戦闘訓練①
厳しい訓練が始まるのか!
勇はついていけるのか!
「あ、勇者様が目覚めましたわ!」
メイドのリンが驚いたように声を上げた。
「おはようございます」
「勇者様、おはようではありませんわ! 三日も寝ていたのですよ」
メイドのアンナが心配そうな面持ちで言う。
「私、急いで食事の支度をしてまいります」
キャシーはそう言うと、走って部屋を出て行った。
「勇者様、お食事を終えたら湯浴みをしましょう」
ベルが優しく勇に話しかける。
「ごめん、一つ提案があるんだけど……。公の場では勇者様で仕方ないかもしれないけれど、部屋では勇と呼んでくれないと気持ちが落ち着かないんだ。頼めるかな?」
「かしこまりました。勇様」
リンは勇の目をしっかり見て応えてくれた。
「ところで、君たちの名前を教えてほしいな。すぐには覚えられないかもしれないけれど」
「私はリンと申します」
「私はアンナです。先ほど部屋を出たのがキャシーです」
「私はベルです。勇様の身の回りのお世話を、この四人でさせていただきます」
すると、寝室のドアからノックの音が聞こえた。
コンコンコン。
「どうぞ!」
「あら、食事の支度が終わるには少し早いわね」
ドアから入って来たのは、グレーヘアをセミロングに伸ばした屈強な男だった。
「はぁ、やっと起きやがったか。召喚の儀式の副作用で寝込むとは聞いていたが、長すぎるだろ」
「ジル教官! 勇者様は目覚めたばかりなんですよ!」
リンが、ジルと呼ばれた男を睨みつける。
「どうでもいいが、今日からさっそく訓練だぞ」
「ちょっとお待ちください。三日間なにも食べていませんし、湯浴みもこれからです」
アンナが、強い語気でジルに物申す。
「まあ、いいや。少し兄ちゃんと話がしたいだけだ」
兄ちゃんと呼ばれた勇は、少し気が楽になるのを感じた。
「僕も、ジル教官と少し話したいです」
「そりゃ、ちょうどよかったな」
「ジル教官は、僕に何を教えてくださるんですか?」
「剣技と格闘だな」
「僕、まったくの素人なんですけど……大丈夫ですかね?」
「普通ならダメだろ。まあ、神の祝福とやらに期待するしかないな」
「ジル教官、ご存じだとは思うんですけど……僕、人を殺したことなんてないですよ?」
「目つきを見れば分かるさ」
「大丈夫なんですかね……?」
「訓練と並行して、人殺しの仕方も教える。兄ちゃんの国も同じかは分からんが、ランヴェール王国には犯罪者や軍法会議で死刑判決を受けた受刑者が結構いる。最初から元軍人と殺し合いするのは危ねえから、まずは死刑判決を受けた女から殺してもらうことになる」
勇は、食事前になんてことを言うんだと、ジル教官のナンセンスさに呆れるばかりだった。
キャシーが食事を運んで来た。
「あら、ジル教官の分はありませんよ!」
「俺はもう食ってきた。気にすんな」
勇はベッドから出てテーブルに座る。キャシーが丁寧に食事を並べていった。
「…おい! お前ら! こんなちんまい飯で訓練ができると思うのか? 次からは肉! 野菜! パン! 肉! 野菜! パン! だ! しばらく腹いっぱい食わせて身体を大きくしないと、魔王なんかと戦えんぞ!」
三日ぶりの食事だった勇には、まあちょうどいい量だな、と思いながら、どんどん食べ進めていた。
「ご馳走さまでした!」
「勇者様、美味しかったですか?」
「とっても美味しかったよー」
「ちっ! 吐くまで食えや!」
キャシーが食器を下げるために部屋を出ると、リン、アンナ、ベルの三人がジル教官の身体を掴み、部屋から引きずり出そうとし始めた。
「おいこら! やめろって!」
「今から勇者様は湯浴みの時間なんです!」
「あー、そうかい。その後、訓練場へ連れて来いよ。ん? 服とかあるんか?」
「寝ていらっしゃる間に採寸して用意してありますから、早く出てください!」
勇は、メイドのみんなも、教官のジルも、少し好きになり始めていた。
訓練の軽いロールプレイングでしたね。
人を殺すと簡単に言いますが、剣や弓や槍などで人を殺すのは簡単ではないと思います。




