ラーメン龍神と龍神と
ラーメン龍神の営業に勤しむ勇。
純佳領の内政改革を進める純佳。
そして王都から届く書簡。
何かが始まる。
そんな予感を感じる二人であった。
純佳領のアルスの街のラーメン龍神はいつものように賑わっている。
リンやアンナ、キャシーとベルもラーメン店業務のすべてを覚えてて、僕はラーメン屋の開業を希望する純佳領のアルスの住民にラーメンの指導をしていた。
その日々の積み重ねの結果、アルスの街にはちょっとしたラーメン横丁が出来つつあった。
白澤兎さんはほとんど食客のようになり、純佳さんの屋敷に住み着いていて、ラーメン龍神のお手伝いにも来て、彼女もラーメン業務のすべてを習得していた。
佐々木茂さんも然りである。
およそ一年の月日が過ぎて、僕と純佳さんは話し合いを続けていた計画をどのように実行するかを考えていた。
「勇くん、計画の進捗状況を説明するね」
「純佳さんよろしく」
「純佳領には四十の日本で言う市区町村があって、各地を治めている長に面会して説明したり、手紙を出したりして"いくつかの調査"を依頼したの。ここまでは勇くんも知ってるよね」
「もちろん」
「これも話したと思うけど"転移者"と思われる人は、純佳領全土で二十五人だったわ、その人たちは、この領主の館に隣接した土地に施設を設けて保護しているわ」
「予想以上に多いよね」
「それと、純佳領内にも何か所かスラム街化したエリアがあってね。そこには無料の入浴施設と食料の配給を行ってるわ」
「ひとまず暮らしの最低限は押さえて上げたとして、次のステップは教育や就業へのつなぎ方だね」
「勇くん、その通りね」
「この国の教育制度がいまいち良くわからないんだけど?」
「日本みたいな義務教育はないわね、親の家業を継ぐか徒弟制度のように弟子入りして仕事を学ぶの」
「それだと、その子たちを誰にマッチングするかってこと?」
「そうなんだけど、その前に読み書きと基本的な計算と道徳は学ばせたいんだよね」
「とても良いと思う」
「まだ計画の途中だけど、野党の活動も沈静化してて、副次的な作用だけど治安は改善されたと思う」
「就業のマッチングが難解だね」
「転移して来た半数の人は幼い子供だったから、十五歳までは保護してあげて、学ばせてあげて騎士団への入隊試験を受けたい子には推薦状を書くつもり、冒険者ギルド、これは魔王国以外の国にすべてあるんだけど、冒険者を希望する人はそこにも推薦状を書くわ、商業ギルドもしかりね」
「なかなか手厚いサポートだと思うよ」
「勇くんは何か考えてる?」
「僕は純佳さんとこのアステリア王国で一生共に過ごす気持ちだけど、一度はこの世界のすべてを観てみたいと思ってるよ」
「だからあの珍妙な馬車を考えたのね」
「最初は近隣の街へラーメン屋台をしながら行ければと思ったけど、佐々木さんが世界を観たいと良く言っていて。僕も同じ様な気持ちがあることに気がついたんだよ」
「それは、私も同行するからね」
「純佳領の運営はどうするの?」
「メーデルと補佐官のミニーに任せるつもりよ」
コンコンっとドアをノックする音が聞こえる。
「入りなさい」
メーデルが書簡を持って入って来た。
「純佳さま、国王からの書状が届きました」
「ありがとう」
メーデルは部屋を出て行った。
純佳さんは書状に目を通す。
そしてガッツポーズを小さくとった。
「純佳さん?良いこと書いてあったの?」
「純佳領で実施した施策の内容と、その効果についてレポート?報告書を送ったの、それと"望まれない転移者"の存在とその見分け方も書いたわ」
「アルフォードさんはなんて返事をよこしたの?」
「アステリア王国の四十七の領主を招集して会議の場を開き、書く領で同様の施策を実施するように命じると書いてあるわ」
「それは、すごいことだね」
「もう一つあるの、王都で六カ国首脳会談を開催するから私たちも王都に来るようにとのことよ」
「なんか?首脳会談をアステリア王国でやり過ぎじゃないかな?
