ドナテスト平原での軍議
ジェルビー将軍の予想を上回る進軍でドナテスト平原に到着した勇一行。勇者の初陣を飾る重要な軍議が開かれようとしていた。
僕はジル教官とバッシュ先生と、変わった形の馬車に乗っていた。
普段乗せてもらっている馬車よりも流線型で車高が低く、車輪も木製の輪に鉄をはめたものではない。
「ジル教官? この馬車、普通じゃないですよね?」
「兄ちゃん専用の特製馬車らしいぜ!」
「え? いつの間に!」
「最初の勇者召喚の儀式の頃から、王国の一流の職人が研究して作ってたらしいぜ。あ! あと今日からな、俺はジル、バッシュ先生はバッシュって呼べ」
「え? いろいろな意味で“は?”なんですけど、ジル教官?」
「勇者様、戦陣では勇者様のほうが格上なのです。よって今より我々に敬称は不要なのです」
そんなこと言われてもなあ……。
でも軍律というものを座学で学んだし、軍は規律が大切だ。
よし、試しにジル教官をジルと呼んでみよう!
「……ジル?」
「なあに? あなた?」
え!? 夫婦漫才なの!?
僕は変なツボに入って、笑い転げてしまった。
「ジル様、ここはふざけてはいけませんよ!」
「いや、バッシュ、悪かった! 兄ちゃんが緊張してないかと思ってさ、ついな!」
「ジルきょ……ジル。この馬車はいつ出発するの?」
「とっくに出発してるよ!」
「え!? いつの間に?」
少し緊張がほぐれたせいか、僕は眠気を覚え、そのまますやぁと眠ってしまった。
「兄ちゃん、起きろ! 乗り換えだ!」
「え? 乗り換えるんですか?」
そうして馬車を乗り換え、野営して食事をして寝る、を繰り返しているうちに――
「兄ちゃん! ドナテスト平原だ!」
あっという間に着いてしまった。
ジェルビー将軍と、女の人を含めた数人が驚いた顔をしている。
とても広い野営地で、警護の兵たちも交代で休みながら疲れを癒しているようだ。
一つのテントに皆が集まる。
明日の進軍の作戦を練るためらしい。
夜中なんだから寝ればいいのにな。
しかも、何を言っているのかよくわからない。
僕はそっとテントを抜け出し、馬車から闇龍を取って背に担ぎ、散歩に出ることにした。
ドナテスト平原は星がとても綺麗で、天の川のような星空も見える。
地球とほとんど変わらないな。
一時間くらい歩いただろうか。
目の前に、巨大な人型の存在が横になって眠っていた。
周囲には変な獣たちも、皆眠っている。
そこへ松明を持った、アニメで見たゴブリンのような人型の何かが、
「ギャッ、ギャッ!」
と叫びながら、僕に近づいてきた。
巨大な人型も、一つ目の大きな瞳を開いて立ち上がる。
……でかいなあ。
大きなハンマーのようなものを振り下ろしてきたので、僕はさっとかわし、闇夜を大きく袈裟懸けに振り下ろした。
ズガーン!
巨大な人型は弾け飛び、周囲にいた数多の何かも吹き飛んでいった。
だが、まだ僕に敵意を向けて駆け寄ってくる影は多い。
僕は縦横無尽に闇夜を振り回し続けた。
十分ほど経ったころ、周囲には何もいなくなった。
……いや、肉片はめちゃくちゃあるけど。
タカタッタカタッ!
多くの馬の足音が聞こえる。
「見つけたぞ、兄ちゃん! この馬に乗れ!」
「ジル教官!」
「馬鹿野郎! いいから乗れ!」
「はい!」
こうして僕は、ジル教官率いる千の騎馬隊と共に野営地へと戻った。
ジル教官は僕の手をぐいぐい引っ張り、軍議をしていたテントへ押し込む。
「勇者様! 何を考えておられるのか!」
「いや、僕は散歩をしていただけなんです」
「夜襲を散歩という馬鹿がどこにいる!」
「本当にすみません。ところで……どなたですか?」
「この軍を指揮しているジェルビーだ。覚えておくように! そして隣がテレス副将軍だ!」
「まったくもう。勇者様の初陣を飾る作戦を計画してたのに、台無しじゃないの」
「ところでジル、状況はどうだったのだ?」
「ざっと見たところ、サイクロプス数十体と魔獣数千体が、勇者様お一人の夜襲で殲滅されました。残兵は撤退した模様です」
「そんなことがあるのか……。まさに神の祝福を受け、人間を超越した存在だな」
ジェルビー将軍はジルの報告を受け、テーブルに手をついて地図を見つめていた。
「すいません、ジェルビー将軍。明日はどういう陣形を組むのですか?」
「それを聞いて、勇者様はどうなさるおつもりか?」
「あ、いや。闇夜という弓矢があるのですが、全力で撃ったことがないので、初戦で試したいです。陣形中央の最前列に、僕を置かせてください」
「バッシュ、そなたの意見を聞きたい」
「は! ジェルビー将軍! 勇者様の弓は、もはや弓ではありません! ぜひ実戦にて、その全力を試していただければと!」
「そこまでなのか……。わかった、勇者様の進言を受けよう。もう朝まで時間がない。各自、仮眠を取るように! 解散!」
こうして僕は警護の兵に案内され、急遽“僕専用”に指定されたテントへ入った。
「勇さま! おかえりなさいませ!」
「え?」
数日前、王宮の入り口で別れた四人のメイドたちが、なぜかそこにいた。
「少しでもお休みください! マッサージしますね!」
もみもみ。
移動の疲れと散歩の疲れが一気に出て、僕はすぐに眠りに落ちてしまった。
勇のヌケサクぶりとチート感がすごいですね。
それにしても散歩で敵地に入るなんて方向音痴なのでしょうか?




