守るとは
純佳はある意味現代人だから、勇の危険性を良く知っている。
元勇者である純佳・轟の下す決断とは。
勇を家族を"守る"こととは?
----純佳さんは王からの書状を静かに畳み、長く息を吐いた。
「……勇さん」
「うん」
「私はね、もう一度“勇者”に戻る覚悟はある。でも――」
純佳さんは寝室の方へ視線を向けた。そこでは勇次郎と純が、侍女メーデルに見守られながら安らかに眠っている。
「この子たちを置いて、何も考えずに戦場へ行くことはできない」
「それでいいよ」
僕は即答した。
「純佳さんはもう一人じゃない。領主で、母親で、僕の妻だ。勇者より先に、その全部でいてほしい」
純佳さんは少し驚いた顔をしてから、フフっと微笑んだ。
「……変わったよね、勇さん」
「そうかな?」
「前はね、“守る”って言葉に必死だった。でも今は“選ぶ”って顔をしてる」
その言葉に、僕自身も気づかされた。
半年前の僕なら、命令が下った時点で剣を取っていただろう。
でも今は違う。守りたいものが、具体的な重さを持ってここにある。
「ねえ勇さん」
「なに?」
「今回はね、私が“行かない”という選択もできる」
「……王命でも?」
「ええ。元勇者である私には拒否権があるわ。代わりに、情報と支援を出す責任が生じるけど」
「それって……」
「戦場には行かず、戦争を動かす側に立つ、ということ」
純佳さんの目は、母の優しさと勇者の鋭さを同時に宿していた。
「勇さん、あなたはどうしたい?」
問い返されるとは思っていなかった。
「僕は――」
頭に浮かんだのは、夕暮れの食卓と、二人で試作した失敗だらけのラーメン。
夜泣きで眠れなかった日々と、それでも笑ってくれた純佳さんの顔。
「戦場に行かないで、戦場を終わらせる方法を考えたい」
純佳さんは、ゆっくりと頷いた。
「じゃあ決まりね。私は王に返書を書くわ。“勇者復帰は拒否する。代わりに、四カ国の勇者たちの調整役を引き受ける”って」
「そんなことできるの?」
「できるわ。だって――」
純佳さんは小さく笑った。
「この世界で、勇者を“やめたまま生き残ってる存在”は、私だけだから」
----数日後、王都から再び早馬が走った。
返書を読んだ国王は激怒した――と伝え聞いたが、同時に動揺もしたらしい。
四カ国の勇者召喚は、確かに異常事態だった。
だが、勇者が多すぎる時ほど、世界は混乱する。
そしてその混乱を、一度経験している者がいる。
元勇者、現領主、二児の母――純佳・轟。
----やがて、各国から使者が訪れるようになった。
「あなたが元勇者だと?」
「勇者が家庭を持つなど前代未聞だ」
「世界の危機に、私情を挟むつもりか」
そんな言葉を、純佳さんはすべて静かに受け止め、ただ一言で返した。
「だからこそ、私が適任なのです」
僕はその背中を、少し離れた場所から見ていた。
剣を振るうよりもずっと過酷な戦いが、今、始まっている。
----夜。
「勇さん」
「うん?」
「怖い?」
「……正直、少しだけ」
「私もよ」
純佳さんは僕の手を握った。
「でもね、今回は逃げない。戦う場所を選んだだけ」
「一緒に?」
「ええ。一緒に」
----こうして僕たちは、剣を抜かない勇者として、
戦場に立たない戦争へと足を踏み入れた。
そしてまだ、この時は知らなかった。
四カ国同時召喚の“本当の意味”と、
その裏で静かに目覚めつつある、
――“勇者殺し”と呼ばれる存在のことを。
勇者殺しが気になります。
そして四人の勇者。




