私を殺したい方は、全員こちらにお並びください
「男爵令嬢リーナ・フェルナーをここに処刑する。俺の婚約者イザベラ・ヴァイセンベルク公爵令嬢を殺害した罪は重い」
王太子アルフォンス殿下の宣告が王宮前広場に響いた。
広場が騒然となった。
「イザベラ様を殺した女を許すな!」
「私はあの女が毒を入れるのをはっきりと見たぞ!」
私を取り囲む貴族たちの言葉が、私の胸に突き刺さった。
手足を拘束され、広場の中心の処刑台に立たされているのは私、リーナ・フェルナーだ。イザベラ様は私の、いやフェルナー男爵家にとっての恩人と言ってもいい。
ヴァイセンベルク公爵家とフェルナー男爵家は古くから親交があり、私にとってイザベラ様はお姉様のような存在だった。お美しいだけでなく、いつもお優しく気品のあるイザベラ様に、私は深い敬意と親しみの感情を抱いていた。
イザベラ様は貧しいフェルナー男爵家の窮状を知って、アルフォンス殿下との婚約後には、王宮の給仕係の仕事を斡旋してくださった。私だけではない。父のフェルナー男爵もたびたびイザベラ様の事業の手伝いによって、生活費を稼ぐことができていた。
そんな恩人を私が殺すなどということはありえない。
むしろ、恩人のあまりに突然の訃報に、私はずっと悲しみに暮れていたのだ。
ところが、アルフォンス殿下は、私が犯人だと決めつけたのだ。やってもいない私の犯行を裏付ける証人が何人も現れたことを根拠に。
証人たちは嘘をついている。だから、悪意を持って私を貶めようとしているのだ。その中に真犯人がいることだって考えられる。
「殿下、正式な裁定も通さずに私はこの処刑台に立たされました。ですから、処刑の前に、ひとつだけお願いを聞いていただけませんか?」
「願いだと? 何だ?」
アルフォンス殿下は訝しげに私を見た。
「証言された方々のお話を、お聞かせいただきたいのです」
「ふん。往生際が悪い女だ。自分の罪を再確認するだけだぞ」
「それでも構いません。ただ、私がなぜイザベラ様を殺したことにされたのか、はっきりさせてから死にたいだけです」
私がそう言うと、貴族たちが声を上げた。
「私ははっきりと見た!」
「私もだ!」
「言い逃れなどさせんぞ!」
アルフォンス殿下も険しい顔をした。
「聞いただろう? 何人もの証人がいるのだ。おまえの犯行ははっきりとしている。……だが、おまえに自分のしたことを思い返させるためにも……いいだろう。証言を聞くがいい。イザベラの無念を少しでも晴らさせてもらおう」
殿下の目にはうっすらと涙が浮かんでいるようだった。殿下は本当にイザベラ様を愛していたのかもしれない。
「ありがとうございます」
私は深く息を吸った。
イザベラ様……。どうか私をお守りください。あなたの仇を討つために……。
「さあ、私を殺したい方は、ぜひこちらにお並びください」
※
「僕は夜会でおまえが毒を盛るのをはっきり見た!」
最初の証人の貴族令息が断定するように言った。
私の目の前には、実に37人の証人が並んだ。これだけの人々が、私を殺したいと考えているのかと思うと、薄ら寒さを感じた。
同時に、こっそりと人を殺そうとする給仕が、そんなにも多くの人々に犯行の現場を見られたり、証拠を握られることなどありえるのだろうか、と疑問にも思った。私はそこまで間抜けな犯人だと思われているのかと思うと、腹も立ってきた。
「どこで、何に毒を入れたのを見たのですか?」
「紅茶のカップだ! 毒を盛って、それをイザベラ様に渡していた」
やはり嘘だ。私はそんなことはしていない。なぜこの方はここまではっきりと嘘をつくのだろう。
「なぜ私だとわかったのですか?」
私の質問に、その貴族令息は鼻で笑った。
「顔を見ればわかる。間違いなくおまえだ」
