる。その顔には満足げであり自信に満ち溢れた笑みが刻まれている。

 四肢は手術台から飛び出した金具で固定され、同じように首にも固定具。そして男は全裸であった。

 当然の成り行きだ。ここは手術室であり、たった今その世紀の大手術は施行され、それにより男はすでにヒトではなくなったのだから。当たり前のように、彼には服を着る時間も必要も無かった。

「生まれ変わった……? いや、それよりここはどこだ! なんでこんな……!」

「ふん、記憶が混乱しておるな。思い出せ。貴様はたった今、このドクター東郷の手によって改造手術を施されたのだ」

「そんな馬鹿げた話が……」

「貴様は我々の秘密を、知ってはならぬ闇を知ってしまったのだ。貴様はその場から逃げ出し、通りかかったトラックに轢かれた」

「え?」

 それは予想外の顛末だった。なんという間抜けであろうか。よりにもよって交通事故で死ぬとは。

 しかしおかげでだんだんと男は記憶を取り戻していた。そうだ、あの時男は港で、見てはならない取り引きを見てしまった。それは人間の売買であった。まるで牛肉の切り売りのように人間が売られていく現場を目にし、そしてその現場の人間を無残にも斬殺した恐るべき男を見て、彼は震え上がり笑って動かぬ膝を懸命に動かし逃げ出したのだ。

 そして、焦燥のあまり飛び出した国道で、トラックにタックルされた。記憶はそこで途絶えている。

「イヒヒッ。たとえ外見はぐちゃぐちゃでも実験には使える。貴様もついでに回収してやったのだが、奇跡的に息を吹き返した! そこでわしは貴様に改造手術を施すことを提案したのだよ!」

 そんな馬鹿な!と叫びたいのを、男は必死でこらえた。そんな特撮のようなことが現実にあるはずがなく、警察がそんな暴挙を許すはずがない。だが話の真偽にかかわらず、己を生かすも殺すも目の前のドクター次第だということくらいは、男にも理解できた。

 ドクター東郷は男の顔に理解の色を見たか、狂喜の表情で男を見下ろし、電磁メスを突きつけた。

「よいか! 貴様はこれより怪人ナンバー49として、われらが組織のために働くのだ!」

「もし、断ったら……?」

「ハハッ! できんよ。貴様は組織には逆らえん。これが見えるか?」

 それは真っ赤なスイッチだった。49号自爆用、と書かれている。みなまで言われずともわかってしまった。それを押されたが最後、男の体は木っ端微塵に吹き飛ぶに違いない。想像を絶するあくどさに、男は絶句した。

「キヒヒッ、どうだ、面白い仕掛けだろう! 言っておくがスイッチは複数存在する。われら幹部が一つずつ持ち、三人以上の承諾で自爆する。わかるな? われらの意に背けば、即刻ドカンだ」

「う……!」

「わかったであろう。貴様はすでに我々の忠実なるしもべよ。命が惜しいならば、命を救った組織に少しでも恩を感じるならば、ゆめゆめ逆らわぬことだ。何、今は平の怪人だが、働きに応じて処遇もよくなろう。安心して組織に身を捧げるがいい」

 平の怪人って何だよ。つまりここでも平社員かよ。と場違いな愚痴を胸中でこぼす男。

 そんな心中を知ってか知らずか、ドクターは手術台の固定具を解除し、狂ったような笑みで天を仰いだ。

「さぁ起て、怪人ナンバー49! この世を恐怖のどん底に叩き落すのだァァッ!」

 この日、男は己を捨てた。捨てざるを得なかった。

 一度死したその身はすでにヒトでなく、この世に恐怖と破壊を撒き散らすモンスターとして生まれ変わったのだから。男はそれ以外の生き方を思いつかなかったのだ。

※『怪人』

 改造人間の中でも、悪の組織に所属するヤツら。

 どいつもこいつも警察では歯が立たないほど強い。常に時代の最先端を行くイカした連中。爆発して死ぬのはもはやお約束。

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