勇者の帰還
勇は無事に犀川ハイツに帰還することが出来るのであろうか。
僕はやっと見慣れてきた王城の自分の居室にいた。
相変わらずリンとアンナとキャシーとベルが身の回りの世話をしてくれている。
この一週間の間にジル教官、いや国王か!
とも良く話しをしたし。バッシュ先生やギルビル工房のギルビルさん、
シーンス様とも話しをしたり、装備の点検もしてもらえた。
いよいよ明日は魔王城へと向かうんだ。
「勇さま湯浴みのご用意が出来ました」
「ありがとう、リン」
「今夜が最後だと思うと寂しいものですね」
「今まで本当にありがとう」
「今日は入念に湯浴みをしましょうね」
「わかったよー」
そして僕は湯浴みを終えてから食堂に招かれた。
食堂なんて初めて行くな!
するとそこは食堂などと言うレベルではなく、なんて言うんだろう?迎賓館の大ホールみたいな所だった!
「おい!主役の登場だぜ!盛大な拍手でお迎えしようぜ!」
会場には数百人の人達が正装でいて拍手の波が鳴り止まない。恥ずかしいかも。
「はい!拍手そこまで!
初めてみるのもいるよな?この兄ちゃんが勇者である勇兄ちゃんだ!」
僕はジル教官の元へ行き小声で聞いた。
「教官?どういうことなんですか?」
「まあ、なんちゅうの?サプライズって言う感じかな?」
ジル教官の服をつまんで引っ張っている少女がいる。
「ジル教官?この子は誰なんですか?」
「俺の妹のアンナだよ!なんだ?アンナ?何か言いたいことでもあるのか?」
「お兄様!私は一言勇者さまに申したいことがございます!」
「僕にですか?はじめましてなんですけど…。」
「勇者さま!どうして私との婚約を蹴って異世界に行ってしまわれるのですか?ハッキリ言って私は優良物件だと思いますよ!まだ育ちきってないですけれど、育てば絶対にナイスバディになります!」
押しの強い子だなあ。どうしよ?
「兄ちゃん、こいつの相手は俺がしとくから飯食ってこい!」
「おまかせしますねー」
僕はこの世界に来てジル教官の薫陶を受けて大食漢になっていたから、どの料理も美味しすぎてご飯が止まらない。
ジェルビー将軍やテレス副将軍ほかの初めて話す将軍とも話せて楽しかったけど、人が多すぎて少し目が回った!
「盛り上がってるところであれだが、勇者である勇は明日この城を出て魔王城へと向かう。上手く行けば兄ちゃんは祖国へ帰還出来るはずだ!本当は爵位を受けてもらうつもりだったが、居なくなるんじゃ仕方ねえ!その代わりに!王国に伝わる国宝の一つであるジルコニアで出来た勲章を授ける!使いやすいようにペンダントにしてあるけどな!はい!拍手!兄ちゃんはここへ来い」
「わかりました!」
ジル教官は小声で「座って頭を下げろ!」と言うので、僕は言われるようにした。
僕の首にネックレスがかけられて、そのペンダントはまばゆい輝きを放っていた。
その瞬間、会場は静寂に包まれてとても神聖な空気に包まれる感じがした。
「兄ちゃんには感謝してしきれねえよ。ありがとな」
ジル教官のそのひと言が胸にジーンと来る。
それから少しの間歓談をして僕は居室に戻って来た。
「あー、つかれたあ」
「お疲れです、寝間着に着替えましょうか?」
「ありがとリン」
僕は、寝間着に着替えさせてもらってベッドに入り大の字になった。
「あれは送別会だったんだなあ」
ジル教官や皆んなの気持ちが本当に嬉しい。
でも重要な案件があることを僕は忘れてはいけないんだ。
魔王城の謁見の間の魔法陣の上で転移する時に、絶対に変な声を出してはいけない!
これは拓さんの時に心に決めた。
あんな変な空気がいなくなったあとに流れるのは本当に耐えられない。
「さあて、明日も早いし寝るか」
誰かがベッドの中に入ってくる…。
リンたちなのか?
「勇さま、お情けを頂戴しに参りました」
「あんっ!」
僕は変な声を上げて王城最後の夜を過ごすのであった。
----魔王城謁見の間
「皆様ようこそ魔王城へ」
「羅門さん、この度はよろしくお願いします」
「ラ・ベルですよ、勇者さま?」
「あ、すみません」
皆んなの見守る中で僕は感謝の気持ちしか込み上げて来なかったんだ。
「皆様、短い間ではありましたが、本当にありがとうございました!」
皆が少し泣いているように見える。
ジル教官の計らいで僕は完全武装だ。闇夜も闇龍もある。
「元気でな、兄ちゃん!また間違えてこの世界に来てもいいぞ!」
「冗談はやめてくださいよ!リン、アンナ、キャシー、ベル!本当にありがとうね!」
僕は魔法陣の中心へとゆっくり足をすすめた。魔法陣はより一層光を放ちまばゆいくらいだった。
「いよいよか?」
そこへリュックを担いだ四人のメイドが飛び込んできた!