夜会に参加している貴族の方々は、いちいち給仕係の顔など見て覚えているのだろうか? 私はあなたがどなたか知らないですけれど……。
「なぜそれが毒だとわかったのですか?」
「不審な白い粉を入れていた」
「砂糖だったのでは?」
「その紅茶を飲んだ後に、イザベラ様が倒れて、そのまま帰らぬ人となったのだ。間違いない」
「私がその粉を入れて、イザベラ様に渡して、イザベラ様が倒れるところまでずっと見ていらしたのですか?」
「そうだ」
「なぜ私ばかりをずっと見てらしたのですか?」
「おまえが不審な動きをしていたからだ」
そこまで執拗に見ている人がいれば、私だって気づく。給仕係はお客様の視線には敏感なのだ。紅茶が欲しい方は、必ず紅茶係の給仕を探すのだから。
「あなたは本当に私がイザベラ様を殺害したとお考えなのですか?」
「当たり前だ。すべて見ていたのだから」
「本気で、私は死に値すると考えているのですね?」
「そうだ」
「では、あなたが私の首を斬ってください」
自分の声がかすかに震えているのがわかった。怖かったけれど、私は挑むように貴族令息を睨んだ。
すると、その貴族令息のほうが少し怯んだ。
「……なぜ僕がそんなことをしなければならんのだ」
「私が本当に死に値するのか知らない処刑人の方ではなく、私の犯行を確信しているあなたにこそ殺されたいのです。それだけの覚悟がないのに、私を殺人犯扱いするのですか?」
ただ虚偽の証言をするだけで、私を殺す覚悟もない方に、糾弾されたくはない。
「私は、私を殺したい方に並んでください、と言ったはずです」
そのとき、列に並んでいた人たちが、ぱらぱらと列から離れていった。
狙いどおりだった。
それほどの確信がない証言者は、これで脱落したはずだ。そして、どうしても私を殺したい動機が強い方々は、まだ列に残っているだろう。イザベラ様と親しかった方や、あるいは犯人か……。
私は二人目の証言者と対峙した。
貴族の令嬢らしき方だった。
「私はあなたを許すつもりはありません。イザベラ様はとてもすばらしい方でした。貴族や平民に関わらず、困窮した人々に手を差し伸べるような方でした。この王国に必要な方でした。それをあなたは……」
「私もあなたと同じ気持ちです。私もイザベラ様には大変お世話になりましたし、大好きなお方でした。イザベラ様を亡き者にした方が許せません」
貴族令嬢は一瞬、動揺を見せた。
「……何を仰っているの? あなたが殺したのでしょう?」
「なぜそう思うのです?」
「夜会の最中、あなたがイザベラ様の様子を気にしているのを見たのよ。とても悪意のある視線だったわ」
「あの夜会ではお客様がたくさんいらっしゃいましたから、多少殺気だったところはあったかもしれません。給仕係はすべてのお客様に気をつかっておりますから、イザベラ様のことも見たと思います。ですが、なぜそれだけで私がイザベラ様を殺したことになるのですか? 他にもイザベラ様を見ていた方はたくさんいたはずです」
「他の皆も、あなたを疑っているからよ」
「皆というのはどなたですか?」
「ここに並んでいる方々よ」
貴族令嬢が振り返る。
その人数が明らかに減っていることに気づいて、また少し貴族令嬢は狼狽えた。
「ご覧のとおり、必ずしも皆ではなかったようです。不確かなことを仰っている方も多かったのではないですか?」
「……」
「それに、あなたご自身では、私が毒を盛ったところは見ていらっしゃらないのですね?」
「見てはいないわ……。それでも誰かがイザベラ様を殺したことに違いはないの……」
貴族令嬢は泣き出した。
都合が悪くなって泣くのはずるい。
あなた以上に私は泣きたい気分なのに、それを堪えているのだ。
