ジェルビーの苦悩
ドナテスト平原の戦地から王宮へ戻り、ほとんど休む間もなく戦地へ戻るジェルビー将軍。
魔王軍との戦いに終止符が打たれる日がくるのか?
ジェルビー将軍は軍事会議の後、王宮で一泊し、夜明け前にはドナテスト平原へ向かっていた。
兵力は騎馬一千。
一日に二度ほど馬を休ませ、五日間を要する行程である。
「かなり戦場を離れてしまったな」
戦地の状況は、テレス副将軍から早馬によって随時報告が入っている。
テレスは女将軍でありながら、冷静な判断力を持ち。なにより状況が不利となれば実に巧みに部隊を戦線から離脱させる才能を有していた。
単騎での戦闘能力も高水準だが、それ以上に類まれな戦闘指揮能力を備えている。
ジェルビーはテレスに、無理に攻めず前線を膠着させるよう言い含めてあった。
道中、兵糧を運ぶ部隊をいくつも追い越した。
戦争において兵糧は命である。
兵站の道筋はいくつも用意され、各部隊へ滞りなく物資が届けられていた。
「魔王軍との戦いが始まって、すでに一年余り……。いつまで物資がもつか、際どいところだな。せめて半年前に勇者が召喚されていれば、これほど苦戦を強いられることもなかっただろう」
ジェルビー将軍は独り言が癖になっているようだった。
移動を開始して四日目、テレスからの早馬が到着した。
「何があったのだ?」
ジェルビーの補佐官であるウィンズが、伝令の内容を読み上げる。
「閣下! 魔王軍が前線に巨大なサイクロプスを多数出撃させ、対応に苦慮しているとのことです!」
「またか! なぜ魔族や魔物は、急に大型化し攻撃力まで増しているのだ!?」
ジェルビーは歯噛みした後、ウィンズに命じた。
「ウィンズよ、全速でドナテスト平原へ向かいたい。部隊の指揮を任せられるか?」
「かなりの馬が潰れると思われますが、よろしいですか?」
「全兵に通達せよ!駆けることが戦だとな!
馬を失った者は歩いて追いつけ、と伝えよ!」
「かしこまりました!」
ジェルビー将軍が乗るのは、馬車というより二頭立ての戦車に近いものだった。
通常の馬車の数倍の速度で移動できる。
それに引きずられるように、騎馬一千の速度も一気に引き上げられた。
土煙を上げ、部隊は最大戦速で原野を駆け抜けていく。
ドナテスト平原の陣地へ到着したのは夜半だった。
ジェルビー軍十五万は野営地でテントを張り、休息を取っている。
到着時、騎馬一千は八百にまで減っていた。
警護兵がテレスのテントへ、ジェルビー到着の報を伝えに走る。
しかし予想より早く、テレス自身が姿を現した。
「閣下おかえりなさいませ、お早いご到着でなによりです!」
「サイクロプスの報を聞いてな。駆けることが戦だと兵に言い聞かせた。どうやら二百ほど、馬を失ったようだ。数日中には歩いて合流するだろう」
「閣下の鬼神のごとき進軍、敬意を表します」
「よい、テレス。現在の状況を聞かせてくれ」
テントの中では、ジェルビー将軍とテレス副将軍を中心に、軍師二名と各部隊長が地図を囲んでいた。
「昨日、魔王軍は一度、全軍撤退しました。
しかしその直後、サイクロプス数百と大型魔獣数千が前線に出現しました。我が軍は戦線を後退させ、弓などの遠距離攻撃で対応していますが……決め手に欠けています」
「そうであろうな」
ジェルビー将軍は、テレスの判断に静かにうなずいた。
「閣下」
軍師のボサが口を開く。
「早馬の情報では、このドナテスト平原へ勇者様が向かわれているとのことですが、到着はいつ頃になるのでしょうか?」
「私は軍事会議の翌朝に出立した。
会議では、勇者は二日後に出立すると聞いている。
よって、早ければ三日後には到着するはずだ」
テレス副将軍は腕を組み、問いかける。
「閣下。勇者様は、戦局を覆すほどの力をお持ちなのでしょうか?」
「神の祝福を受け、人の域を超えているとは聞いているが……。私もまだ、この目で見たわけではないのだ」
会議用テントのランプが、時折ふっと暗く揺れる。
「伝令! 伝令!」
「会議中だぞ! 何事だ!」
テレス副将軍が鋭く一喝する。
「はっ!勇者御一行を名乗る部隊が、すでに到着しております!」
「……いや、早すぎる……!」
ジェルビー将軍は、ランプに引き寄せられて飛ぶ羽虫を、無言で見つめていた。
魔王軍には色々と謎が多いですね。
突然の巨大化とか。
勇者である勇は戦地でどういう戦いをするのか!?




