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転移勇者と愛しき人と  作者: 炊飯器と電気ポット
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決めるのは私

純佳は圧倒的な勇の力をどう扱えばいいか考えていた。

お互いのために。

――浜辺の上空、そのまま


津波は私たちの真下を、怒った獣みたいに唸りながら通り過ぎていったわ。


白い泡が砕けて、船が回転して、砂浜が削られていくのが、空からはっきり見える。


「……ねえ勇くん」

「はい」


勇くんは私を抱いたまま、まったく揺れない。

私の心臓だけが、さっきから忙しなく跳ねてる。


「さっきの、あれ……弓で、何を撃ったの?」

「矢ですけど」

「うん、知ってる」

「ちょっと遠くを狙いました」

「“ちょっと”の基準がおかしいのよ」


勇くんは少しだけ困った顔をした。

この顔、最近わかってきたわ。

本気で悪気がないときの顔。


「……純佳さん」

「なに?」

「僕、怒られてます?」


思わず吹き出してしまった。


「怒ってないわよ。ただね」

私は一瞬だけ言葉を探してから、続けた。

「勇くん、あなたが戦えば戦うほど、この国は壊れるの」


勇くんの腕が、ほんの少しだけ強くなる。


「だから?」

「だから――使いどころを、私が決める」


勇くんは驚いたみたいに目を見開いた。

そのあと、ゆっくりと笑った。


「それ、助かります」

「え?」

「今まで、誰も決めてくれなかったので」


その一言が、胸に刺さった。


――地上に降りて


浜辺は、ひどい有様だった。

幸い、人的被害はゼロ。

避難指示は間に合っていた。


「領主さま!」

役人の一人が駆け寄ってくる。

「これは……魔王の仕業でしょうか?」


私は一瞬、勇くんを見た。

勇くんは、視線を逸らして海を見ている。


「いいえ」

私ははっきり言った。

「勇者の訓練事故よ」

場が凍った。

「……じ、事故、ですか?」

「ええ。だから復旧費は領主負担。記録は封印」 「封印……?」

「あとで説明するわ」


役人は青い顔で頷いて、走り去った。


――夕方、領主館の執務室


勇くんは椅子にちょこんと座っている。

完全武装のまま。

執務室に、暗黒剣士は似合わない。


「ねえ勇くん」

「はい」

「あなた、今までどこで戦ってきたの?」


しばらく沈黙があってから、勇くんは言った。


「……別の異世界の魔族と戦っていました」

「荒野?」

「世界を荒野にしたのは僕です」


淡々としてるのが、逆に怖い。


「敵は?」

「いました」

「どんな?」

「……強さを測れませんでした」

私は息を飲んだ。

「だから、全部出すしかなかった?」

「はい。出さないと、終わらなかったので」


なるほどね。

荒いわけだわ。


「勇くん」

「はい」

「この国では、あなたは“最終手段”よ」

「……はい」

「私が許可しない限り、全力は禁止」

「何割までですか?」

「一割でも多い」

「……じゃあ」

「百分の一でいきましょう」


勇くんは目を瞬かせた。


「それ、戦えませんよ」

「そうよ」

私は笑った。

「だからしばらくは、戦わなくていいの」


勇くんは少し考えてから、ぽつりと言った。


「……それ、怖いです」

「でしょうね」

「でも」

彼は私を見た。

「純佳さんが決めてくれるなら、やってみます」


私は立ち上がって、手を差し出した。


「じゃあ決まり。この国で一番危険な勇者は――私が預かるわ」


勇くんは、その手を取った。

びっくりするくらい、力を抜いて。

外では、夕日が海を赤く染めていた。

あのキノコ雲が嘘みたいに、穏やかな海。

でも私は知ってる。

この国に、とんでもない爆弾を抱え込んだってこと。


……まあ、領主の仕事って、そういうものよね。


私は勇くんの手を離さず、そう思った。

少し勇の肩の荷がおりた感じがしてきました。

せめてしばらくは普通に暮らして欲しいですね。

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