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転移勇者と愛しき人と  作者: 炊飯器と電気ポット
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勇と拓の日々

ジルの奮闘の裏側では…。

----魔王城の応接間

「轟くん、俺はこの一年、本当に大変だったんだよ」

「そうですか……。ところで僕のことは勇と呼んでください」

「あっ、そう? じゃあ勇は俺のことを拓と呼んでくれよ」

部屋をノックする音が聞こえる。

「入っていいよ!」

ガチャリ。

「魔帝さま、お茶をご用意いたしました」

「ありがとう、ルシファー」

ルシファーはティーカップにお茶を注ぐ。

「それでは失礼します。魔帝さま、龍神さま」

「いや! 僕は一応、勇者ですので……」

「それは! 失礼しました、勇者さま! ごゆっくりどうぞ」

ルシファーは部屋を出て行った。

「ここの紅茶はおいしいよ。飲んでみて」

「はい! ん? これは美味い!」

「そうだろ? 勇。数少ない俺の楽しみの一つだったんだ」

「食事とか、どうされてたんですか?」

「玉座に座って食べてたんだ。本当に、トイレ以外は玉座から離れられなかった」

「えーと……お風呂は?」

「メイドたちが一日一回、身体を拭いてくれてた」

「なんか想像つかない生活ですね……。よく一年もそんな生活を……。ご苦労されたんですね、拓さん」

「何がご苦労って、性欲のはけ口がなかったところかな?」

「え?」

「勇はどうなんだよ?」

「言えませんし、言いたくありません!」

「ケチケチするなよー、勇くん」

ドアをノックする音が聞こえる。

「入っていいよー」

ガチャリ。

「失礼します、魔帝さま。玉座の間の魔法陣が活性化しております。よろしければ見に来ていただけませんか?」

「わかった。勇、一緒に行こうよ」

「龍神さまにもご覧になっていただきたい」

「デスル魔術師、案内してくれ」

「かしこまりました」

----魔王城 謁見の間

「魔帝さま、ご覧ください。魔法陣が、術式もなく、わずかに発動しているのです」

「本当だ」

「拓さん、落ち着いて見ると綺麗ですね」

「魔帝さま、少し魔法陣の端に触れていただけませんか?」

「わかった。よいしょ」

魔法陣の淡い光が消えかかる。

「デスル魔術師、これで活性化していると言えるのか?」

「やはり、そうですか……。龍神さまも端に触れていただけませんか?」

「わかりました」

勇が触れると、魔法陣の光が輝きに変わる。

「魔帝さま、これはひょっとすると……勇者さまの転移、もしくは転生を促している予兆かもしれません」

「じゃあ、なんだい? デスル魔術師。俺はランヴェール王国の謁見の間から元の世界に戻れて、勇はここから戻れるかもしれない、というわけか?」

「さだかなことはわかりませんが……試す価値はあると思います。勇者さまは元の世界へ戻りたいですか?」

「心残りはあるけれど……。色々な意味で戻りたいかな?」

「大変失礼ですが、勇者さま。“色々な意味”とは、具体的にどのようなことでしょうか?」

「まずは学生生活に戻りたいのが一つ。次に、僕の戦闘能力が異常に高すぎるから、この世界には不要かなとも考えているよ」

「確かに勇の攻撃力は、この世界の軍事バランスを崩しまくってるからな。穏便に考えても暗殺されるし、最悪の場合も暗殺されるだろうな」

「拓さん! 物騒なこと言わないでくれよ!」

兵士が一人、謁見の間に駆け込んでくる。

「申し上げます! ランヴェール王国からの使者が到着しました!」

「通してくれ! ただし、俺は玉座には座らない。無礼を許してほしいと伝えてくれ」

「御意のままに!」

しばらくすると、二人の人物が謁見の間に現れる。

「ジャスパー将軍と申します。魔帝どの」

「テレス副将軍です」

「二人とも椅子を用意する。座ってくれ」

メイドたちが四つの椅子を用意した。

「で? ジャスパー将軍とやら、ランヴェール王国の意見はまとまったか?」

「はい。時間はかかりましたが、魔帝どのの要望を受け入れる方向でまとまりました」

「それは助かる。本当に感謝する」

「お話の途中ですが、国王より勇者さまへ書状がございます」

「僕にですか? 拝見してもよろしいですか?」

「どうぞ」

ジャスパー将軍は書状を渡した。

「どれどれ?

