入居そして
本日二話目です。よろしくお願いします。
轟勇は、花小金井の実家で早朝から軽自動車に荷物を積み込んでいた。
車に入りきらない物は段ボールに詰め、宅急便で日付指定で送ってある。
「父さん、母さん、じゃあ俺、行くわ」
「運転、気をつけてね」
母の気遣いの言葉が胸に染みる。
「毎月、少しくらい仕送りしろよ」
馬鹿親父のこれは、たぶん本音だろう。
慌てることもないので、途中で休憩を入れながら、変わっていく景色を楽しみつつ走り、約六時間で金沢に着いた。
到着すると、さっそく不動産屋へ鍵を受け取りに向かう。
「こんにちは。犀川ハイツに入居予定の轟です。鍵をもらいに来たのですが」
「はい! お待ちしておりました。こちらがお部屋の鍵になります。くれぐれも、おかしなことがあれば電話してくださいね」
「はい、わかりました。これからもよろしくお願いします」
そう言い残し、勇は車で犀川ハイツへ向かった。
駐車場に車を停め、荷物を部屋の前まで運ぶ。
「まずは、荷物を入れる前に部屋の掃除だな」
小一時間ほど掃除を済ませ、荷物を次々と部屋に運び込んでいく。
「あ、布団買わないと!」
勇は車で十分ほどのところにあるイトリへ向かった。
「この三点セットと、枕でいいかな」
大きなカートに布団と枕を入れ、レジで会計を済ませて車に積み込み、部屋へ戻る。
気がつけば、もう辺りは夜になりかけていた。
「そういえば、近くにスーパーがあったよな」
これも車で十分ほどの場所に、ナピタという大型スーパーがある。
「金沢といえば、やっぱ寿司だよなぁ」
そう思いながら寿司コーナーへ行くと、三割引の寿司パックが並んでいた。
「安いな。それに、新鮮で美味そうだ」
ささやかな新生活への感動を胸に、勇は新しい自宅へと帰る。
玄関に入り、電気のスイッチを入れる。
――点かない。
「あれ?」
ガスコンロに火をつけても、火はつかない。
「まさか……?」
当然、水道も出なかった。
「あー、やらかしたわ!」
そう、何一つ契約していなかったため、どれも開通していなかったのだ。
「もういいや。今日は寿司食べて寝よう」
寿司パックにちょびっとだけ付いている醤油を大切に使いながら、勇は寿司を完食した。
「あー、運転も疲れたし……今日はもう寝よ」
時刻は、まだ七時半を少し過ぎたところだった。
勇は適当な部屋に、適当に布団セットを広げ、横になる。
「明日は朝から散歩して、またイトリでカーテン買って、リサイクルショップで洗濯機と冷蔵庫だな……」
ぼんやりと天井を眺めていると、そこにうっすらと文様が浮かび上がる。
「夜光塗料かな……? 誰か落書きしたのか?」
長距離移動と引っ越しの疲れで、強い眠気が押し寄せてくる。
その中で、気のせいか、天井の文様は次第に強く、はっきりと光り始めていた。
そして勇は、深い眠りへと落ちていった。
果たして金沢新生活初日の勇はどうなるのでしょうか?
それは僕も知らない。




