表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移勇者と愛しき人と  作者: 炊飯器と電気ポット
16/41

夜明けのため息

本当の意味での勇にとっての初陣。果たしてどのような戦果を上げるのであろうか。

早朝、陽がうっすらと空を照らし始めた頃には、ジェルビー将軍率いる十五万の軍勢はドナテスト平原に布陣していた。

僕は主攻と呼ばれている軍勢の中央にいた。

魔王軍二十五万の軍勢は、目視できる平原の遥か彼方に布陣しているようだ。

……少し遠いかな?

僕の後ろには、トーマスくんという兵士が率いる勇者隊のメンバー五人が控え、闇夜の矢を数百本管理していた。

そこへ伝令の馬が駆けてくる。

「勇者隊、いつでも始めてください!」

「わかりました!」

僕は闇夜を構え、敵陣中央に狙いを定める。

「勇者隊! もう少し上を狙わないと、敵陣には届かないのではありませんか?」

トーマスくんがアドバイスをくれる。

だが、この一矢が届かなければ、その意見を参考にしよう。

「トーマスくん。試しに撃つから、耳をふさいで口を開けるよう、皆に言ってくれるかな?」

「はい? ……わかりました!」

僕は闇夜を全力で引き絞り、遥か遠くの敵陣中央へ矢を放った。

――フンッ!!

周囲の空気が一瞬で減圧したかのように、僕の鼓膜がキュッと縮む。

刹那の時が過ぎると、敵陣中央に土煙が上がり、何かが吹き飛んでいるのが見えた。

「トーマスくん、ちょっと確認するから、少し離れてくれるかい?」

「わかりました!」

勇者隊のメンバーが数歩後退したのを見届け、僕は全力で垂直跳びをする。

空気を切り裂きながら、僕は上空へ舞い上がった。

俯瞰すると、敵陣中央の射線のかなり奥まで、敵兵が飛散しているのが確認できた。

「……これは矢というより、レーザービームみたいなものだな」

下降しながら、僕は闇夜の運用方法を考える。

「……あれを試してみるか!」

着地した僕は、闇夜につがえた三本の矢を全力で引き絞る。

「これで威力が落ちるのかな……?」

――フンッ!!

敵陣中央の三か所から土煙が上がり、魔王軍は明らかに統制を乱した。

「逃さないよ!」

三本の矢をつがえたまま、僕は再び上空へ跳躍し、魔王軍後方へ狙いを定めて放つ。

――シューーーン!!

――ドガドガドガーーン!!

退路を断たれた魔王軍は、歩兵戦の陣形を崩し、右往左往していた。

おそらく有能な指揮官がいないのだろう。

僕は着地し、トーマスくんから次々と矢を受け取り、ほとんど乱れ撃ちのように矢を放ち続けた。

魔王軍は完全に算を乱し、逃げ惑うばかりに見える。

再び伝令の馬が駆けてきた。

「勇者様! 追撃をかけますので、一時後方にお下がりください!」

「わかりました」

僕は伝令の兵士とトーマスくんたちと共に後方へ下がった。

遠くでジェルビー将軍が叫んでいる。主攻の中央部隊十万による殲滅戦を行うらしい。

左軍と右軍は動かさないそうだ。

それにしても、闇夜はいい弓だ。

遠距離から攻撃できるし、戦争をしている実感というか、生々しさがあまりない。

昨日……いや、さっきか。

軍議で提案しておいて良かったな。

闇龍は肉片製造機みたいなものだから、正直しんどいんだよね。

後方へ下がると、ジル教官、バッシュ先生、そしてジェルビー将軍が迎えてくれた。

「兄ちゃん、お前……本当に勇者なんだな!」

「ジル教官、僕なんか全然ですよ。そもそも戦争なんて興味ありませんし」

「そうか? 結構楽しんでるように見えたぞ?」

「ジル、僕は本当に、この戦争を早く終わらせたいんだ」

バッシュ先生は、嬉しそうな顔で僕を見つめていた。

「勇さまは前代未聞の弓使いですね。あれを弓と称して良いのか、わかりませんが」

ジェルビー将軍がゴホンと咳払いをする。

「勇者殿! まさか、これほどの武力とは……。

弓ひとつで魔王軍の半数近くを倒すとは、恐れ入りました!」

「兄ちゃん、今日はもう出番はないからよ。茶でも飲もうや」

僕とジル教官はいくつか残っているテントの一つに入った。

どれも似ていて、見分けはつかない。

「あら! 勇さま、お早いお戻りで!」

「姉ちゃんたち、茶を淹れてくれるか?」

「もちろんです、ジル教官」

リンたちはとても美味しいお茶と、お菓子を持ってきてくれた。

リンもアンナもキャシーもベルも、皆ニコニコと働いていて、どこか安心したような様子だった。

早馬が駆ける。

ジェルビー将軍からの書状は、リレーのように馬から馬へと渡され、王宮へ届いた。

それをエドワード・ギルフィス・ランヴェール国王が手に取る。

「……なんたることだ。

単騎で、およそ七万の魔王軍を殲滅せしめるとは……」

国王は深いため息をついた。

「王よ、進言いたします。

この戦いに終止符が打たれた時、勇者を排除するのが賢明かと」

「殺せと言うのか!? しかし、どうやって!?」

ジャスパー神官長は、含み笑いを浮かべて呟いた。

「万事、この私めにお任せください」

ドナテスト平原の彼方から、雷鳴が響いていた。

強すぎる戦力は他国にも脅威だが、自国にとっても猛毒になり得るのかも知れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