『兄ちゃんも魔帝と一緒にランヴェール王国に戻って来い。兄ちゃんには爵位を与えるから、そのつもりでな。ジル』」

「ジャスパー将軍? これ、ジル教官からの手紙ですよ?」

「ジルコニア・ギルフィス・ランヴェール国王です」

「え?」

「混乱するのも仕方ありますまい」

謁見の間に一人の男が入ってくる。急いでメイドが椅子を用意する。

「皆さま、すみません。書類の山が多すぎて。あ、私、このような者でございます」

その男は名刺を手渡し始めた。

「魔王ラ・ベル?」

「これは失礼しました。魔王さま。私はランヴェール王国のジャスパー将軍です。この場のことの全権を委任されております」

「補佐官のテレス副将軍です。お見知りおきを」

「魔帝・木村拓陛下は、ランヴェール王国謁見の間で元の世界へ帰還されるとのことですので、今後の実務は私にお任せください」

「あ、ジャスパー将軍! 聞いてほしいことがあるんですけど?」

「なんでしょう? 勇者さま?」

「実は、この魔王城の謁見の間の魔法陣で、僕も帰れるかもしれないんです。すべてのことが済んでから、一度試してもいいですか?」

「うーむ……それは……国王の判断を仰がなければ即答できませんな」

「そうですか……」

その後は、魔王とジャスパー将軍の実務的な話が続いた。

「それでは皆さん、ランヴェール王国へ向かいましょう!」

「ジャスパー将軍、わかりました! ところで、すごく気になって仕方ないのですが、リンたちは無事ですか?」

「勇者さま、国王が見事に解決しましたぞ」

「本当ですか! それは良かったです」

----三日目の野営地

ジャスパー将軍率いる部隊は、およそ八千。

不測の事態に備えて、野営地の中心に重要人物のテントが配されていた。

焚き火の火が風に揺れる。

「勇さ、こういうのが異世界移転だよな!」

「まあ、確かにこの世界はキャンプが多いですよね」

「俺はやっぱり勇がうらやましいや」

「拓さんの一年は、玉座とトイレだもんね」

こうして三日目の夜が穏やかに過ぎていった。

----首都ランヴェールの見える平原

「ちょうヤバい! マジ中世って感じやん!」

「拓さん、楽しい?」

「興奮しまくりかも!」

----首都ランヴェールの街中

「買い物したい!」

「僕は肉の串焼きを一本だけ食べたことがあるなあ。あとは武器屋をぐるぐるしてたなあ」

----ランヴェール王国 謁見の間

「よお、魔帝さん、兄ちゃん。あと、もう一人は誰だ?」

「魔王ラ・ベルと申します。こちらをご覧いただきたい」

やはり名刺を渡した。

「へーっ! 魔王国には変な風習があるんだな」

「まあ、前の世界ではサラリーマンでしたので」

――「転生者なのーーー!!!」――

全員が驚きの声をあげる。

「まあ、もう十年、魔王職をしていますので」

「僕! 質問があります! 魔王さまは日本人ですか?」

「はい。羅門鐘俊です」

「お前、なんで俺には教えてくれなかったんだよ!」

「木村さん、単純にタイミングを外したのと、私、この世界で妻子がございますので」

「お前ら! なんかもう、めちゃくちゃだな! 魔王さんは元の世界に帰る気はないのかい?」

「いやはや、あの世界のブラック企業で働くのはこりごりですから。ハハハ」

「ところで魔帝さんは、この魔法陣で元の世界に帰りたいんだよな?」

「よろしくお願いします。事後のことは魔王ラ・ベルと協議してください」

「わかった。試しに乗ってみてくれ」

「はい! うまくいきますように」

魔帝はいそいそと魔法陣の中心へ向かう。

魔法陣が光り輝いた!

「あんっ!」

それが、この世界で魔帝が最後に残したセリフだった。

「行ったな。こんな簡単に行っちまうのか」

「ジル教官! 聞いてください!」

「なんだ? 兄ちゃん?」

「実は、魔王城の謁見の間の魔法陣を、僕も使えるみたいなんです」

「なんだって!?」

「だから、僕も帰りたいです!」

「爵位をやって落ち着いて暮らせるように段取りをつけてたんだが、こっちが勝手に呼び出して、帰るなとも言えねえわな。わかったぜ」

「ありがとうございます!」

こうして戦乱の世は、終わりを告げようとしていた。

魔帝が帰還しましたね。

それにしても魔王ラ・ベルが羅門鐘俊とは恐れ入りました。羅鐘。

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