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転移勇者と愛しき人と  作者: 炊飯器と電気ポット
19/42

大破壊のあとには絶望か希望か

神の如き力を見せた勇。

そして謎の声。

もはや戦乱の破壊神とも呼べる勇の未来は?

ドナテスト平原のジェルビー軍のテントの中で軍事会議が開かれていた。

「勇者様よ、あの空の雲を消し去った攻撃はなんだったのだ?」

「光の矢、ですね」

「光の矢か…。」

「ジェルビー将軍、物見を出されてるんでしょ?その報告を待ちましょうや」

ジルがテントの中に漂う緊張感を中和している。

「失礼します!物見が一隊戻りました」

「中に入れよ!」

「はは!」

一人の兵士がテントに入り膝をついた。

「我々第七隊はベルギル山地へと偵察に入りましたが、すでに山岳地帯は無く地平線まで更地が広がっていました。帰還途中で魔族らしき者を発見しましたが、すでに事切れており…多数の死者…いえ!ベルギル山地の魔王軍は壊滅的被害を被ったと推測します!」

「下がってよいぞ」

「ジェルビー将軍進軍するのかい?」

「ジルはどう考えている?」

「講和か降伏の使者が来るだろうねえ」

「そうであろうな」

「神の祝福とは言ったが、魔王軍にとっては死神だと感じただろうなあ」

「ジルよ、勇者様の鎧は何故この様な禍々しいものなのだ?」

「成行きとしか言いようがありませんねえ」

ジェルビー将軍率いる十五万の進軍を阻む山岳地帯はもう無い。ここで一気に戦線を押し上げて魔王城へ攻め入ると言うのが上策かも知れない。だが軍事会議に参加する全員をためらわせる何かがあった。


「申し上げます!魔王軍より使者が到着致しました!」

「少し待つように伝えろ」

ジェルビー将軍はこの事態にどのように対応するのが正しいのか選択肢を探している様子だった。

「ジルよ、講和であればどうするか?降伏などあり得るのか?」

「俺は両方ともあると思うよ、更地を進軍してもう一度勇が光の矢を放てば魔王城まで被害がおよぶかも、知れないからな」

「そうであろうな、使者をここへ呼ぶのだ」

「はは!」


しばらくすると一人の武将らしき人物が帯刀せずにテントへと入って来た。

その男はひざまずくと頭を下げて声を発した。

「ランヴェール王国の皆様、私はシルヴェスター大将軍でございます。この度降伏の儀をお伝えに参りました」

「私はランヴェール王国のジェルビー将軍である。降伏の使者、大変ご苦労なことと存じます。さて、降伏と一言で言われますが、どのような条件を望まれておられますか?」

「第一にジェルビー将軍の率いる龍神との対話を魔帝が望んでおります。領土に置きましては紛争開始時まで魔王国は撤退します。賠償金などの細かい点はお互いの合意の上で決めて行きたいと考えております。なにはともあれ龍神様と魔帝の面会を今日の内にでも行って頂けませんでしょうか?」