「いずれにせよ、あなたの証言が証拠として成立していないことは、はっきりしました。次の方に場所をお譲りください」
私が退席するよう促すと、貴族令嬢は私を睨みながら列から外れた。
次は比較的年配の貴族の男性だった。
「私もあなたが毒を紅茶に盛るところを見た。その後、その紅茶を飲んだイザベラ様が倒れたのも見ている」
最初の証言者の貴族令息と同じ証言だった。
私が犯人と断定された決め手になっているであろう、この証言に、私は先ほどから違和感を感じていた。
「最初の証言者の方もそうなのですが、なぜ私の行動を追っていたのですか? まるで最初から私が犯行を行うことがわかっていたようではありませんか」
「あなたの行動が怪しかったからだ」
最初の証言者と同じ答えだ。
「どう怪しかったのですか? いつから私のことを見ていたのですか?」
「……私は、イザベラ様をよく思わない者がいて、狙われていることを知っていた。だから、不審な者がいないか目を光らせていたら、あなたが紅茶を配りながらも、イザベラ様の様子をちらちらと見ていたからあなたを目で追ったのだ」
それは、最初の証言者にはなかった証言だった。
それらしく聞こえたが、やはり嘘をついていることは間違いなかった。
「なぜイザベラ様が狙われていると思ったのですか?」
「王太子殿下の婚約者なのだ。イザベラ様や公爵家を妬む者が出てくるのは当然だろう?」
「それで、没落男爵家の娘で給仕係の私が、畏れ多くもイザベラ様を妬んだとお思いなのですか?」
「そうだ。イザベラ様はあなたが持っていないものをすべて持っているからな」
私はひどく侮辱された気分になり、拘束された手を強く握りしめた。
そのとき、そこでひとり、列に加わったのが見えた。
私が反省の色を見せないので、憤慨する人が出るだろうことは想定していた。
けれど、この証言者の発言の後に列に加わったことが、より私の屈辱感を増した。
「……次の方、どうぞ」
その後は、イザベラ様を慕っていた方が二人ほど私を口汚く罵り非難した。
その次に、もうひとり、私の犯行現場を見たという者がいた。やはり紅茶に白い粉を入れ、イザベラ様に飲ませたという、他の目撃者と同じ証言だった。
同じときに、三人の貴族の方々が、私が毒を入れ、イザベラ様を殺害するまでの一連の行動をじっと見ていたことになる。
他の方々は伝聞で私の犯行だと聞いて信じこんでいただけで、証言は有効ではなかった。37人並んだ中で、たった三人だけだ。
そして列に並んでいた証言者の残りは、37人の最後のひとりと、途中から加わったもうひとりだけ。
けれど、その次に並んでいた人物の顔を見て、私は少なからず驚いた。
その人物は、給仕長のマルタさんだった。
厳しい方だったが、それは愛情のある厳しさであることは給仕の皆が理解しており、私もとても信頼を寄せている上司だった。
「マルタさん……なぜ……」
マルタさんは不機嫌そうに私を見た。その顔は、叱る時の顔だった。
「なぜあんたを殺したいかって? あんたがこんなバカバカしい騒動に巻き込まれて、処刑台に立っているからだよ」
「えっ?」
「っていうのは半分本気だけど、半分は違う理由だ。並ばなきゃ、皆に話を聞いてもらえないじゃないか」
「どういうことですか?」
「リーナ、あんたを助けるために並んだんだよ」
広場が騒然とした。
「証言してくださるのですか?」
「ああ。自分でも嘘つきどもに反論はできるだろうが、あんたひとりが主張したところで、あんたが嘘つき呼ばわりされるだけだろうからね」
やはりマルタさんはわかっていたのだ。
「はい、マルタさん。仰るとおりだと思います。ひとりでは……うぅ」
この場にひとりでも味方がいたことに緊張が緩み、私は泣き出しそうになるのを堪えた。それでも、嗚咽が漏れてしまった。
