召喚の儀式
いよいよ異世界ですね。
どんな冒険が待っているのでしょう。
「エドワード王、勇者召喚の儀、成功いたしました!」
玉座に座るエドワード・ギルフィス・ランヴェール王は、安堵の吐息とともに深く頷いた。
玉座の間には巨大な魔法陣が光を帯びており、その中心には一人の青年が大の字になって横たわっていた。
勇者召喚の儀式を執り行ったジャスパー神官長は、ゴホンと咳払いをしてから呟く。
「……勇者よ、目覚めなさい」
青年は軽く寝返りを打っただけである。
「さあ、目覚めなさい」 「勇者よ! 目覚めるのです!」
たまりかねたジャスパー神官長は、青年の身体を揺すって起こそうとした。
「もうちょっと寝かせてくださいよー」
なおも眠ろうとする青年を、ジャスパー神官長は揺すり続ける。
すると、おもむろに青年が眠気眼をこすりながらむくりと起き上がった。
「あれ? ここどこ?」
「王の御前であらせますぞ。きちんと起きてください!」
「いや、僕、引っ越しで疲れてるので、もう少し寝ます」
「後ほど寝室に案内いたしますので、少し話を聞いていただきたい」
「ジャスパー、よいではないか。勇者殿は眠たいご様子である。先に寝室へお連れするのだ」
エドワード・ギルフィス・ランヴェール王は、落ち着いた声でジャスパー神官長に告げた。
「ちょ、ちょっと待って! なんで僕の部屋にこんなに人がたくさんいるの!?」
青年――勇は、急に目が覚めて周囲を見回した。
めちゃくちゃ広い部屋。めちゃくちゃ高い天井。
鎧を着て槍を持った人間が何十人も並んでいる。
夢にしてはあまりにもリアルすぎて、状況がまったく理解できなかった。
「起きられたようですな、勇者殿。ここは王の間でありますぞ」
「いやいやいや、僕は自宅で寝ていただけですから!」
「勇者召喚の儀式により、貴方様はこの世界へ召喚されたのです」
「そんな馬鹿な!」
「ジャスパーよ。理解できぬのも無理はあるまい。勇者よ、名を聞かせてくれぬか」
「……勇です」
「私はランヴェール王国国王、エドワード・ギルフィス・ランヴェールである」
「王様、ところで“勇者”ってどういうことなんですか?」
「勇殿。我らは魔王が率いる魔族に攻められておる。このまま戦が続けば、いずれ滅びる運命だ。
魔王を倒すには、神の祝福を受けた勇者の力がどうしても必要なのだ」
「状況は少し理解できましたけど……僕、平和な世界から来たので、戦争なんてしたことありませんよ?」
「それは心配に及ばぬ。ジル! バッシュ! グレイル! 前へ出よ」
「はっ!」
勇の前に、屈強な男が三人並び立った。
「勇殿、ジルは剣聖と呼ばれる男だ。剣はこのジルから学ぶがよい。
バッシュは弓使いで、弓神と称されておる。弓の手ほどきは彼が行う。
そしてグレイルは槍使いの名人。槍はこの者に教わるのだ」
「いやいや、王様……無理でしょう」
「勇殿。神の祝福を受けたそなたなら、大きな才を秘めておると私は確信しておる。何か言いたいことはあるか?」
「せめて……金沢の海鮮丼とおでんが食べたかったです」
「勇殿は食事を所望されているのだな。すぐに用意させよう。まずは寝室へ案内するのだ」
ふと、勇は思った。
入居したはずの人間が、突然いなくなる部屋。
もしかして――全員、ここへ連れて来られたのではないか、と。
「王様、質問があります。今までも誰かを召喚したことは?」
「魔王軍の侵攻が始まってから、百回ほど勇者召喚の儀を行った。
だが、成功したのは勇殿が初めてなのだ」
「えっ!?」
さて……犀川ハイツの、あの部屋の住人はどこへ消えたのやら。
勇はメイドに寝室へ案内され、用意されている食事を待つ間、
パジャマから異世界仕様の寝間着へと着替えさせられるのだった。
召喚されたら状況判断するのに時間かかりますよね。
戦闘経験がない人が急に勇者と呼ばれてもなんのことやらだと思います。