「なるほど、その条件であれば受けられないこともないのだが、何故に魔帝がその龍神とやらに会いたいと申しておるのか?」

「ジェルビー将軍、実は私にも詳しいことは存じ上げておりませんが、降伏の第一の条件が面会なのです。ご不安であれば全軍で魔王城へ」

「シルヴェスター殿よ、先ずは龍神とやらの認識を改めて頂きたい。彼は龍神などではなく勇者なのです」

「あの禍々しい者がですか!?これは大変失礼いたしました!我が魔帝は勇者様との対話を望んでおられます」

「シルヴェスターさんよ、なんで魔帝さんはそこまでうちの勇者にこだわるんだい?」

「お会いして頂きたいとしか申し上げられません」

「シルヴェスター殿よ、しばし話し合うので席をはずしてくださらないか?」

「かしこまりました」

「誰かシルヴェスター殿をテントにご案内しろ」

「はは!」


-----しばしの間沈黙が続いた。


「で?どうするか決めてるんだろ?ジェルビー将軍?」

「そうだな、予想だにしなかった状況であるが我が王国の危機を完全に取り払うためには魔王国の降伏を受け入れるしかあるまい」

「あんなにてこずってたのにこんなに早く終戦を迎えるのか…。勇者召喚の儀式とやらはとんでもないものだったな」

ジルはニヒルな笑みを浮かべていた。

「誰か異論はあるか?」

ジェルビー将軍が皆の顔を見回した。どうやら異論はないようだ。

「よろしい!シルヴェスター殿をお呼びしろ」

「はは!」

「ジェルビー将軍、当然の事だが俺も行くぜ!」

「そなたは第一王子であろう!まだ完全に安全が確保されているという訳ではない!そなたはここで待機だ!」

「じゃあ第一王子の命令として同行を命令する」

「ちょっと待ってください!ジル教官が王子ってどう言う事なんですか?」

「勇者様、ジルコニア・ギルフィス・ランヴェール様は第一王子様なのですよ…」

「どうりで態度がデカいと思いました!やっと合点がいきましたよ!」

「兄ちゃん!態度がデカいはおおきなお世話だよ!」

軍事会議のテントに笑いが起きた。

「シルヴェスター大将軍が参られました」

「ここへ」

「は!」


シルヴェスター大将軍が再び跪いた。

「シルヴェスター殿顔を上げてくだされ」

「はは」

「我々ランヴェール王国ジェルビー軍は戦場での全権委任されている私の決定により、魔王国の降伏を受諾する。直ちに全軍をもって魔王城へ向かう事とする。なお協定を無視した威嚇行為、軍事的な行為が行われた場合は勇者の力をもって全力で魔王国を滅ぼすであろう」

「ジェルビー閣下、私が先導致します」


-----魔王国魔王城謁見の間


「良く来てくれた!私が魔帝、木村拓である!」

「ちょっと待った!今木村って言いました?」

「そうだ木村だ、お前は誰なのだ?」

「ランヴェール王国の勇者、轟勇です!」

「え?お前って日本人なの!?」

「やっぱり木村さんもですよね?どちらからですか?」

「俺は金沢からここへ召喚されたんだよ」

「え?僕も金沢からですよ!?」

「なんだって…。ちなみに轟くんはどこに住んでたの?」

「最後に住んでたのは犀川ハイツです」

「405号室か!!!」

「木村さん!なんでわかるんですか?」

「そりゃ、不動産屋で入居者がいなくなるって聞いてたからさ…。まさかとは思ってたけど、住み始めて一か月くらいしたらそこの魔法陣の上で弁当食ってたんだよ」

「ところで木村さん?魔王国なのになんで魔帝なんですか?」

「俺を召喚したのが、そこにいる魔王さんで。本当は魔人を召喚しようとしてたのに俺が召喚されてな!魔術師に鑑定してもらったら魔帝とか言われたんだよ」

「お互い大変でしたね…」

「轟くん聞いてくれよ!この玉座が古い特別な魔道具でな、ここに俺が座ったら皆んな気が荒くなるは、魔王国全土のダンジョンブレイクが起きるわで、俺はトイレに行くときだけ玉座から離れるんだけど、魔王軍の統制が効かなくなるから、この一年ずっとここで寝起きして食事もしてるんだよ!まいったよね!」

「で、なんでランヴェール王国に戦争をしかけたのですか?」

「魔術師が言うにはランヴェール王国の謁見の間にある魔法陣で帰れるって言われてな」

「戦争しろと!命令したんですか?」

「まさか!帰りたいって言ったら俺の命令は絶対だ!とか皆んなが言って戦争を始めたんだよ、やめろって言っても魔帝様万歳!と言うノリでさ、どうしようもなかった訳よ」

「兄ちゃん、なんか良くわかんねえけど。魔帝とは同郷なのか?」

「同郷もなにも住んでた部屋も同じでした」

「ジルよ!この戦争はいったい全体なんだったのだ!!」

珍しくジェルビー将軍が魔王城の謁見の間で叫んでいた。


まさかの犀川ハイツ!!

何人が異世界に転移しているかは不動産屋しか知らない。

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