王都への強行軍
純佳は考えをめぐらせていた。
勇の単独行動で解決は可能かも知れない。
でも、今は、この世界の協調が最も大切なことだと考えていた。
そして王都へとひた走る。
石畳の街道を馬で疾走しているのだけれど、やはりこの世界は移動に時間がかかりすぎるわ。
「勇くん! 大丈夫?」
勇くんが馬を寄せてくる。
「純佳さんこそ大丈夫かい?」
途中の宿場町や通過点に位置する領主の館で雨露をしのぎながら、ただひたすら王都を目指して駆けているの。
各地の人たちの好意で馬を乗り換えて進んでいるわ。
総勢騎馬五百騎。私の領地にいる騎馬隊の半分を、この行軍に投入したわ。
――急がないと、間に合わなくなるわ。
正直、勇くんが一人で飛んでブルードラゴンのもとへ向かうのが、一番手っ取り早くて良いのかもしれない。
けれど、魔王国も含めた六つの国家――
我がアステリア王国、北方の雪原国家フロストガルド連邦国、テレシア聖教国、ヴァレンツァ商業同盟、グラード・ヴァイス軍事帝国。
そのすべての国家が、政治的にも軍事的にも協調しないと、大変なことになると思ったから、アルファード・アステリア国王との会談をお願いしたの。
プリッツ伯爵領に入ったところで日が暮れ始めたから、私は部隊に野営の指示を伝えたわ。
この強行軍で、皆が疲れを見せ始めている。
でも、ここまで来れば、プリッツ伯爵領を抜けたら王都よ。
私の部隊はテキパキと野営の準備をしているわ。
火も起こされ、いくつもの煙が空へと登っていくのが見える。
「勇くん、お腹すいたでしょ?」
「さすがにペコペコだよ、純佳さん」
野営地に向かってくる少数の部隊があるらしい。
旗が見えるわ……。あれはプリッツ伯爵の紋章ね。
「勇者純佳さま。そろそろここを通られると思い、馳せ参じたのですが、ちょうど良いタイミングでした。ささやかながら、食料をお持ちしました」
「お久しぶりですね、プリッツ伯爵さま。心遣い、感謝いたします」
「なにをおっしゃいますか。純佳さまの担っておられる重責と比べたら、私にできることなど、この程度のことですよ」
「兵たちも喜びますわ。私の主人は、とくにたくさん食べますからね」
「そういえば、初めてお目にかかりますね。ご紹介していただけますか?」
「もちろんです。こちらが主人の、勇・轟です」
「はじめまして、勇です。よろしくお願いします」
「プリッツ伯爵です。お見知りおきを。さて、通達では、勇さまも勇者の一人ということですが……なぜ王城にある魔法陣から召喚されなかったのか、とても気になっておりました」
「プリッツ伯爵、それは私が主人の“座標”だからですよ」
「座標、ですか……。興味深いですね」
「純佳さんが僕の座標って、初めて聞いたけど?」
「私も、いろいろ考えて出た答えの一つなんだよ」
「そっか……。純佳さんが僕の人生の座標。それって、道しるべみたいなものだよね?」
「そうだね。出会ってから今までも、これからも、私があなたを導くのよ」
「これはこれは、なんと仲睦まじいご夫婦ですね。さあ、新鮮な魚と肉と野菜をふんだんに使った食事が出来上がりますよ。王都も目の前ですから、わずかばかりですが、我がプリッツ伯爵領のワインも用意しました。夜の警護は、私たちの兵が務めます。今夜は、ゆっくりとお休みください」
――プリッツ伯爵の好意に甘えて、野営では食べられないような、素晴らしい食事を楽しんだわ。
料理を作ってくださったのが兵士ではなく、プリッツ伯爵お抱えの料理人たちだったから、美味しいはずよね。
早朝、私たちは王都を目指して移動を開始したわ。
プリッツ伯爵も、すぐに王都へ向かうとおっしゃっていた。
街道を登っていくと、小高い丘の上から王都アステリアが見えるわ。
広くて立派だけど、私は私の領地が好き。
「みんな! もう一息よ! 行きましょう!」
私は馬腹を蹴って、馬を走らせた。
「純佳さーん、ちょっと待ってー!」
そう言いながら、勇くんたちが追いかけてくるのが見える。
私はお構いなしに、馬腹を蹴り続けたわ。
――うわあ、久しぶりの王宮ね!
先代の魔王を打倒したとき以来だから、何年ぶりなのかしら?
「勇者さま! 大変お久しぶりです!」
「ビーズ隊長! お元気でしたか?」
「私は元気ですよ! 勇者さまも、大変お元気そうで何よりです! ところで……メーデルは、きちんと働いておりますか?」
「それはもちろんよ。でないと、私が王都に安心して来られないじゃない! アハハハ」
「ご結婚されたと聞き及びましたが、そちらの方がご主人ですか?」
「はい。主人の勇者である、勇です」
「はっきり言って、悪者にしか見えませんな!」
「それは言わない約束でしょ?」
「勇者さま、王がお待ちです。こちらへどうぞ」
――謁見の間の扉が開かれた。ここも懐かしい。
あの魔法陣から、この世界での暮らしが始まったのよね。
「勇者純佳よ、待ちくたびれたぞ! 予想の何倍も早く着いたみたいだな」
玉座から降り、私に歩み寄るアルファード・アステリア国王の姿が、そこにあったわ。
懐かしい、私の戦友。
――私の勇くんを“守る”ための戦いを、ここから始めるわ
懐かしい戦友たちとの再会を喜ぶ間はあまりないかも知れない。
純佳の勇を"守る"ための戦いとは、いったい?




