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転移勇者と愛しき人と  作者: 炊飯器と電気ポット
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ジル教官に相談

早く王宮に帰ってジル教官に相談したい!

シーンス様が気を利かせて馬車を呼んでくれて、無事に王宮へ帰ることが出来た。


一時はどうなることかと思った。


馬車の中でシーンス様がバッシュ先生の生い立ちのダイジェストを話してくれて、バッシュ先生が努力と鍛錬と苦労を重ねて、いくつもの戦場で活躍して今の立場になったことを知った。



神の祝福か何か知らないけれど、前の世界ではごく普通の僕がチート的な身体能力と武術のセンスを得て、見せびらかせている様はさぞかし傷つくだろう。

ただ魔法陣通り抜けて来ただけ。



金沢で始めようとしてた新生活のすべてはぶち壊しになったけど、この世界で生き残るためには必要な訓練、軍学的な知識、応急手当などの医学など学ぶことは多いと思う。



馬車の中でそんなことを考えながら馬車は王宮の入り口へ着いた。


四人のメイドたちが出迎えてくれて、とっても怒っていた。


「勇様を置いてけぼりにするなんてバッシュ様も何を考えていらっしゃるのかしら!」


全員プンプンである。


「悪いけどジル教官のところへ連れて行ってほしいんだけど」


「のちほどジル教官をお部屋にお呼びしますね」


「いやいや僕が相談があるから僕が行くよ」


リンは少しの沈黙のあと。


「勇様のご認識がズレていらっしゃるので、ハッキリと申し上げますが現在ランヴェール王国は存亡の危機なのです。槍の指導をされる予定だったグレイル様も先ほど前線へ向かわれました。勇様の訓練が早く済まなければ、より多くの兵や国民が命を落とすことでしょう。勇様が戦いを学ぶために建前としてジル教官含め皆様が指導をする立場におられますけど、事実上勇様の方が上の地位にあります」



「そういうの難しくて言われてもわかりました!とは言えないんだよね」


「なにはともあれジル教官をお呼びします」


そう言うとベルが部屋から出て行った。


しばらくするとベルと共にジル教官が部屋に入ってきた。


「よう!色々あったらしいな!」

「はい…」


僕は今日行われた弓の訓練のことから闇夜を手にしたこと、バッシュ先生の機嫌を損ねたことなどをかいつまんで話した。


「バッシュのヤツは神経質だしプライド高いからなあ」


「僕はどうすればいいんでしょうか?」


「兄ちゃんか、まあ、昨日見た感じ人間の領域を越えてるからな…。敵にまわられたら厄介極まりないな」


「ぜんぜん答えになってませんよ?」


「確かにな、人より動けて力が強くても戦場じゃ役に立つかは別問題だ」


「本当にその通りですよね」


「仕方ねえな、もうちょっと後からにしようと思ってたけど、少し待ってろ」


そう言い残してジル教官は部屋を出た。

リンは心配そうな顔をして話しかけてくれる。


「勇様、少しお休みになられたらいかがですか?それとも紅茶か最近入って来た緑茶など召し上がってみますか?」


「え?緑茶?」


しばらくするとアンナがティーセットを部屋に運んで来た。そして緑茶の香りがする。


なんか懐かしいなあ。まだ数日しか経ってないのに。

僕は緑茶をすすりながら故郷を思い浮かべた。


「おい!入るぞ!」


ジル教官が戻って来た。


「兄ちゃんひと息ついたら、ついて来い」

「わかりました」


薄暗い廊下。


並ぶ鉄格子の部屋。


地下五階くらいだろうか?ジル教官の後をついて僕は歩いている。


最奥の場所に大きな扉があり警護についている兵士がジル教官に敬礼して扉を開ける。


中に入ると一本の柱に人がくくりつけられていた。


「兄ちゃんよ、こいつは殺人鬼でな。五年もかかってようやく捕まえられたんだよ。子供ばっかり狙いやがってとんでもねえヤツだ。闇夜とやらは持ってきたな?頭でも身体でも良いから射抜いてやれ!」



「急に言われても無理でしょう!?」



「馬鹿野郎!国王に掛け合って死刑執行人をお前にするって決めたんだ!戦場に出てみろ、毎日毎日敵兵や魔物を殺しまくる生活なんだぜ?」


「ちょっと待ってください!」


「まあ良いさ、兄ちゃんが殺らなくても俺がやるだけだ」



「逃げちゃだめですか?」


「どうせ逃げられねえよ、勇者の宿命だ」


「なんかこっち来て人間やめたみたいに感じてて、走れるし、跳べるし、力がありあまってるけど。現実的に人の命を奪うって本当の意味で人をやめる感じですね…」



僕は葛藤していた。



常識的に人殺しはダメだろ。とか。


勇者として戦うなら乗り越えなきゃダメだろ。とか。


柱にくくりつけられた男が叫ぶ!


「誰でも良いから殺してくれ!余罪はあるか?余罪はあるか?と拷問の日々はもう嫌だ!頼む!ひと思いに殺してくれ!」



ジル教官が追い込みをかけてくる!


「さあ、兄ちゃん!やるのかやらないのか?早く決めろ!」



「わかりました…」


僕は柱から少し離れたところに立ち闇夜を構えた。


「あなたの名前を教えてください」


「俺は…。アーノルドだ」


「生まれ変わることがあれば、次は真っ当に生きてください」


僕はアーノルドが苦しまないように闇夜を強く引き絞った。



ビュイーーン。バーーーン!!!!



アーノルドも柱も跡形もなく砕け散り、後ろの石壁には大きな穴がポッカリと空いていた。




僕の心の中から大切な何かが失われてポッカリと穴が空いたように感じた。

人が勇者として異世界に召喚されて、真の勇者になるために乗り越えなければならない壁は高い。

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