名工シーンス弓工房
僕は馬車に揺られて王都へと帰ってきた。
バッシュ先生は一言も口を聞いてくれなかった。機嫌を損ねただろうか?
ヒヒーン、カッポカッポ。
馬車が停まった。どうやら見覚えのある街並みなので鍛冶師のギルビルさんの近くらしい。
「降りなさい」
「はい!」
バッシュ先生は看板に弓の絵が描いてある工房へと入って行く。
「早く来なさい」
「はい!」
工房に入るとバッシュ先生は職人さんらしき人に声をかけていた。
「シーンス様はおられるか?」
職人さんはシーンス先生を見てびっくりした様子で工房の奥へと消えていった。
工房には数多くの弓が飾られており、中にはボーガンみたいな形をしたものもあった。
僕はあれで良くない??と心底思うのであった。
「バッシュ様大変お久しぶりです」
銀髪の背の高い男性で少し耳が尖っているように見える。これが噂のエルフなのかな?
「シーンス様こちらこそご無沙汰しております。さっそくですがこちらへ」
そう言いながら外へと出ていく。
「シーンス様こちらをご覧いただきたい」
シーンス様は荷台の数々の弓を手に取り関心したように頷いていた。
「バッシュ様、勇者様は噂通りの膂力をお持ちのようですね」
「シーンス様、私もこのようなことは初めてなのです」
「でしょうね」
「シーンス様、勇者様の膂力に耐えられる弓をお願いすることは出来ますでしょうか?」
「バッシュ様にお渡しした、私が自分で言うのもおかしいですが、あの名弓をお作りして十年の月日が過ぎております。私自身が興味本位で仕上げた強弓の強弓があるのですが、先ずはそちらを試して頂けませんか?」
「シーンス様!それは拝見したい!」
こうして僕たち三人は工房へと戻った。シーンス様に招かれるがままに試射場とも呼べる場所へと着いた。
「しばらくお待ちください」
シーンス様はその弓を取りにどこかへ行ってしまった。
バッシュ先生は相変わらず僕には無言だった。少し気まずいかも。
シーンス様は一つの大きな弓を手に持って来た。
「バッシュ様こちらは弓はアダマンタイト製で弦はブラックドラゴンのヒゲを使い仕上げた作品です。どうぞお手にとってみてください」
「ありがとうございます。少し重いですね、引いてみます…。おや?これは硬くて弓としては使えない作品ではないですか?」
「バッシュ様そうでしょう、そうでしょう。あくまでも趣味で仕上げた作品ですので」
「試しに勇者様が引いてみてください」
「はい!」
ぎゅーーーーん!指を離すとヒュイーーーん!
風がすごい!
シーンス様が愉快そうに笑っている。
バッシュ先生は仏頂面だ。
「バッシュ様。バッシュ様愛用の強弓の二倍、いや三倍の飛距離と威力があると推察しております。この弓専用の矢もご用意しております」
そう言うとシーンス様が黒色の矢を手に持っていた。
「弓も弦も黒色でしたので、矢も黒色に仕上げました。先端は贅沢にアダマンタイトを使用しております。勇者様ぜひあちらの的に打ってみてください」
「はい!」
僕は矢を持ち弓を構えて弦を引き的を見つめる。
ギュイーン!ヒュイーーン!ドカーン!
え?的が砕け散った!?
シーンス様は微笑んでいた。
バッシュ先生は涙ぐんでいるようにみえる。
「勇者様こちらの弓の銘は闇夜と言います」
「まさに闇夜ですね!夜に使えば矢も見えないかも知れません」
シーンス様は微笑みを隠さずにバッシュ先生に声をかける。
「バッシュ様この闇夜はいかがでしたか?」
「実に素晴らしい弓矢ですね、これを使いこなせる勇者様も素晴らしい。ですので破門です!」
「え!?僕破門なんですか!?」
バッシュ先生はスタコラサッサと試射場から出て行った追いかけるようにシーンス様も小走りで出て行った。
あれ?怒らせポイントはなんだったんだろう?
地雷を踏んだのかな?
あとでジル教官に相談しよう。
戻ってきたシーンス様に挨拶して工房を出ると馬車は既に無かった。弦の切れた弓の山を工房の職人か中へ運び込んでいた。
えー?どうやって帰ればいいんだ?
僕は闇夜を手に持ち工房の入り口で立ちすくんでいた。