「お供します!!」
え!?
「あんっ!!」
僕は意識が薄れるのを感じた。
----お日様の光がぽかぽかして気持ちいいな
「うわーん、良く寝た」
僕は目を開けると目の前に人の顔があった。
逆光でよく見えない。
黒髪なのはわかる。
もしかして犀川河川敷なのかな?
「君はなんて言う名前なの?私は桜井純佳だよ」
よし!日本ゲット!
「はじめまして、僕は轟勇です。膝枕なんてしてもらってなんかすみません。僕だいぶ寝てました?」
「うーん。膝枕してたのは一時間くらいかな?でも人が倒れてるって聞いたのは三時間くらい前だよ?」
「桜井さんでしたっけ、もう膝枕大丈夫ですよ」
「せっかく同じ日本人なんだから、純佳、すみかって呼んでほしいなあ」
「せっかく同じ日本人?すみか?どういうことです?」
「私はこの世界の元勇者で桜井純佳だよ!」
「え!?ここも異世界なの??」
「そうだよ君も自己紹介してよ〜」
「僕はランヴェール王国の元勇者で轟勇です」
「アハハッ!勇くんてその鎧で勇者とかウケるんですけど!アハハハ」
「確かに一部の人達は龍神と言ってました」
「マジ禍々しすぎる!アハハハ!」
「そんなに笑わないでくださいよー」
「ねえねえ、誰がコーディネートしたの?勇くんの趣味?」
「これは基本的にジル教官がコーディネートしました!」
「悪意しか感じないね!アハハハ」
「言われてみるとそうですよね」
「さあ、勇くん立って!ご飯食べようよ」
----桜井純佳の家
「デカい!デカ過ぎでしょ!?」
「私ここの領主してるんだ」
「ほんとに?」
「魔王国の戦争と侵略して来た隣国との戦争に勝利したご褒美なんだってさ」
「どのくらい広い領地なんですか?」
「石川県と同じくらいかなー?」
「石川県知ってるんですか?」
「だって住んでたもん」
「ちなみにどの辺りですか?」
「桜橋の近くだよ」
「まさかの犀川ハイツですか?」
「すごーい!なんで知ってるの?」
「僕も犀川ハイツ出身なんで、一晩だけですけど」
「405号室なのかしら?」
「ビンゴ!」
ドアをノックする音が聞こえる。
「入って良いわよ」
「領主さまお食事の支度が整いました」
「さあ、勇くんご飯だよ!ここは海沿いのところだから新鮮な魚が食べられるよ!」
「魚大好きです!」
----あー美味しかった!
「ごちそうさまでした!」
「よろしい!勇くんは気持ちよく食べるのが素晴らしいと思うよ」
「刺身なんて本当に久しぶりでした…。」
僕は勝手に涙がポロポロ出てくるのを感じた。なんだろう純佳さんと居ると時間がゆったり過ぎていくな。
「さて勇くん!私は鎧を着てくるので、ここでお茶を飲んでいてください」
「勇者の鎧を見せてくれるんですか?」
「鎧を見せる為ではありません!勇くんと手合わせしたいのであります!ウフフ!」
----ま、眩しい!これは銀翼を広げた鷹のようにも見える!!
「どう?神聖な感じがするでしょう?」
「純佳さん女神みたいです!」
「普通の勇者はこういうものよ!さあ、庭に行きましょう」
「はい!」
僕は純佳さんの後について庭出る。庭もサッカー場くらいあるなあ。
「勇くん!素振りしてみてくれる?」
「はい!」
僕はジル教官から教わった型を丁寧に丁寧に繰り返した。
「ねえねえ、勇くん実戦で剣を交えたことあるの?」
「んー。地下牢で対複数戦はしたことありますど…。戦場では弓矢でドカーンという感じですね…」
「なるほどねえ、手合わせしましょう。ルールは寸止めね」
「はい!」
「かかってきていいよ」
「いきます!」
上段から踏み込んで瞬発的に純佳さんの頭に剣を振る。寸止め寸止め。
目の前にいたはずの純佳さんが消えた!!
僕の脇の辺りを何かでツンツン突かれた。
「はーい、勇くん死んだ。アハハハ」
「何がどうなってるか、わかりませんでした」
「私はねレイピアっていう刺突する剣を使うんだけれど、勇くんの鎧はね脇に少しだけ鎧の隙間があるからそこを突いたわけ。勇くんはそうだなあ、瞬発力と破壊力はすごいけど剣闘の経験はゼロだと思うよ」
「おっしゃる通りです」
「純佳さまをたたえなさい!アハハハ」
良く笑う子だなあ。
しばらくしたらリンたちを探さないとな。
夕日も眩しいけど純佳さんも眩しい!
はい!別の異世界でした!
またしても犀川ハイツの住人でしたね。
桜井純佳さんの方が戦闘経験高いですね。
勇は戦略兵器なので仕方ないですけどね。




