----戻らない時の中で----
転移を繰り返した勇者は"真っ白な空間"で何と向き合うのか。
僕は真っ白な空間の中にある魔法陣を見て歩き続けた。シルヴァリーこと白澤兎さんも静かに僕の後ろを歩いている。
もう何ヶ月経ったのだろう。
「勇くん、やっぱり休憩しよう」
兎さんはときおり僕に声をかけてくれる。
そして、あの部屋での暮らしやラーメン御麺の話しを僕にしてくれる。
「勇くん、包丁で長ネギを小口切りにしたり、白髪ネギを切ってつくってたでしょう?」
「そうだね、最初はまな板に包丁が食い込んで大変だったけど、きちんと出来るようになった」
「それがどれだけ大切な学びだかを、
勇くんはちゃんと理解してるかな?」
「兎さん、どういうことなのかなー?」
「制御だよ」
「制御?」
「勇くんの"今の学び"として、
重要だったのは常人レベルまで力を"制御"することを体感するとこだったんたよ」
「言われてみるとそうですよね」
そんな話しを時折、兎さんと話しながら僕は途方もない距離を歩いて魔法陣を見ていた。
もう何ヶ月?
いや、一年間は過ぎているような気がする。
「勇くん?感覚と感性を働かせて聞いてくれるかな?」
「なんですか?」
「生き物には"第三の目"と呼ばれてるところがあるのよ、呼吸を感じて目ではない"第三の目"を意識してみてくれる。目と目の間のちょっと上のこのあたりだよ」
兎さんは僕の眉間のところを指で触る。
「やってみますね」
僕は魔法陣の図柄ばかり見ていたけど、目を閉じて魔法陣の前に立つと頭にイメージが映像で見えてくる。
「不思議ですね!これはすごいや!」
僕は一つ一つの魔法陣の前で目を閉じて、映像として頭の中に見えるイメージを感じ続けたんだ。
----きっと十年以上過ぎているだろう。
僕は魔法陣の向こうを見る名人になっていくのを、感じていた。
でも、まだ一割しか見終えていないだろう。
あと九十年以上ここで時間を費やす訳にはいかない。
僕は急に胸が苦しくなって来た。
「勇くん、少し休もう」
「休みたくないです」
「ずーっと、ご飯も食べてないし寝てもいないんだよ?」
「あ、」
僕は十年以上ここで食事もせず、寝ることもせず魔法陣を見続けて来た。普通じゃない。
「勇くん、点を見ることも大切だけれど俯瞰して見ることも大切だよ」
「兎さん、なんか気がついた…。
いや、大切なことを見つけられる一歩手前な気がする!」
「常識に縛られないでね、勇くんは自由だよ!」
「ありがとう!兎さん!」
僕は忘れかけていた、僕のイメージの力を明確に描いて、空中へと浮かび上がった。
足元に幾千幾万もの魔法陣が淡い光を放っている。
僕はどんどん上へ上へと昇っていく。
足元の魔法陣は真円に近い広大な広さで、全体で一つの魔法陣を描いていた。
「兎さん!見つけたよ!僕の魔法陣はこれだよ!」
----勇くんは本当に良く頑張ったね----
「僕はこの魔法陣で心から愛する、
愛しき人と共に暮らすために全力で行くよ!」
----勇くんは強い子だよ。
この部屋に辿り着く命は本当にすくないけれど、
辿り着いても、ほとんどの命は正気を失ってしまうんだよ----
「僕には兎さんが一緒にいてくれたから!」
----そう言ってくれると嬉しい----
----さあ、行きなさい!そして、愛しき人と永遠に幸せに暮らすのよ----
「ありがとう!!兎さん!!」
巨大では表現しきれない魔法陣が一斉に輝き始めた!
僕は手を大きく広げて、その光の奔流に身を委ねた。
----お日様が温かい、そよ風に運ばれてくる草の香り。そして懐かしい温もりを感じながら、僕はゆっくりと瞳を開いた。
「領民がね、変な鎧を着た人が倒れてるって知らせてくれたの…。
おかえりなさい。
勇くん」
僕は純佳さんに膝枕されていた。
初めて出会ったあの日のように…。
僕は純佳さんの懐かしい顔を見上げながら、景色が滲んでいくのを感じた。
空が晴れているのに沢山の雨が降ってきた。
それは。
純佳さんの涙だったんだ。
----つづく
転移勇者は愛しい人と再会できました。
これから二人の新しいエピソードが始まります。