マルタさんは、私の犯行を目撃したという証言者たちのほうを向いた。
「私は給仕を取り仕切る給仕長のマルタって者です。このリーナもあたしの部下で、あたしの決めた役割に従って夜会の仕事に従事していました。あの夜会は参加者の方が多かったもので、きっちり役割分担していて、ひとりでいくつもの役割をするなんてことはできなかったのです」
証言者たちも、観衆も、黙ってマルタさんの言葉に耳を傾けていた。
「リーナの役目は、『葡萄酒』係だったのです。紅茶のカップなど、ひとつも触っちゃいないのです」
「係が何だか知らないが、給仕だったら、人目を盗んで、紅茶のカップを触ることくらいできただろう」
目撃者のひとりの貴族男性がすかさず反論した。
マルタさんが首を振った。
「あたしはずっと給仕たちの監督をしていました。リーナは一度だって紅茶の盆を持ちませんでしたよ。嘘だと思うなら、給湯係や他の給仕たちに聞いてもらってもいい。少なくとも、今ここでリーナを処刑するのは間違いです」
マルタさんに勇気をもらった私は、さらに追い討ちをかける。
「あなたは、私が紅茶を配りながら、イザベラ様の様子をうかがっていたと仰いましたが、仮に一瞬の隙をついて紅茶のカップに触れたとしても、ずっと葡萄酒を配っていた私が、紅茶を配りながらイザベラ様の様子をうかがう、ということは絶対に不可能だったのです」
「いや、私は絶対に見た! おまえたちは結託して嘘をついているだけだ! 今すぐその娘を処刑しろ!」
「結託して嘘をついているのは、そちらだと思います。あなたたちの証言はあまりに不自然です。これ以上引き伸ばして、確かな証言が集まったら不利になると思って、今すぐ私を殺そうとしているようにしか思えません」
「侮るなよ。私はおまえの首を斬れるぞ」
年配の貴族男性が、近くに立っていた騎士から剣を奪おうとする。
「待ってください!」
そのとき、声を上げたのは、後から列に並んだ女性だった。
私はその女性にも見覚えがあった。
伯爵令嬢セシリア・ブラント——イザベラ様の親友だった。
そして王太子アルフォンス殿下の元恋人でもあった。
※
「セシリア様……。あなたまで私を殺そうとするのですか?」
私は思わず、そう尋ねた。
「リーナさん、もしあなたがイザベラを殺したのであれば、私は決してあなたを許しません。殺したって気が晴れるとは思いません。あなたなら、私とイザベラがどれだけ親しい仲だったかご存じでしょう?」
セシリア様の顔はこわばっていた。
その顔がひどく恐ろしく感じられた。
「私にとって、イザベラ様は大切な恩人です。なぜその私がイザベラ様を殺そうなど考えるでしょうか? セシリア様こそお分かりになってくださるのではないですか?」
セシリア様は顔をこわばらせたまま、押し黙った。
何かを堪えているような、あるいは何かを迷っているように見えた。
誰もが固唾を飲んで、セシリア様の次の言葉を待った。
その言葉が、私の生死を決めてしまうような気がした。
「ええ」
数十秒程度だったかもしれないけれど、私には何時間にも感じられた。
ようやくセシリア様が口を開いた。
「あなたは、犯人ではないわ」
「えっ?」
「あなたが紅茶に毒を入れたという証言は嘘です。だって、給仕係から紅茶を受け取って、その紅茶に粉を入れてイザベラ様にお渡ししたのは、私ですもの」
「セシリア! やめろ!」
セシリア様に向けて声を上げたのは、私に斬りかかろうとしていた、先ほどの年配の貴族男性だった。
「お父様……。申し訳ございません……。私は真実を隠しとおすことができそうにありません」
セシリア様の目が潤んでいた。
セシリア様は「お父様」と仰った。
セシリア様のお父様のブラント伯爵が、虚偽の証言をした方のひとりだというの……?
