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転移勇者と愛しき人と  作者: 炊飯器と電気ポット
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考えるのをやめよう

感受性豊かな10代の終わりに殺人という行為は辛いものであろう。

朝起きて用意してくれた朝食を食べて格闘訓練。


格闘訓練とは言ってもサンドバッグのような物にパンチしたら粉々になったので、型を教わる感じ。


昼食後座学で歴史を学んで訓練。最近は馬術なども科目に入ってきてる。


日が暮れると処刑場に行き弓で処刑をする。最近は心理的な抵抗感はない。


ある日から柱に括り付けられてない死刑囚が動くのを弓で殺したりしている。


ジル教官が新しい訓練を始める。と言うからどういうものかと思えば、元軍人の死刑囚との格闘訓練だった。


「思い切りやれ!」


ジル教官は何かを分析するような目つきで僕を見ている。


死刑囚には僕に勝てば減刑になるという条件が付けられているので必死の形相で襲いかかってくる。

僕は相手の動きを良く見ながら左ジャブを打つ。


パーーーン!


顔に打ったはずの左ジャブで上半身上から弾け飛んだ。


正直我ながら恐ろしい。


昼間は理性がかろうじてあるが、夜の処刑場は別だ。


その後で湯浴みをして、マッサージを受けて夕食を食べて寝るという日々だ。


リンやアンナ、キャシーとベルの四人のメイドたちは身の回りのことを丁寧にしてくれている。

その時の何気ない会話が心の癒しになっていた。


ある朝。


「おーい、剣が仕上がったそうだ」


「そうですか」


「なんだい、気が乗らねえ声だな」


「たぶんですけど、とんでもない凶器が出来上がってる気がしてます」


「まあ、兄ちゃんは素手でも凶器だしな。取り合えすおやっさんが待ってるから行くぞ」


「わかりました」



僕は気が重かった。



ジル教官はバッシュ先生とは違い徒歩で街中を行く。


「ジル教官は馬車を使わないのですか?」

「兄ちゃんは異世界から来てるんだし、せめてこうして街中を歩けばランヴェール王国にも愛着が湧くかも知れないしな、お!あれ美味そうだな!」


そう言って串焼きの謎肉を二本持ってきた。


「食べてみろ、王宮の飯よりは美味いぞ」


「僕にはそんなことは言えないですけど…。うっま!」


「そうだろう?」



そしてギルビル工房へ到着した。



「おやっさん!連れて来たぞ!」


「待ってたぞジル!」


大きな木のテーブルの上には二本の剣が置かれていた。いや、一本は剣だけどもう一本は鉄塊のように見える。


「ジル持ってみろ」


「おう」


ジル教官は鉄塊の方を手にした。 


「おいおい、持ち上がらねえじゃねえか」


「お前さんのはこっちじゃ」


ジル教官は普通サイズの剣を手に取り軽く振ったりしている。


「おやっさん、これは良いな」


「そうじゃろうそうじゃろう」


「兄ちゃんこの馬鹿みたいにデカい剣持てるか試してみろ!」


「ジル教官、流石にこれは持てませんよ!あ!軽いわ!」


「勇者様よ床にぶつけないように軽く振ってくれんかの?」


「わかりました」


僕はその鉄塊を上段に構えて素振りをする。


ブン!



パリーン!パリーン!



床は壊れなかったが工房のガラスというガラスが粉々に割れて吹き飛んだ。


「勇者様はめちゃくちゃだな!今度は床にぶつからないように全力で振ってみろ」


ブーン!


工房にあるテーブルも人もひっくり返しになっていた。


僕はその時少し楽しい気持ちになった。



ギルビルさんは厚手の革製の何かを持って来て僕の肩から胸にかけて取り付けた。


「勇者様よ、流石にこの剣は腰には下げられねえから背中でかついでくれ、ここにカチャンとハマるようになってるからよ」


言われた通り鉄塊を背中に担ぐようにすると、カチャンと鉄塊がおさまり運べるようになった。



「勇者様よ、この剣は闇龍と名付けたからな。たぶん龍も殺せるはずだからよ」


「おやっさん、俺の剣の名は?」


「馬鹿野郎!自分でつけろ!」


こうしてギルビル工房を出て王宮へと向かう。

街の人達の目線が痛い。

確かにこれはラノベのコスプレみたいだよな。


「おい、兄ちゃん。今夜からちょっと夜がキツくなるけど気をしっかり持てよ」


何のことだろう?


夜、ジル教官と処刑場へ行くと剣を持った男が二人、僕を待ち構えていた。


ハッキリと言うが戦闘と呼べるものではなく、一方的な暴力行為だった。


翌日には三対一、その翌日には四対一、五対一と増えて行った。十人を越えた辺りから何も考えなくなった。


そうだシラフではやってられない、考えるのをやめよう。僕は考えるという行為を手放すことにした。



あとは腹を切るのだけは絶対にやめようとも思った。臭いで吐きそうになるからだ。

轟勇はある種の試練と苦境にはあるが、快楽殺人者のような異常性が現れてはいないことが救いではある。

だが彼の心を誰が癒すのであろうか。

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