普通は、各国で順繰りに開催するよね?」
「軍事バランスがアステリア王国一強だと言うことと、今回も私たちを招集するからだと思うよ」
「アステリア王国って、そんなに強いんだ!」
「はあ、勇くんが強すぎるのよ!」
「僕なの?」
----三カ月後アステリア国王王都大会議室
そこには六カ国の首脳が勢揃いしていた。
「良く来てくれた!勇者たちよ!」
アステリア国王アルフォードさんが威厳のある声で言う。二カ月前にラーメンを食べに来たことは言わないことにしよう。なんで手紙なんて書いてよこしたの?というタイミングでやって来たんだ。
純佳さんが膝をついて挨拶する。
「王命により馳せ参じました。皆様ご健勝のようでなによりです」
「皆様、大変お久しぶりです」
僕は純佳さんのようにかしこまったことは言えない。
「二人とも普通にして席についてくれるかしら」
エリナリーゼさんに言われて僕たちは目の前に空いてる席へ向かった。執事のような人が二人椅子を引いて目の前のワイングラスに水を入れてくれた。
「お久しぶりです、皆さんラーメン龍神のレセプションに来ていただいて本当にありがとうございました」
「あれはうまかったなあ!今度我が帝国にも来て作ってくれんかの?」
ビグザフ大将軍が気さくな感じで僕に話しかけてくれた。
「近いうちに僕たちは世界を知るために観るために、この大陸を周る予定なので、その時にでも」
「その時には帝国兵にも戦い方を教えてもらいたいものじゃの?」
「その任は純佳さんの方がふさわしいと思います。僕のはこの王都なら一撃で破壊してしまうパターンなので?」
「冗談には聞こえないな…」
アルフォードさんがため息をついている。
「本題に移ろう、勇者純佳からもたらされた報告書はすでに各首脳には目を通してもらっている。そして各国で同様の施策を実施することを決定した」
「皆様ありがとうございます!」
純佳さんはとても嬉しそうだった。
「これで、この世界もより住みやすい世界になることでしょう」
ローナ大司教が静かにささやいた。
「戦争が起きない世界それだけでも、この世界に生きる人たちにとっては幸せなことだと、僕は思います」
「おぬしが言うと皮肉にも受け取れる発言だな!この戦神よ!」
「いや、僕はラーメン屋の店主ですよー」
「お前がそうやって小さくまとまってくれて本当に一安心だぞ」
デラステン皇帝がにこやかに僕に言う。
「勇さま、テレシアさまとはお話しになられているのでしょうか?
テレシア聖教国にはまったく顕現されないのです」
ローナ大司教は困り顔をしているが、僕だってずいぶん話しをしていない。しかも勝手に話し出すことばかりで、僕が呼び出せたことなどないんだ。
というか呼び出そうとしたこともない。
----だれかわたしをよびましたか?----
うわ!来たよ!
「テレシアさま!」ローナ大司教が泣き出した。
----ローナよ、あなたがたの祈りはとどいてますよ----
「ありがたき幸せに存じます」
----ここにあつまりしものたちよ----
「はは!」
----勇と純佳の旅に協力するのです----
「--------」
----純佳さんの献身により、勇に宿った。
"神の祝福"は戸惑っています。この世界と並行するすべての異世界を無に帰するべきかを----
「テレシアさまそれはどういうことですか?」
アルフォード国王が席を立って話しかける。
----お聞きなさい"神の祝福"と呼ばれるこの存在は、
"無もなき神"です。この時この多重世界のすべてを創造した創造神でもあります。仮に"彼"と言いましょう。彼は信仰されることを求めず、この多重世界、多重宇宙に生きるすべての生あるものが、生まれるべきにして生まれ、生をまっとうし幸福を得ることを望んでいます。生とはそもそも単純な物でした。
生まれ食べて食べられて誰かの生の糧になる。そういう物でした。各世界では知恵をもった生命が他の生を滅ぼすことのみか、お互いに野心と欲望を持って殺し合いを繰り返しています。本来知恵とは助け合うために授けられた物です。だからもう一度言います----
----勇と純佳の旅に協力してください----
「勇殿は少々どころでない危険分子だな、
彼を幽閉したらどうなのだ?」
デラステン皇帝は強い語気で言った。
ゆうへいってなに????