「……イザベラ様は私の親友だったのです。そのイザベラ様は、自らの命を奪われたことよりも、無実の者に罪を着せることのほうを許さないと、私には確信できるのです」
「よせ!」
ブラント伯爵が叫んだ。
「私は、お父様に、外国の香料の土産だと言われて、イザベラ様の紅茶に入れるよう言われ、そのとおりにしました。お喜びになって、それをお飲みになったイザベラ様は、そのまま亡くなられました……。私は、お父様が私に毒を持たせたなどとは信じたくなくて、今まで黙っておりました。ですが、お父様の証言を聞いて……お父様がはっきりと嘘をついたことで、ここに並んで証言をする決心をいたしました」
「セシリア! でたらめを言うな!」
ブラント伯爵が、セシリア様を怒鳴り続けた。
「私はまだその香料の……毒の入っていた包み紙を持っております。そこにまだ少し粉が残っております。それを証拠として提出させていただきますので、宮廷医師に調べていただければと思います」
伯爵の顔が青ざめた。
「くっ……。おまえのためだったのだぞ……」
それは、自らの犯行を認めるかのような言葉だった。
「私のため……?」
セシリア様は溢れる涙を拭うこともしなかった。
「私は……イザベラ様を失ってまで王太子妃になりたいと思ったことなどございません!」
「どういうことだ、ブラント伯爵?」
それまで黙って成り行きを見守っていたアルフォンス殿下が口を開いた。
「俺はおまえと、その者たちの証言を聞いて、リーナ・フェルナーを処刑台にまで引っ張り出したのだぞ。おまえたちだけではない。三十人以上の証言があったから、確信を持って処刑を決めたのだ」
殿下はブラント伯爵に迫った。
「そうだ! 私も伯爵の言葉を信じたのだ」
「我々は騙されたのだ」
「無実の人を貶めようとするなんて……」
先ほどまで私を殺そうとしていた人々まで伯爵を責める声を上げた。
私は殿下の言葉にも、それに同調する人々にも、憤りを禁じ得なかった。あまりに無責任すぎると思った。
「殿下こそ……感情に任せて、正式な裁定も通さず、何もしていない私を処刑しようとなさったではないですか! 伯爵を非難する資格があるとお思いですか?」
私の言葉に、殿下がたじろいだ。
「……私は多くの証言をもとに判断しただけだ」
「では殿下が殺したと三十人が証言すれば、たとえ事実と違っても、ご自身の罪として受け入れるのですか?」
殿下は言葉を詰まらせた。
私は、私を殺そうと列に並んだ証言者の方々にも顔を向けた。
「マルタさんを除いた36人の方々もご覚悟ください。あなたたちの顔は決して忘れません。あなたたちの責任も必ず追及させていただきます。イザベラ様の死を悼んで、私を恨んだ方もいらっしゃいましたが、私もイザベラ様の死を深く悲しんでいます。ですが、その悲しみを理由に、無実の者を殺していいはずがありません」
そして私は息を整えて、改めて尋ねた。
「私をまだ殺したい方は、どうぞお並びください」
そこには誰も並ばなかった。
私は生き延びた。
安堵はあった。けれど、私はそれを少しも嬉しいとは思えなかった。
私を殺そうという悪意に晒された恐怖は、いまだ拭いきれなかった。
そして何より、私の冤罪が認められたところで、イザベラ様は戻ってこない。
その後、アルフォンス殿下は裁定を通さずに無実の私を処刑しようとした責任を問われ、廃嫡となった。ブラント伯爵や、偽証に加担した者たちも正式な裁定を受けることになった。
セシリア様についても調査が行われたが、紅茶に入れられた粉が毒とは知らなかったことが認められた。
※
私は、あの日の処刑台での出来事を、生涯忘れることはないだろう。
私を死に追いやろうとする人々がいなくなり、処刑台に立たされたままだった私の拘束を、マルタさんが解いてくれた。
拘束を解かれてなお、私の両手は震えていた。
自由になった私を、セシリア様が抱きしめた。
そして、私の耳元で「ごめんなさい」と繰り返した。
あのとき、イザベラ様が、私を守ってくださったのだと思った。
イザベラ様が大切にしていたものは、まだ、この王国に残っている。
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