巨木ウッドストック
元勇者である純佳は勇の力量を知りたくて知りたくて仕方がないのであった。
あれから一週間くらい勇くんと手合わせしたけど、正直荒いのよね。今までどんな戦い方をしたらああいう戦闘スタイルになるのかしら?
まあ、今日でその謎も少しはわかるかしら。
「純佳さん、ウッドストックってどこにあるの?」
「ウッドストックは地名じゃないの、木の名前なのよ」
「もう着くわよ。少し歩くからね」
私は地元の木こりを案内人として森の入り口で待っていてもらったの。
「領主さまお待ちしておりました。しばらく歩きますがよろしくお願いします」
「純佳よ、よろしくね。あなたのお名前は?」
「ジョセフと言います」
還暦をまわったくらいにみえるわね。熟練の木こりだわ。
----森の奥深く
「領主さま到着しました」
「そうね、これは大きいわね」
「純佳さん、この木がウッドストックなんですか?」
「そうよ。どんな斧でも傷つかない巨木ウッドストックなの。この木があるところの開拓は基本的に避けるようになってるの」
「なんでですか?」
「ジョセフさんの方が詳しいでしょうから、説明していただいてもいいかしら」
「はい、この木の周りを見てください。
かなり離れたところまで何も植物がないのがわかりますか?
この木が周囲の大地の栄養をすべて奪い去るからなのです」
「やっかいな木ですね…。
純佳さん?この木は何メートルくらいあるんですか?」
「百メートルくらいだと聞いてるわ」
「直径は三十メートルくらいですかね?」
「もうちょっとありそう」
勇くんは今日は鎧を着てなくて、大きな大剣を肩に担いでるけど重くないのかしら?
「ねえ、勇くん。試しにこのウッドストックをスパーンと切ってみてくれるかしら?」
「切れるかもしれないけれど…。
約束して欲しいことがあります。
二人とも僕の後方百メートルまで下がってください。絶対に剣閃が走る内側には入らないでくださいね」
「オッケー!さあ、ジョセフさん下がりましょう」
「領主さま?まさかとは思いますが…。切れるとお思いですか?」
「まあ、見ていましょう」
勇くんが大剣を横に構えたわ、あ!
「勇くん!真横じゃなくて少し斜めに切ってね!」
「はーい!」
勇くんが剣を…。
え?見えないわ?
耳がキュってなる!!ちょっと痛いかも!!
私の周りの空気が減圧してるのかしら?剣でそんなことができるの???
ウッドストックは切れなかったみたいだけど、奥の木はめっちゃ切れてるじゃないのよ?
「勇くーん!切れないからって気にしないでねー!」
「え?切れてますよ?」
おもむろにウッドストックが根元からズレていくのが見えるわ…。
まさか!?本当に切ったの?
ウッドストックは倒れなかったけど、横にズレて動いて自重で土に刺さって立っているみたい。
私は勇くんのところまで走って行って信じられない光景を見たの。勇くんの剣は剣の触れてない森の遥か奥の木まで残らず切り倒してたの!
「私、ちょっと勇くんのことわかって来たかも!」
「純佳さん僕、一割しか出してませんよ」
「えーーーー!!」
----帰りの馬車の中
「勇くん勇くん!今度はあの弓を見せてよ!」
「いや~。海なら撃てるかも?知れないかな?」
「じゃあ明日海に行こうよ!」
「純佳さん、漁師さんの船とか危ないんで船を出すのをやめてもらえたら全力で撃ちます」
「そっかあ。わかった!明後日にしようね」
「ところで純佳さん?空飛べます?」
「飛べるわけないでしょ?羽根の生えてる魔族じゃないもの」
「わかりました」
----とある浜辺
勇くんは今日は完全武装状態だわ!とても勇者には見えないのよね〜。
暗黒剣士って感じよね〜。
「純佳さん飛びますね」
「どうやって飛ぶの?」
「口で説明するのも僕にも難しいので見ててください」
勇くんの頭の上に光の王冠のような天使の輪のような何かが見えるわ。
勇くんはすーーっと空に浮かんで豆粒みたくなったわ。どういう仕組みなの?
なんとなく勇くんが弓を構えているのが見えるわね。
矢が光ってるのかしら??
あ、光が消えたわ。
勇くんが向いてる海の方をみてみると、大きな大きなキノコ雲が空高く伸びていくわ!!
どういうことなの??
「純佳さんつかまって!」
勇くんが私をひょいと持ち上げてお姫様抱っこで空に上がってくれたの…。
これは…。
ヤバいかもーーー!!
水平線の方から大きな波が押し寄せて来るわ!!
どうしよう!!
「住民には海に近づかないように伝えてありますよね?」
「勇くんに言われた通りに厳重に言ってあるよ!」
何メートルの波かはわからないけど、岸とか浜辺にとめてあった船が流されてるわ!
信じられない!!
「勇くんが色々な意味で格が違うのはわかったけどー!ハッキリ言って使えないでしょー!アハハハ!」
勇くんは言葉に出して言わないけれど、超ド級の勇者の勇くんはきっと深い孤独を抱えてるわね。
私は勇くんの首にギュッとしがみついたの。
抑止力としての核兵器の力を個人が無制限に使える。
その行使者である勇の孤独を感じる純佳であった。