----おやめなさいデラステンよ、完全な逆効果になることでしょう。この世界の破壊を呼び込むようなことです----
「我々は勇と純佳の行動を支援すれば良いのですね?」
----その通りです。そうすればこの世界には真の安寧が訪れ、彼の失望も慰撫されることでしょう----
「わかりました。テレシア神に誓います。我々は全力を尽くすと。異議のある者はいらっしゃるか?」
「異議なし!」
全会一致でテレシアさまの言葉が承認された。
僕の頭上の天使の輪は静かに消えていった。
王冠は現れなかった。
----昼食を挟んで再び大会議室
「それで二人の望みはなんだ?」
議長であるアルフォードさんが質問する。
「私は"転移者の保護"とスラム化したエリアの公衆衛生改善と配給を望みます」
「僕にとって重要なのは…。」
大会議室に淡い緊張感が広がるのを感じる。
なんでだろう???
「このアステリア国王でも各地で産物が違います。他国へ行ったらなおさらでしょう。ですので、各国の各地で漁師さんや海産物の関係者、猟師や畜産関係者、あとは…。麺を作りたいので麺に適した穀物類を扱う業者の斡旋をお願いしたいです」
「ラーメンか!?」
アルフォードさん含め全員が椅子から転げ落ちるのが見えた。え?変なこと言ったかな?
----帰りの馬車の中
僕は馬車の窓から外を眺めている。
そこに見える景色は騎馬隊だけだった。
何故か?
アルフォードさんが僕らの馬車に同乗することを希望したからだ。
アルフォードさんは寝ている。
隊列は馬車七台と護衛の騎馬一千だった。
戦争に行くみたいじゃん。
野営の時には、アルフォードさんとお付きの官僚七人が、僕や純佳さんの発言したことをメモに取り、書簡にして早馬を王都へと走らせる。
馬車の中でもアルフォードさんは他愛のない話しの中で核心を突いたような質問をしてくる。
僕と純佳さんは真摯に応える。
純佳領に到着した。長い旅に感じたなあ。
休みたい。
到着した翌朝に純佳さんが作ったキッチンカーじゃなくて、馬車型の屋台をアルフォードさんが連れてきた技術者が調べている。
技術者が純佳さんに話すと、何か決まったようで技術者が馬車をバラし始める。
なんてことをするんだろう?
一ヶ月後に原型を留めない新型の馬車が完成した。
六輪で四頭だてのキッチン付きキャンピングスペース付きの大型馬車だ。
両サイドに可変式のソリが収まっており、北方の雪原国家では馬をトナカイに変えて車輪をソリに変えて移動出来るらしい。
そこに技術者のスミスさんが来て僕と純佳さんに紹介したい人がいると言う。
誰だろう?
「はじめまして、ジェイク・グレイです!」
「はじめまして、勇です」
「はじめまして、純佳です」
スミスさん曰く、この特殊な馬車の運転手兼護衛だそうだ。
----それから一ヶ月
僕はラーメン龍神号の中でラーメンを作っている。冷蔵室がないから熟成スープは作れない。だからストレートスープで色々と試して、いい感じの一杯を完成させた。
「純佳さん、ジェイク、試食しよう」
三人でラーメンを食べた。
「勇くん!とっても好き!」
「純佳さんありがとう」
「勇さま、これは素晴らしいですね!私も作り方を覚えたいですね」
「勝手にそうなると思うよ、手伝ってもらうし」
リンやアンナやキャシーやベルにも食べてもらった。
「ひとまず合格点だね」
僕はラーメンのどんぶりの温もりを感じながら、これから始まる旅に心を弾ませていたんだ。
【完】
「転移勇者と愛しき人と」の第一章はここで終わりです。ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
もしよければイイネ、ブックマーク、コメント頂ければ、とても嬉しいです。
タイミングと準備ができ次第に第二章を書くかも知れません。
応援よろしくお願いします。
炊飯器と電気ポットより




